あんた俺に勝ったことないだろう?
ギールの爪先が当たった首から血が流れ落ちる。
あいつ、六冠って言ったか?あいつ。それってモルガナと同じくらい強いってことかよ。
それって…………敵ってことかよ。
「……俺はあんたとならいい友達になれると思ってたんだけどな」
「俺は今でもダチのつもりだぜ?ヨイチ」
「友達を殺すのかよ」
「悪りぃな、古いダチの頼みでよ」
そう言ってギールは笑った。さっきと少しも変わらない笑顔で。なんで敵に回ったのにそんな顔が出来るんだ。
「民長への土産が増えた。貴様を民長の元へ連れて行く。覇王の手先を、それも六冠を捉えたとなれば少しは交渉もしやすくなるだろう」
「無理するなよ兄貴、あんた俺に勝ったことないだろう?」
「負けたこともないがな。なるほど、余りに実力差があると手を抜かれているということも分からんらしい」
ギーグの言葉にギールが表情を変える。
苛立ち、だろうか。明らかに今までと雰囲気が違う。
ただの兄弟喧嘩、と言うには余りに迫力があり過ぎる。
「あぁ、兄貴は俺が寝ながら戦ってたことに気付いてなかったんだな。いや悪いな、余りに俺が強過ぎて起きてたら勝負にならなかったから」
「いや俺は実は体に重りをつけて戦ってたんだ」
「あ、忘れてた。俺は右手しか使わないっていう制約をつけて戦ってたんだった」
「すまん、実は今までお前と戦ってたの俺じゃないんだ」
「いやいや俺こそあいつは俺の舎弟だったんだ、悪いな」
2人の間に沈黙が流れる。風が微かに揺らいだと思った次の瞬間、2人が俺の視界から消えた。
「嘘つくんじゃねぇぞクソ兄貴!!昔は友達なんぞいなかった癖によぉっ!!!」
「貴様こそ俺との喧嘩で手など抜いたことがない癖によくもぬけぬけとぉ!!!」
2人がぶつかり合い、衝撃が少し離れた俺達の元まで伝わる。
いつの間にあんな場所まで、なんでスピードだ。影すら見えなかった。
……いや、というか。
「ただの兄弟喧嘩じゃねぇか!!!」
叫ばずにはいられなかった。