世界を救わんと願うのならば。
「まずあいつの好物だが、にんじんのグラッセだ。割と甘党らしい。あぁ、砂糖菓子みたいなのもよく食ってたな。趣味はパズルだ。暇なときはいつも何かしらのパズルを弄ってる。謎解きが好きみたいだぜ。あとは、そうだな声は割と優しい感じだな。だが少し声に怒りが混ざるだけで部下達は震え上がる、それ程に恐ろしい奴だ。……そんなもんか?」
「オーケー、あんたを後で掘り出すと言ったな、あれは嘘だ」
「何故だ!詐欺だ!横暴だ!」
涙目になって俺に向かって吠えるギール。
いやいや、逆に何でそんな情報で解放されると思ったの?俺たちがその情報欲しがってると思ったの?馬鹿なの?
「とにかく!あんたは後で適当に這い出てくれ。俺達はもう出発する!ただでさえあんたのせいで相当遅れたんだ、これ以上遅くなったら出発が夜になっちま……」
「ちょっと待った」
俺の言葉を遮ったのはギーグだった。
ギーグはギールがクリスティーナに拷問されている間にロラーンに掘り出してもらったらしい。……未だ埋められているギールを羨ましそうに見ているように見えるのは気のせいだろう。
「そいつは民長の元へ連れて行く。民長の好物のドンウサギが捕まえられずにどうしたものかと思っていたが、そいつ以上の土産はあるまい。ヨイチが不要だと切り捨てた些細な情報でも、我々にとっては貴重なものなのだ」
ギーグはそう言うといつの間にか来ていたペグーとルダールにギールを掘り出させ始めた。
爪の民の大きな手は土を掘ることに適しているようだ、どんどん首から下が露わになっていく。
「いいのか兄貴、ここで俺を殺しておかなくて」
掘り出して貰っている最中、ギールはそう言って不敵に笑った。
「もちろん殺してやる、情報を聞き出した後でな。……だがそうだな、腕ぐらい切り落としておくか」
そう言ってギーグがギールに向けて振り下ろした腕をクリスティーナの槍が止めた。
「どういうつもりだ、クリスティーナさん」
「いえ、そこでやられたら私の服が汚れるな、と思いまして」
「それは失礼した、配慮が足りなかったな」
ギーグはそう言うと腕から力を抜いた。
「ギールさんの腕は私が拘束します!それでいいでしょう?」
「……あぁ、では、そうしてくれ」
フィルの提案にギーグが不服そうに応じる。
ギーグは近くの岩に腰掛けると顔を片手で覆った。
だが、フィルが槍をギールの腕に巻きつけるように実体化させ、ギールを拘束している間もギーグの目はギールを睨み続けていた。
突然のシリアス展開に少し置いていかれ気味な俺はギーグの隣の小さな岩に腰掛けた。聞きたいことがあったのだ。
「なぁ、何であんた達は殺しあうんだ?敵でも、兄弟だろ?」
俺がそうたずねるとギーグは寂しそうに笑った。
「兄弟でも敵だからだ。ヨイチ、甘さは捨てるべきだ。世界を救わんと願うのならば」