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公爵の反乱2

 ヘンリー・スチュアンティックが反乱を起こしてから三日。反軍との交渉は、平行線をたどっていた。


 王国軍の本営になっているのは、王都のはずれの城塞。物見台に登ったレオンハルトは、遠くディファクターの方角を見つめる。

 すでに、方々で小競り合いが起き、怪我人が出ていた。


 イザリエ王国の王都は広く、視界に入るのはすべて王都の町並みだ。ここに住む人々を、レオンハルトは守らなくてはならない。

 

「すまない、アメリア・・・」


 ここにはいない、愛しい人に向かってつぶやく。


「お前を傷つけるだけだと、分かっていたのに・・・」


 家同士の溝は埋まらず、いつ関係が崩れるか分からない。そんな状況の中、幸せな時間だったからこそ、失ったときの衝撃は大きいものだった。


「・・・ちっ」


 舌打ちをして、物見台の柱を力いっぱい殴る。それもむなしいばかりで、ただ拳が痛んだだけだった。


「陛下・・・」


 後ろに控えていたファドリック侯爵──ヴィクター・ブラッドフィールドが、苦々しい表情でレオンハルトに声をかけた。


「なんだ、ヴィクター?」


「あの・・・いえ、なんでもありません。」


 何か言いかけて、しかしためらったのか、結局口を閉ざす。

 普段は国王のレオンハルトとも気さくに話男である。いつもはないその気遣いが、妙に苛立たしいく思えた。


「なんだ?言いたいことがあるならはっきり言え!」


 刺々しく言い放たれた言葉に、ヴィクターは驚き、困ったようだった。


「はい。・・・それほど、アメリア嬢を大切になさっているのだなと思いまして。」


 返す言葉を失った。

 大切だ。

 愛している。

 そんな言葉では、言い尽くせない。


 王は国と結婚する。王妃を持つことも世継ぎをなすための仕事のひとつ。それでもせめて、と思い選んだのがアメリアだった。

 しかし、スチュアンティック家は王家の敵。アメリアとも限度を保って接してきたはずだった。

 スチュアンティック家が、ラン=シュバーウェン家に、ひいてはイザリエ王国に害なす存在となったときに、アメリアのことも含めて早急に切り捨てられることができるように。

 

 それらをすべて忘れて、彼女を愛した。


「陛下!」


 物見台の下で、一人の伝達兵が叫ぶ。


「申し上げます!反乱軍が間もなく王都の東に入るもよう、ご采配を!」


 国と民の未来はレオンハルトにかかっている。ここで迷っている暇はない、それなのに・・・!


「・・・陛下。このヴィクター、陛下にご恩がございますれば、どのような命令も覚悟しております。もちろん、命令違反も。」


 芝居がかったセリフで、ヴィクターは笑った。


「ヴィクター・・・感謝する。」


 不適にニヤリと笑ったレオンハルトは、物見台の下、己を見上げて敬礼する多くの兵たちに向かって叫ぶ。


「進軍だ!全軍、反乱軍本陣を狙い、ヘンリー・スチュアンティックを打て!」


 わぁぁー!と、歓声が上がり、進軍の準備が始まる。

 過ぎたことでくよくよしていても仕方ない。

 叶えたい願いがあるなら、自分の手でつかみとるまでだ。


 (アメリア、お前が欲する平和な未来のために。)











 ヴィクターは薄暗い牢獄の廊下で、高い靴音を鳴らしながら歩いた。牢番と、捕らわれているアメリアに気づかせるためだ。


「ファドリック侯爵閣下。」


 牢番をしていた兵士がヴィクターに気づき、敬礼する。


「ご苦労さま、中へ入ってもいいか?」


「はい。」


 兵士が三重にかかった鍵を開ける。

 暗闇の中で、アメリアは椅子に腰掛け俯いていた。長い銀髪が、椅子の背もたれに、彼女の背にさらさらと流れている。明かりはひとつで、か細い光をゆらめかせているのみ。それなのに、彼女の姿は闇のなかに浮かんでいるのかと思うほど、光を纏っているように見えた。


「誰?」


 不安げな声が、誰が来たのかと問う。


「国王近習をしております、ヴィクター・ブラッドフィールドと申します。」


「ファドリック卿ですか・・・」


 先ほどよりも少し落ち着いた声で、アメリアは呟いた。


「陛下からご命令を受けまして。」


「・・・いま、なんと。」


 アメリアの声が揺れた。牢のなかの空気が動く。ふわりと甘い香りがヴィクターの鼻孔をくすぐった。

 気がつくと、アメリアがヴィクターの目の前にいて、ヴィクターを見上げていた。銀の髪が・・・、それは夜の女神のようで。彼女の手首を縛める鎖が、背徳的な雰囲気を醸し出していた。


 彼の主の愛した人は、おおよそ人には見えない美しさで。


 人々の誰よりも、意思の強い瞳をしていた。


 牢の扉を開けて、ヴィクターは右手を胸に当てて頭を下げる。もはやヴィクターのなかでは、目の前の女性は主と同等に仰ぐべき至高だった。


 (正解、ですよね?陛下。)


「・・・陛下はあなたを求めていらっしゃいます。一緒に来ていただけますね。」

 

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