4:修治
「え・・・京子。」
女狐と言われた凜は、泣きそうに京子を見る。
「あはははは。ちょっとした冗談だよぉ~、凜本気にしたぁ?」
「えっ?」
「もぉ~う、独り者の私の前で、そんなラブラブしてたら邪魔したくなっただけよぉ。」
京子は、俺の腰に手を回しながら背中にくっ付いていた凜の横に来て、凜の背中をバンバンっと笑いながら叩く。
「もぉ~、ビックリしたよぉ 京子ぉ~。」
人が増えた事と、空気が軽くなった事により、凜の緊張がほぐれ、俺の背中から外れ、京子と向かい合う。
「京子。ところで淳は何処に言ったんだ?」
「さあ? なんか走っていかれたんで、はぐれちゃったぁ☆」
「・・・アイツ、京子置いて何処言ったんだ・・・たくぅ~。」
俺は淳を探すように辺りを見渡す。その時、俺の開いた背中に誰かが抱きついてきた。
「はぁ~ぁ、やっとぉ、空いたぁ♪ ハァハァ、これが修治君の体温、ハァハァ、これが修治君の臭い。」
俺は抱きついた人を後ろ目で確認すると、俺に抱き着いてきたのは京子だった。
京子は俺の腰に両手を回しながら、粗い息遣いをする。
「ど、どうした?京子。」
「きょ、京子ちゃん、い、いきなりどうしたの?・・。」
「あ、あれ? あの鏡に映ってるのぉ、愛ちゃんじゃない?」
「え?・・あ、あの鏡?」
俺に抱きついた京子に困惑していると、京子は1つの鏡を指差す。すると、そこには確かに人影が映っていた。確かに鏡の人物が鏡を叩いているかのように動いていた。凜は、それが愛かどうかを確認する為、小走りに近付いていく。俺もゆっくりとその鏡に近付いていく。
「愛ちゃん!?愛ちゃんが映ってる!! 愛ちゃん愛ちゃん!!」
凜は鏡に映っているのが、愛であるのを認識すると、泣きながらその鏡に近寄っていく。
俺もある程度近付くと、それが愛だろうと認識する。
だが、その愛の表情がおかしい。泣き叫ぶように鏡を叩いていないか?あの沈着冷静な愛が・・・。
そして、俺は近くにあった2つの鏡にも同じような人影が映っていることに気づく。
「な、なんで・・・淳が此処に。・・・それに、京子?」
淳と京子も同じように鏡を叫びながら叩いていた。
「凜!! ちょっとま・・」
「これ透明ガラスなんだねぇ~ いますぐそっち行くから待っててねぇ・・・え・・・。」
凜が鏡を叩いている愛と同じ鏡に手をつけると、凜の手が少しずつ鏡に吸い込まれていく。
「あ・・なにこれ・・・やぁ!やああああああああああああああ!!助けて助けてええええええ。」
俺は少しずつ鏡に吸い込まれていく凜に駆け寄り、凜の腰を両手で掴み、全力で鏡から距離を取ろうと力をこめる。だが、鏡に吸われる力のほうが強く、凜の手が肘まで鏡の中に吸い込まれてしまった。
「くぅううううううううううううう!!」
「修治君、助けてええええええ、私死にたくない!助けてぇ~助けてぇ~ 京子ちゃん!!」
「ウフフフ、いい気味だわぁ、女狐。私の修治君を取ろうとした罰よぉ。」
「京子ちゃんぅぅ。」
「そんな睨んだ顔しないでよ。愛と同じ鏡に2人一緒に入れるようにしてあげたのに。」
「京子、なんでこんな事をおおおおおおおお、くそぉおおお!!」
「修治君は鏡に取り込まないようにしといたから。」
凜の腰を掴んでいた両手が弾かれ、凜の胴体が鏡に吸い込まれだす。
俺は両手が凜の腰から外れたことにより、後ろに尻餅をつくように倒れこむ。
凜は抵抗しようと、顔を後ろに反らすようにしていたが、その後頭部を京子が掴む。
「やめてええええええええええええ!!」
