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異ノ覇-コトノハ-  作者: 徳永慶喜
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こいつなら殺る。

 馬車生活2日目。

 度を超えて暇だ。指紋には何本の輪があるか数えてみたり、息止めの最長記録にチャレンジしてみたり、もし今この場で敵襲があったら俺がどれだけ活躍するかを妄想してみたりと色々したが、限界だ。暇過ぎる。

 せっかくの仲間との旅なんだから仲間と喋ればいいじゃないか、とか考える奴もいるだろう。だがよく考えてみて欲しい。同じ馬車の中にクリスティーナがいるのだ。

 クリスティーナは俺の正面に座っている。今日は読書ではなく槍の手入れをしているようだ。

 そう、クリスティーナは今槍を持っている。


 頭のおかしなクリスティーナが今、槍を持って、俺の目の前にいるんだ。そんな状態で楽しく会話など出来るだろうか。否、出来ない。

 俺がフィルに声をかけようものなら即座にその槍は俺を貫くだろう。さらに今ならこんな言い訳が出来る。


「ごめんなさい、馬車が揺れて手が滑りました」


 ……やる、こいつなら殺る。

 なんだったら今もチラチラと俺の方を見ている気がする。

 もし俺がよくある異世界転生物の主人公だったら、

 《こいつ……もしかして俺に対して気があるのか?参ったな》

 となるところだが、俺は違う。2文字ほど違う。

 《こいつ……もしかして俺に対して(殺る)気があるのか?参ったな》

 となる訳だ。実際さっきから冷や汗が止まらない。殺気にあてられているのだろう。


 何とかしてクリスティーナの気を他に逸らさなければ、殺られる。

 幸い気を逸らす材料はある。あとは話す順序と、言葉選びだ!


 まずは会話を始めよう、だが、間違ってもここでフィルに話しかけてはならない。クリスティーナを刺激しないように最初に話しかけるべきは。


「なぁ、クリスティーナ」

「何ですか、話しかけないで下さい能無し」


 クリスティーナが眉ひとつ動かさずに言う。……よし、作戦通り。ここで隣で寝ているギールに話しかけても不自然だ。ここは消去法でクリスティーナ。まずは第一関門突破だ。

 次の関門は話題提起。話題は勿論クリスティーナが最も興味を持つ内容、フィルについてだ。だがしかし、いきなりフィルの名前を出すと脊髄反射でざっくり行かれるかもしれない。だから最初に口にすべきワードは……これだ。


「お姉ちゃん……」


 俺がそう口に出すとさっきまで興味なさげに聞いていたクリスティーナが何かを思い出したようにハッと眼を見開いた。いいぞ、順調だ!


「……ってフィルに呼ばせるって約束、そう言えばしてたよな」


 俺の言葉に、クリスティーナは破顔し、本を読んでいたフィルはビクッと震える。クリスティーナの槍を恐れて寝たふりを続けていたギールもゆっくりと薄目を開けた。


 成功だ。これでクリスティーナの注意は俺から逸れ、そして普通に会話を楽しむ空気も出来ただろう。あとはクリスティーナがお姉ちゃんと呼ばれようが呼ばれなかろうがどうでもいい。



「本当に言わなくちゃいけませんか?ヨイチ様……私、恥ずかしいのですが」

「お姉様、恥ずかしいのは最初だけです!何度も読んでいるうちに慣れますよ!」

「慣れる程呼び続けないといけないのですか⁉︎」


 恥ずかしがって顔を赤くする女の(フィル)に、鼻息の荒い変態(クリスティーナ)が迫っている。日本だったら通報案件だ。


「上手くやったなヨイチ。俺達から注意が逸れた」


 ギールがそっと俺に耳打ちしてくる。

 そうとも、俺は完璧にやった。暇は解消され、命の危機は回避されたのだ!後は適当にギールと世間話でもして時間を潰せばいい。


 そう考えた時だった。


 馬車が傾いたと思った直後、どこかで経験したような感覚が俺の身体を支配した。そう、確か2日目の朝、ピータンに投げられた時の……じゃあこれは……浮遊感⁉︎まさか、馬車が投げられたのか⁉︎


「敵襲だ!馬車を壊して逃げろ!!」


 ギーグがそう叫ぶ声が聞こえた。

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