不備などないよう精進致します。
カムランは俺にすぐに旅立つように言った。裏切り者を警戒して他の者には出発の時間を伝えないらしい。
裏切り者なんて真実の手袋とやらがあればすぐに確かめられるんじゃないかとも思ったが、視界を共有するイデアなどで本人が気付かぬうちにスパイに仕立て上げられているケースが多いらしく、その場合は真実の手袋は反応しないらしい。
旅に出るのにもとの学生服じゃ目立つ上に動きづらいということで、俺はピータンから受け取った綿のような布の服にレザーアーマーという一般的な旅人の服に着替えていた。……のだが。
「なぁ、別に着替えの時ぐらい護衛しなくてもいいんじゃないか?」
「いえ、何か警備に不備があっては護衛失格ですので」
フィルルグはそう言って寝室のドアの前から動こうとしない。……これはすねてるのか?
「悪かったよ不備なんて言って……えっとフィルルグ、さん?」
「フィルと、そうお呼びください。仲間は皆そう呼びます」
あぁ、言葉がなんかトゲトゲしてる。これから一緒に旅するってのにこのままじゃあダメだよな。
「それじゃあフィル、これからよろしくな」
俺は精一杯の笑顔を浮かべる。
「はい、不備などないよう精進致します」
拗ねてるなこれは確実に。まぁこれから護衛する相手に不備がどうとか言われたら心にくるか。
「悪かったよ、さっきは不備なんて言って。フィルは不備なんて無い、完璧な護衛だよ!」
男であることを除けば。
「か、完璧ですか。そうですか」
フィルルグの仏頂面が少し緩んだ気がする。すかさず畳み掛ける!
「あぁ!そうだよ!完璧に決まってるだろ!まずフィルはイケメンだ!イケメンって事は交渉の時相手からの印象も良くなりそうだな!背も高い!戦いだって強そうだ!」
フィルルグのいいところを思いつく限りあげていく。俺の人生に男をひたすら誉めたたえる、という場面が来るとは思わなかった。
「そうです!私はイケメンですし、戦いだって強いんです!か、完璧ですね!」
フィルルグは顔を綻ばせながらそう言った。
……ん?何だろう、えらく自己肯定感が強いな。まぁ確かに俺褒めたけど。
「だ、だろ?それに頭だって良さそうだ!」
「はい!頭だって良いですよ!同年代の中では一番だと自負しています!」
何だろうこのチョロいのにちょっとイラっとくる感じは。俺の思惑通りに進んでいるのに……。
あれか、嘘が嫌いな種族だから自分についても嘘つかないのか。
ちょっとは謙遜してもいいのよ?フィルさん?
まぁ取り敢えず、仕上げだ。
「イデアなんかも使えそうだっ!」
「い、いえ、イデアは……使えない、の……です、が」
俺たちは微妙な空気のままピータンに集合場所として知らされていた第四出口に向かった。