無表情のまま。
宙に浮かぶ馬車の中フィルが叫ぶ。
「ギールさん!貴方を一時的に開放します!逃げないで下さいね!」
「逃げやしねぇ!さっさとやれ!」
フィルは頷くとギールを拘束していた槍を手元に移した。
「稀他人!私に捕まりなさい!」
俺は言われるままにクリスティーナにしがみつく。あ、フィルと少し違う、甘い匂いがする。
「はぁああああ!」
掛け声と共にフィルが容易く馬車を槍でバラバラに切り裂き、俺達は各自で着地した。正確にいうと俺はクリスティーナに抱っこされる形だが。
「いてっ!」
突然手を離され地面に体を強かに打ち付ける。
俺がクリスティーナに文句を言おうとして顔を上げると、そこには予想外の光景が広がっていた。
水着の女の子が、大量の水着の女の子が俺たちを囲んでいる。胸の大きな子普通の子小さい子やたらセクシーな水着を着た子パレオタイプの子ワンピースタイプの子、水着の女の子が沢山いる。
なんだこれ天国か?あ、そっか死んだんだ俺、なるほどなぁ。でもこんな死後なら俺は別に……。
「ボサッとするなぁッ!ヨイチィッッ!!」
叫び声と共にギーグが凄まじい勢いで俺の身体を抱え上げる。次の瞬間俺のいた場所には無数のナイフが突き刺さっていた。周りを見渡すとフィル達は既に水着の女の子達と戦い始めている。
俺は馬鹿か!この世界で何かに囲まれていいことがあったことなんて一度もなかっただろうが!
「悪い!ギーグさん。あんたが女の子見て我慢してるのに俺が足を引っ張っちまった!」
俺が謝るとギーグは。
「気にするな!俺もそれで反応が遅れ、馬車を放り投げる結果になった!」
そう叫んだ。……馬車投げたのあんたかよっ!いや、今はつっこむまい。ギーグは今俺を守りながら戦ってくれているのだから。
水着女のナイフを鋭い爪で弾き、肌を傷付けない様に拳を握って攻撃する。たまに胸に攻撃してる気がするのは気にしない。
「ぐうっ!戦いづらい!戦いづらいぞォ!!!可憐な少女をさし向けるとは、おのれ覇王めェッッ!!!」
ニヤニヤしながら叫ばないで下さいますかねギーグさん。ちょっとはかっこいいままでいる努力をして下さい。
「それにしても、数が多いな」
俺はギーグに抱えられながら冷静に戦況を確認する。水着女達は3、40人はいるだろうか、それに対し俺たちは戦闘では役に立たな……指揮役の俺を除き6人だ。個人個人が強いといっても限度がある。そう、限度が……。
「はぁぁああああっ!!!」
フィルの槍の一振りで5、6人が飛んでいった。
「雨を求めよ!」
クリスティーナのイデアで10人程の人が立てなくなっている。
「オォォオオオッッッ」
ギーグが一人一人丁寧に倒していく。他の爪の民たちも全く苦戦している様子はない。
なるほどな、指揮役が優秀だと数で負けていても問題はない、ということか。つらいわー、優秀過ぎてつらいわー。
でも一体何なんだこの集団は。何でみんな水着なんだ?俺へのサービスか?……はっ!待てよ?もしかしてこれからの旅で「稀他人様ー!よくお越しくださいました!こちらは私共からの贈り物のハーレムです!」なんてこともあるんではなかろうか、いやある。あるに決まってる。うわぁ、急にこの旅が楽しみになってきた。
なんて事を考えていたのが悪かったのだろうか。気がつけば俺はギーグごと吹き飛ばされていた。
「ぬぅッ!」
咄嗟にギーグが俺を庇うように抱え込んでくれたお陰で特に怪我とかは無かったけど……ギーグが、吹っ飛ばされた?
一体どんなゴリラが……そう思いながら元いた場所を見ると、本当にゴリラがいた。
比喩とかそんなんじゃない。ゴリラだ。鎧を着たゴリラがハンマーを持って立っている。ただでかい、普通のゴリラの二倍はあるだろうか。
「貴様が稀他人だな?」
ゴリラは無表情のまま俺を指差して言った。これはどっちだ。このゴリラが本当に喋っているのか、それとも俺が意思疎通の能力でゴリラの「ウホウホウホー」を翻訳したのか……一体どっちなんだ。
「ゴリラが……喋った?」
ギーグが呟いた。なるほど、喋るゴリラが正解でした。指輪も発動してないし、これは間違いないだろう。なるほどなー、この世界ではゴリラは喋るのか。まぁ爪の民もほぼ犬だしな、驚きはないよ。いい加減慣れた。
「ゴリラが喋っただとォッ!!!」
ギーグが叫ぶ、お前が驚くんかい。
「もう一度聞く、貴様が稀他人か?」
そう言ってゴリラは無表情のままこちらを見つめる。
喋る、稀他人を探してる、ゴリラ。さてはお前覇王の手先だな?賢い俺はすぐにゴリラの正体を見破った。
「俺が稀他人だったらどうす……」
俺が言い終わるより速く、ゴリラは俺に向かって突っ込んできた。振り下ろされるハンマーを間一髪でギーグが受け止める。
「……げろ」
「え?」
「逃げろ!ヨイチ!!!」
今までにないほど切迫した表情でギーグが叫んだ。その後再び吹き飛ばされたギーグを見て、
俺は自分の置かれた状況をようやく理解した。
「やばい…………やばいやばいやばい!」
ゴリラは無表情のまま、再びハンマーを振り上げた。




