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20.ふも?

 ハプニングはあったが、マリーに血抜きしてもらって骸骨くんが赤牛を抱え上げ、あっさり捕獲が完了してしまった。

 さて、帰ろうかとみんなに声をかけようとした時……待ったがかかる。

 

「ちょっと待つふも、うっしーが牛乳をとろうと思っていた牛に何するふもお」


 ん、誰だ? 声のした方を見てみると……なんというかいろいろ酷い恰好のホルスタインみたいなおっぱいの眼鏡をかけた人型の女子が、腰に手を当ててプンスカしている。

 彼女はホルスタイン柄のパーカーに、ひと昔、いやふた昔くらい前にジュリアナ辺りで流行った黄緑色のボディコンを着た二十過ぎくらいに見えるエキセントリックな女性だった。

 ウェーブのかかり過ぎた赤色の髪の毛の隙間からは牛のような角が二本生えている。どこが凄いのかというと、眼鏡をかけているのだが全く知性を感じさせない事か。

 

「ええと、君は……?」


 俺は話しかけたくなかったが、社交辞令な気持ちで一応問いかけた。

 

「うっしーふも」

「うっしーか……まあ、また赤牛は自然に沸いてくるよ。じゃあな」

「待つふも! せっかくだからうっしーのお店を見ていくふも?」

「いや、いいよ……」


 少し話をしただけで、なんだか疲れてしまった。もういいよな。帰ろうぜ。

 そんな俺の思いを全く汲み取らず、マリーが両手を広げて飛び跳ねる。

 

「ゆうちゃんー、おもしろそうだから行ってみようよー」

「えー」


 気乗りしない俺に、クロが耳元で囁く。


「ゆうちゃん殿、あの様子だと吾輩たちを罠に嵌めるとかは無いと思うのですが……」


 あー、そうだな。あれが演技だとしたら、相当な役者だよ。しゃあねえな、行くかあ。

 

「マリー、少しだけだぞ。少し見たら帰るからな」

「やったー。ゆうちゃんー優しいー」


 俺はマリーに手を引かれながら、うっしーの後をついていき彼女の店に到着した。

 

 店の中は何というか予想外だ。ログハウス調の店内は整然とお札や三角フラスコに入った色鮮やかな液体が並んでおり、レジ横には透明な冷蔵庫があってそこには牛乳やチーズなどの乳製品が置かれていた。

 あの馬鹿面からは想像できないちゃんとしたお店に俺は戦慄した。あのホルスタイン……実はやり手の店長なのか? 俺はレジ横で座っているうっしーを見ると、やはり知性のかけらも感じない。

 うーん……謎だ。どこからどう見てもこんなお店を管理できるようには見えん。見えぬのだトキぃいいいい。

 なんか「ふもふも」と鼻歌まで歌い始めたし……いやでも、お店に罪はない。店内を見てみようじゃないか。

 

「クロ、あそこにあるフラスコに入った液体って……ポーションとかかな?」


 俺は怪しげな三角フラスコを指さし肩に乗ったクロに聞いてみる。

 

「ゆうちゃん殿、あれは色によって様々な効果があるのです。分からぬ物には手を出さないほうが良いと思いますぞ」

「ほうほう。クロが分かる物ってある?」

「んん、吾輩、ポーションには詳しくないのです。お札なら少しは……」

「あ、あのフラスコのやつ、やっぱりポーションなんだ」


 ゲーム的だなあ。でも、その方が俺にとっては分かりやすいから都合がいい。

 

「お札かあ。何か俺に使えそうなものってある?」

「ありますぞ! ゆうちゃん殿、魔法が使いたいと申しておりましたな」

「うん、使えるの!?」

「すぐにとはいきませぬが、あのお札を張れば体に魔力が多少たまるようになります」

「ほおおおお。俺でも?」

「そうです。人間でも体内の水分量くらいはたまりますぞ」

「よ、よくわからないけど、それって体にどんな影響が出るのかな?」

「魔力を使い過ぎると、非常に疲れます。寝れば回復しますぞ」

「おおお。なら試してみてもよさそうだな!」

「回復の際は……吾輩が添い寝します故……はううう」


 あああ、妄想モードに入りやがった。どれが「魔力がたまる」お札なのか分からねえじゃないか!