京子の声が凜の後頭部を掴んでいる京子とは違う所、鏡にいる京子から聞こえる。
「あら?声を出せるようになったの?へぇ~、中々、頑張ったんじゃないかな?遅すぎるけど。」
「うぐぅっ。」
京子は鏡の京子を褒めるように言った後、すぐに凜の顔を鏡に押し付ける。
俺が立ち上がるときには、凜は愛と同様、同じ鏡の中で泣きながら、鏡を叩いていた。
「・・・お前は一体何者だ。」
「あら?私は、修治君がよく知ってる京子だよぉ。」
「・・・京子はこんな事できない。あっちの鏡に入っている京子が本物の京子じゃないのか?」
「半分当たりで半分外れかなぁ~。」
京子は手を払いながら、俺の元に近付いてきて、俺の胸に右手の人差し指を当て、クルクルっと回す。
そして、上目遣いで俺の顔を見て、笑う。
「私も京子。あっちの鏡に入るのも京子。」
「・・・。」
「・・・でこの体は、あっちの京子の物。ウフフフ、見たいぃ?」
「!?」
「そんなに赤くなって・・・修治君、可愛いぃ~。」
「話をはべらかすな。・・・なんで2人も京子がいる?それにあっちの京子の体って?」
「私は元々、鏡で生まれた虚像の京子。来る日も来る日も鏡に報告する京子の虚像。」
虚像の京子は、京子の過去を話し出す。
京子が俺の事が好き・・・
そして、虚像の京子も同じくらい俺の事が好きだということを知る。
「なら・・・、あの三人は関係ないだろう。解放してくれないか?」
俺は、淳と愛と凜を指差して、解放するように頼む。
「修治君たらぁ~、本当に優しいんだから。京子の話してた通りだねぇ。
こうして話せて、くっ付くこともできて、臭うことも出来て、体温も共感できる。」
本当に嬉しそうに潤んだ目で俺を見てくる虚像の京子。
「アンタみたいなウスノロが、修治君と仲良くできるわけ無いじゃない。」
そして、鏡の中の京子を見下した目で見る虚像の京子。
「逃げてぇぇぇ!!修治君!! 殺されちゃう!! 私達にかまわず逃げてええええええ!!」
涙を流しながら、叫ぶ鏡の中の京子。
「逃がすわけ無いじゃない!!誰も誰もぉぉぉ!!修治君との仲を邪魔するもの!修治君を汚すもの!!死修治君もぉぉぉ!!!この私のテリトリーから誰も逃さないわぁぁぁ!!」
「そうかぁ・・。」
「フフフフ、修治君、もっと泣き叫んでもいいのよぉ。他の人達と同じようにぃ。」
髪の毛が空中に漂うように動き、鬼のような形相の京子の顔を見て、
「俺は京子から離れない。」
「それは鏡の中の京子のことかしらぁ?」
「・・・いや、俺はどちらの京子も好きだ。お前も彼女から生まれたものだから。」
「に、逃げてよぉぉ~、修治君!!しゅうじぃぃぃぃぃぃ」
今まで鬼の形相だった京子の顔が元に戻り、そのまま俺の胸に頭を起く。
そして、俺の首に両手を回す。
手を回し終えた虚像の京子は、鏡の京子に視線を送り・・・
「これからアンタの修治君、いただくわ。」
「!?や、やめてぇぇ~!!」
鏡の京子は、虚像の京子が何をするのか理解し、やめるように叫び続ける。
鏡の中にいる凜も、俺に抱き着いている虚像の京子の言葉を理解し、口元を押さえながら泣き続ける。
「修治君は、女の子の生肌触ったことあるのかしらぁ?」
「・・・。」
「だんまりでもいいわぁ~。私も好きよ、修治ぃ。」
俺はなされるがまま、虚像の京子に包まれていく。
俺の今までの人生ってなんだったんだろうと考えながら、目の前の京子を見る。
嬉しそうに俺を見つめて・・・。
そうかぁ・・・京子と俺は結ばれたんだな。
俺は考えるのを止めた。




