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異ノ覇-コトノハ-  作者: 徳永慶喜
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申し訳ないが稀他人の使命について説明してもよろしいですか?

 突如現れた神殿、ハクアミロスで俺はさっきの出来事の説明を受けていた。ざっとまとめるとこうだ。


・槍の民は覇王に直接呪いを受け、オークの姿にされていた。

・槍の民は本来高い魔力を持ち、白と自然を愛する高潔な種族だった。

・しかしオークの姿にされた影響で性格までオークにふさわしい性格に変えられてしまい、俺に対して乱暴な態度をとってしまったりしていた。

・そして稀他人である俺が民長のカムラ=ヌムルグ、通称カムランの呪いを解いたことでカムランに魔力が戻り、その魔力を使ったイデアで槍の民とその住処にかけられた呪いを解いた。


 という話らしい。俺はやっぱり稀他人だった様だ。カムランと握手をした時に光った方の手、右の手の平に何やら葉っぱの様な形の痣が浮かんでいる。これが呪いを解く力を持っているのだろう。

 そしてまたイデアだ。なんなんだ一体。話を聞いているとイデアはどうやら魔法みたいなもののように聞こえるけど。


「カムラン、イデアって一体何なんですか?」


 俺が尋ねるとカムランは穏やかに微笑み、



「稀他人殿が、そぉんなこともご存じない愚か者とは、このカムラン驚きで目から涙が出てまいりますぅ」



 などと言い放ったのち欠伸をかましやがった。


 そう、呪いが解けたことで変わったのは姿形だけではない。さっき挙げた様に性格も変えられていた訳だから当然性格は元に戻る。オークになる呪いで性格を変えられた槍の民達は皆荒くれた性格になってしまった。だが、元々の性格がクソを煮詰めた様な性格だったカムランは呪いが変に働き、逆に穏やかな性格になったのだそうだ。

 ちなみに、この情報もさっきの槍の民達の呪い云々の情報も、側近のピータンから聞いたことである。民長のカムランはさっきから美女エルフをはべらせて楽しそうにしている。

 くっそ、うらやましくなんてないんだからねっ!


 そんな俺たちの様子を見かねたピータンが俺の元へ近づいてきた。


「稀他人よ、申し訳ないが稀他人の使命について説明してもよろしいですか?」


 イケメンになり物腰も柔らかになったピータンが申し訳なさそうな顔をして俺に話しかけた。ピータン、あんたも大変なんだな。

 俺が頷くと、ピータンは俺を連れてカムランから少し離れた場所へ俺を連れて行った。俺たちは今、この神殿、ハクアミロスの中の大きなホールみたいな場所にいる。様々な動物が彫り込まれた真っ白な柱が幾つも立ち、その最奥には玉座の様な大きな椅子がある。RPGの王の間なんかを全部真っ白にした感じだ。

 他にも部屋が死ぬほどあったが、民長と話をするならここだと無駄に広いこのホールに案内された。

 俺を案内した張本人は何やら楽しそうに女子達と遊んでるけどな、くそっ。


「それでは、稀他人の使命。我々があなたに求めることについて説明します」


 ピータンの言葉に俺が頷く。今のところ世界を救えとしか言われていないし、何をすればいいのかさっぱりわからない。

 ……俺に何かする気があるかどうかはさておき。


「先程民長が述べられた様に我々は覇王の国グリへルミナに脅かされております。覇王の力は絶大なもの、とても我々だけでは太刀打ち出来ませんでした。当然、他の民達と手を組む、というのが最善策であろう、という事はわかるのです。わかるのですが我々には、それが出来ないのです」


 そう言ってピータンが悔しそうにうつむく。


「普通に頼みに行けばいいんじゃないですか?そんなに他の民と仲が悪いんですか?」


 そう言うとピータンは悲しそうに笑った。


「敬語は結構です、ヨイチ様。いえ、そう言うわけにもいかないのです。……我々は過去に愚かな過ちを犯しました。その過ちについての伝承が残っています。読み上げても?」


 俺がピータンの問いに頷くと、ピータンは(ふところ)から巻物の様なものを取り出し、読み上げ始めた。


『遥か昔、まだ大精霊が生きていた頃。世界の人々は皆、お互いを疑い、嫌い、憎み合っていました。そんなこの世界に、一人の若者が迷い込みます。その若者はこの悲しい世界を憂い、世界を平和にするために話し合いの場を設けました。そこに集まったのが我らが七使徒、そしてのちに愛の民を生み出す愛の使徒です。七使徒と若者は世界を平和にするために世界を分けることを決断します。二度と争いが起こらない様に、お互いの言葉を分からない様にして、お互いが近づく機会を無くそうとしたのです。愚かな愛の使徒はその決断に逆らい、その場を去ります。愛の使徒が去った後で七使徒と若者は世界規模のイデアを唱えました。それにより言葉は分けられ、我らは永遠の平和を手にしたのです』


 ピータンは読み終えると、息を一つついて俺に尋ねた。

「どう、感じられましたか?」

 どうも何も……。

 言葉を分けたところで戦いが終わるわけがない、それどころか相手のことが理解できなくなるから、さらに仲が悪くなるだろう。そんなこともわからなかったのか?七使徒とやらは。

 この感想を一言にまとめるとつまり……。


「馬鹿なんじゃないか?その七使徒とか言うのは」


 俺の言葉を聞いたピータンが困ったように微笑んだ。

「そうですよね、ですが、実際にその愚かな選択によって言語は分けられてしまいました。どの様に理解しようとしても理解できないのです。その為、我々は切望していました。あらゆる言語を使いこなすと言われる稀他人の存在を」

 ピータンはそう言って俺の目を真っ直ぐに見てくる。イケメンに見つめられると男でも緊張しますね。

 でも、大体見えてきた。稀他人の使命って奴が。

「つまり俺は他の民族への架け橋になってればいいってことか?」

 俺がそう言うとピータンは俺の手をガシッと掴み、

「貴方にしか成せない事なのです!稀他人よ!我らを、我らをお救い下さい!」

 と言った。

 やれやれ、仕方ないな。

 やっぱり俺は選ばれし者だったか。

 我らをお救い下さいだって?そんなの決まってるじゃないか。

 俺はニコッと優しく笑い、ピータンの手を握り返すと、


「もちろん断る」


 そう言ってやった。


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