 んー、仕方ねえ。ここは店主に聞くか……

 

「うっしー、『魔力のたまる』お札ってどれ?」

「ふんふんふんもー」


 鼻歌を歌ってないで、俺の話を聞けえ!

 しかし、呼ばれたのは分かったのか、近くまでうっしーがやって来た。

 

「うっしー?」

「お札を見ればわかるふも。うっしーがメモしてるも?」


 ほう。見ればわかるのか……

 俺はお札を一つ手に取りしげしげと眺めてみる。

 しかし、複雑な文様が描かれていてまるで何が書かれているのか分からんぞ。

 

「裏、裏見るふも」


 うっしーの言葉通りにお札を裏返してみると、サインペンで「ぜつりーん」と書かれていた……

 確かに分かりやすいが……こんなん信ぴょう性がガタ落ちだろお! メモじゃなくて落書きだろこれ。

 こんなん書いてお札の効果が無くなっていたりしないか心配だよ……

 

 んじゃま、探すかあ。

 俺は次から次へとお札を手に取り、「まりょくーたまる」と落書きされたお札を発見する。

 

「うっしー、これ?」

「そうふも。買うも?」

「いくらなんだろ。ついでにそこのチーズも二つほどもらえるかな?」

「チーズ二個とお札一個で三百円ふも」

「安!」


 お札は効果を示さないゴミかもしれないけど、あのチーズ……車のタイヤほどのサイズがあるぞ。いいのかよ……


「うっしー、それはいくらなんでも悪い。これくらいでいいか?」


 俺はふところから諭吉さんを一枚出しうっしーに手渡す。すると彼女は感激したように「ふんもおおおお!」と叫んで、俺に「これはおまけふも」と牛乳瓶を一つ追加してくれた。


「この牛乳は?」

「うっしーの牛乳ふも」


 何故か顔を赤らめておっぱいをぷるるんと震わせるうっしーに不穏なものを感じるが、ダンジョン産のものなら期待はできるだろ……たぶん。


「咲さん、マリー、何か欲しいものがあれば買うよ」

「私は特に無いかな」

「わたしもー」


 二人ともいろいろ見て回ったみたいだけど、目を引くものはなかったみたいだった。

 よっし、じゃあ、帰るとしますかあ。

 

 ◆◆◆

 

 朧温泉宿に戻った俺たちは、親父さんに赤牛を任せて解散となった。

 親父さんが、明日の夕飯に赤牛を出してくれるそうなのでとても楽しみだ。飛騨牛に負けないような味だったら嬉しいなあ。赤牛だけに、滋養強壮の効果とかあったりしたら他の宿にはない正真正銘のキラーアイテムになるぞ!

 

 汗を流して、自室に戻ると布団が敷かれていて、放り投げたはずのリュックサックも元の位置に戻してくれていた。

 部屋には珍しく猫もいないし、他の人の気配も感じられない。俺は久しぶりに一人の時間を楽しもうと、椅子に腰かけフウと大きな息をつく。

 

 おや、テーブルの上に学校の給食で出るような牛乳瓶が置かれていた。あ、これはさっき「おまけ」につけてくれた牛乳だな。

 せっかくだから、飲もうかなと思った俺は牛乳をゴクゴクと半分くらい飲み干した。

 

 これは旨い。これまで飲んだことのないような濃厚かつ芳醇な味わい。何だこれ、凄え!

 余りのおいしさに俺は残りも一気に飲み干してしまった。

 

 いやあ、さすがダンジョン産だぜ。

 

 しかし、なんだか体の様子がおかしい……何というかムラムラするうう。何だこれ。いや、確かに、寝る時にはいつも猫クロがいるから一人ですることが出来なかった……

 いずれ我慢できなくなるかもしれないと思っていたんだけど、急に来るとはどういうことだ? まさか、この牛乳?

 

 幸い誰もいないから、今の内にやってしまおうか。4280円さんも活躍の時を待っているだろう。確か押し入れの中に……あったあった。

 よっし。

 俺はティッシュを手に取り、クラクラしながらも胡坐をかきズボンに手をかけ……

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