俺は今この世の諸悪の根源を倒そうとしているんだ。
朝食を終えた俺はカムランに呼ばれ、また大ホールに来ていた。
「それでは稀他人殿ぉ、護衛のほうを紹介致しましょうかねぇ」
段々と喋り方が胡散臭い詐欺師みたいになってきたカムランが言う。その顔はこれからの出来事が楽しみで仕方ない、といったニヤニヤ顔だ。
まさか俺の希望の真逆の人を選んだとかか?残念だったな、俺はロングヘアもぺちゃぱいもストライク圏内だ!反抗的な子もいいよね。
ツ、ツンデレ好きなんかじゃないんだからねっ!
「入ってきなさい、フィルルグ」
「はいっ!」
カムランの呼びかけに答える声が聞こえた。恐らく俺の護衛だ。
なるほどフィルルグというのか、勇ましい名前だ。
そしてなかなかにハスキーな声だ。ハスキーというか、低い?いや、もしかしたらコンプレックスに思ってるかもしれない、あまり言わないほうがいいだろう。
大ホールの入り口から入ってきたフィルルグは深くフードを被っていた。なかなか体格がいい。まぁ戦う種族なら仕方ないよね。
フィルルグは振り返った俺の前まで来ると俺に向かって片膝をつき、フードをとった。
「稀他人様の護衛を任されました、フィルルグと申します。この命を貴方様に捧げます」
フィルルグはそう言って深く頭をさげる。
驚いたことにおおむね俺の注文通りだ。
整った顔立ちで、ショートカットで、俺に忠誠を誓ってて、足にも自信がありそうな、男。
……待った、今情報に不備があった気がする。もう一度整理しよう。
整った顔立ちで、ショートカットで、俺に忠誠を誓ってて、足にも自信がありそうな、男。
……うん、不備なんか無いな。なんだ思い過ごしか。
そんなことを考えながら俺はカムランの前まで歩いて行き、左手でローブの襟首を掴み、右手を大きく振りかぶった。
「何をやってるんですか貴方は!」
ピータンが俺の右手を掴む。
「邪魔しないでくれ。俺は今この世の諸悪の根源を倒そうとしているんだ」
ピータンはその言葉を聞いて俺の右手を握る力を強めた。
そんな俺たちの様子を見ていたカムランがニヤニヤしながら言う。
「どういたしましたぁ?何か不備でもぉ?」
……不備…………だと?
俺の中で大切な何かが切れる音がした。
「不備があるかだと⁉︎あるさ、あるに決まってんだろ!不備しかねぇよっ!」
「ふっ、不備……?」
後方で俺を止めるかどうか迷っていたフィルルグが膝から崩れ落ちる音が聞こえたが気にも止まらない。
「女だよ!俺は旅の道中イチャイチャチュッチュ出来るような女の子の護衛が欲しかったんだ!あの時の話の流れでわかるだろうがぁっ!」
「おっかしーですなぁあぁあ。昨夜護衛を選んだ時はぁあぁあ、確かに女の護衛を選んだと思うのですがぁあぁあ」
カムランが俺に強く揺すられながらもニタニタと笑う。
「じゃあなんで男なんだよ!」
「フィルルグが女から男になってしまったんじゃないでしょうかねぇえぇぇ…………ぶっ、ぶふぅっっつ!」
この野郎とうとう吹き出しやがった。
俺は握り拳にさらに力を込めピータンの制止を振り切ろうとする。
「放せよピータン!このクソ野郎ぶん殴ってやるんだ!放せ!」
「やめてください!民長に非礼があったということはなんとなく分かりますが!と言うか言っていることは貴方も大概クソ野郎です!それは同族嫌悪ですよ!」
「なっ!こんな奴と、一緒にすんなぁぁぁっ!」
「ぶっ、ぶふぅっ!ククククク……………あっははははは」
「不備……私に不備?…………この私に……?私が、不用品?ふふ……ふふふふふ」
「あぁ、もう、皆落ち着いてくださいっ!」
なんだかんだで護衛も決まり、いよいよ冒険の旅が始まろうとしている。