いやはや聞きましたぞお?
目の前でピータンが世界の終わりを見た様な顔をしている。あぁいい気味、イケメンが苦しんでいる姿って最高。
俺は忘れてないぞ。異世界に来て訳も分からない時に槍を向けられた事を。あまつさえその槍を投げられた事を。脅された事を。騙された事を。乗せられた事を。
呪いのせいだって?知ったことか。とにかく俺は怖かったんだ。ただでそんな頼みに乗ってやる言われはないな。
「いやね、せっかく異世界に来たんだから異世界ガール達を堪能しようかな、と。ほら、呪いを解く力?手に入れたじゃないですか。いると思うんですよ、呪いで困ってる可愛い異世界っこが。その呪いを解いてあげて、それきっかけに仲良くなって、恩を着せつつ、その恩を傘に告白なんかしちゃって、この世界で幸せになるのも悪くないかなーって。幸い言葉はどんな言葉でも通じるみたいなので、異世界っこを探す旅に出ようかと」
もちろん嘘だ。旅?嫌だね。そんな危険な真似誰がするか。俺はここで一生美女エルフに囲まれて暮らすんだ。その為に使命の一つや二つ達成してやるから、世界一の剣とか、持つだけで最強になれる斧とか、因果律を逆転させて心臓を貫く結果が先に来る槍とか寄越せ。あるんだろ?異世界なんだから。
「…………」
よほどショックだったのかさっきからピータンは口をパクパク開けたり閉めたりしている。世界の為なら誰もが動くとか思ってたんだろうな。漫画とかに出てくる騎士みたいな奴だ。
ちっ、役立たずめ。
さーてどうしたものか。このままじゃラチがあかない。などと悩んでいると、
「稀他人殿ぉ!少々こちらへぇ」
意地の悪い含みを感じる声が飛んできた。カムランだ。あのスケベオヤジ俺に何か用なのか?
不服に思いつつカムランの元へ向かうとそこにはもうエルフ女子ーズはいなかった。
いや、残念だなんて思っていない。
「いやはや聞きましたぞぉ?何やら興味のあるものがおありの様で」
カムランが意地の悪い笑みを浮かべながら言う。
聞いた?あの距離でか?軽く50メートルはあると思うけど。
……民長は伊達じゃないって事なのか。
「興味のあるものはありますけど、それが何か?」
出来るだけ素っ気なく。がっついたら足元を見られてしまう。目的のものを確実に手に入れるのだ。
「そうですなぁ、我々の悲願、他の民間の協力の為に動いていただくのですから、護衛は必要ですよなぁ」
「それはもうもちろん」
目的とは違うものが転がり込んできた。だがしかし!話の流れ的にこれは当初の目的以上!確実に手に入れなければ。俺の女の子護衛!
「どの様な護衛をご所望ですかなぁ?」
カムランがニタニタと笑いながら聞いてくる。今はその笑みすら頼もしい。俺の願いを叶えてくれる者よ、お主も悪よノォ。
「そうですね、当然美しい顔立ちで、髪はショートカット。俺に忠誠を誓ってくれて、俺が足フェチなので足に自信がある人が……なんでもないです」
がっつかないというさっきの覚悟は何処へいったのだろう。
カムランは楽しそうに笑うとそれでは夜の間に決めておきますので今夜はゆっくりお休みください、と言い、未だ放心状態のピータンに俺を寝室まで案内させた。
馬鹿みたいに広い神殿の寝室は馬鹿みたいに豪華だった。いや、デザインはいたってシンプルなのだが、溢れ出る高級感。すべての家具が白に統一されているが、白過ぎて落ち着かないという印象も受けない黄金比。
これが将来俺が住む様になる俺の都か、そんな馬鹿な事を考えながら俺はいつの間にか深い眠りに落ちた。