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只今全話に渡り改稿中です。ご注意下さい。

 

 この国において三本の指に入るだろう、歴史ある名門大学の一角。三百年前に建てられた図書館は、厳かで重々しい雰囲気を湛え、静かで少しばかり息苦しい。レオは足音を立てないようにゆっくりと歩きながら、王国史コーナーの閲覧スペースに住み着いているのかと疑いたくなるほど毎日そこにいる女性のもとを目指していた。

 案の定、窓辺から離れた薄暗いところで、俯いている栗色の頭が見える。驚かせないよう、ここからは少しばかり足音を出して近付いた。


「ミリィ、またそれを読んでいるのか」


 机の上には数冊の分厚い王国史。深い赤の装丁と金の文字で綴られたタイトルは、擦り切れている部分もある。それだけ多くの者に読まれた本なのだ。


「ええ、今はレオンハルト王のところよ」


「あぁ、赤薔薇王か」


 聞き覚えのある名に頷きながら、レオはミリィの隣の席に腰を降ろした。


「そう、ほら見て」


 ミリィは本を掲げるようにして、該当部分を指差しながらレオの前に示す。それこそ、レオだってうんざりするほど読んだ文章。


「この頃はイザリエの最盛期よ。特にレオンハルト王と彼の息子のフィリップ王のころは文学も音楽も絵画も、最も優れていたと言われているわ」


「それくらい知ってる…聞き飽きたくらいにな。俺を誰だと思っている?」


「そうだったわね。まったく、面白くない観客だこと。」


 得意気に言うミリィが微笑ましく思わず苦笑すると、ミリィはむっと不満そうに頬を膨らませて本をおろした。とっくに二十歳を超えてるはずなのに、ずいぶんと可愛らしい反応をする。腐れ縁の相棒であるレオは肩をすくめた。


「…それで、今日は何が目的だ?」


「確認していただけよ。ただ、そうね、少し推測したことがあるから聞いてもらえる?」


「次回のレポートはレオンハルト王政時代か…良いだろう。話してくれ」


 気難しい教授の顔を思い出したレオは、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。それを見たミリィがぷっと小さく噴き出したのをじろりと睨んで、早く話せと促した。


「ふふふ、あの教授はね、貴方のことお気に入りなのよ。わかってあげて。可愛い子ほど虐めたいってやつよ、きっと。」


「勘弁してくれ…嫌っているの間違いだろ。」


 くすくすと笑うミリィの深い青色の瞳と目が合う。それが合図のようだった。


「…レオンハルト王は、ランリアティエ王朝の第二代国王、王妃は…先王朝の血を引く公爵家の令嬢だった。」


 静謐なる図書館で、密やかな声が王国の歴史を語り出した。それは、王国史に載る正史から、レオやミリィのような者だけが知る、秘された真実まで…全て。



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