そこまでは言っていないっ‼︎
「恥ずかしい話だが、我々は随分と長い間内乱を続けているんだ。原因は君達が持ってきた話と同じ内容だ。他の民と手を結ぶかどうか、その事でもう20年近く争っている」
言いづらそうな顔でギーグが続ける。
「さらに悪い事に、民長は反対派でな。俺達とは反対勢力にあるんだ」
俺が通訳としてフィル達にその内容を伝えると。
「それなら反対勢力を滅ぼして貴方を民長にしましょう、それで無駄な話し合いなんてしなくて済みますよね?」
「クリス?ちょっと話があります。一緒に外に出ませんか?」
「なんですかお姉様?はっ、そういえば再開のハグがまだでしたね!さぁ行きましょう!」
クリスティーナが馬鹿なことを言い始めたのでフィルがクリスティーナを連れてテントを出て行った。
何やら外で悲鳴が聞こえるが、気にしたら負けだろう。
「……彼女はなんと?」
「さぁ?稀他人の俺にも理解不能な言語を吐いていました」
俺がそういうとギーグは軽く笑いをこぼした。
む、なんか馬鹿にされてる気がする。
「いや、すまない。……だが、稀他人なんていうおとぎ話を信じているのか?君は」
なるほど、まだ信じてもらえてなかったか。
「今実際に言葉が通じてるじゃないですか。覇王の手下じゃないのに喋れるってだけじゃ稀他人だと信じてもらえないですか?」
「覇王に出来ることが他の者には出来ないとは限らない。世界級イデアを解く方法は我々が見つけてないだけで、他の民の間ではポピュラーなのかも知れない。そう考えると、何でも簡単に信じる訳には行かないのだよ。俺はキャンプリーダーだからな」
そう言うギーグの顔は、何というか男の顔、って感じだった。
責任感のあるリーダーの顔だ。どっかの誰かにも見習って欲しいもんだが。
だけど信じてもらえない事には始まらないんだよな。
……何か…………。
「そうだ!爪の民には何かこう……暗号というか、秘密のコミュニケーション方法とか無いんですか?」
俺がそう言うとギーグは少し怪訝な顔をした。
「あるにはあるが、それを知ってどうするつもりだ?」
「見事、内容を当ててみせます。稀他人の能力を使って」
俺の言葉を受けてギーグが少しだけ、苛立ちを露わにした。
「ふっ、我々も舐められたものだな。世界級イデアの影響を受けぬ覇王の部下にも対応出来るようにと、我々が考え抜いた暗号を、簡単に当ててみせる、だと?……ふふふ、良いだろう。当ててみせろ、だが当てられなかったら貴様らを信用することは無い。すぐに出て行け、とは言わんが、そうだな、今日は外で寝てもらおう」
「望むところです」
案外ギーグも喧嘩っ早いようだ。そう言う民族なのだろうか。
「では、行くぞ」
ギーグは一度目を瞑り、その後耳や鼻、目元を左右の手でバラバラに触りながら喋りだした。
何やら頑張っているが、俺にとってはどんな暗号も、普通の会話と変わらない。
「俺は、どちらかというと、クリスティーナさんの、ほうが、好みだ、ミニスカートが、たまらない、だが、フィルルグさんの、短パンも、実に良い」
俺が聞こえた通りに、特に意味は無いが出来るだけ大きくはっきりと声に出すとギーグがバンッと机を叩きながら立ち上がった。
「そこまでは言っていないっ‼︎」
毛むくじゃらの顔が赤くなっているのが分かった。
「ははーん、変わった趣味してますねぇ」
「変わってなどっ……というより!何故暗号で言っていない部分まで分かったのだ!」
「稀他人ですから?」
俺がにやにやしながらギーグと楽しい会話をしていると、外からフィル達が帰ってきた。
何故かフィルは赤い顔をしていて、クリスティーナはスカートの裾を引っ張りながら青い顔をしていた。
「盛ってるんじゃねーですよ、このゴミ屑が」
クリスティーナは俺に向かってそう言うとフィルと一緒に再びテントから出て行った。
「ま、待てよ!あれば俺の言葉じゃ……」
「変態と同じ屋根の下では眠れる気がしないので今夜は野宿します」
「わ、私もクリスティーナ1人では心配なので、外で……別にヨイチ様がどうとか、そう言うわけでは無いんですよ!」
テントの外から聞こえてくる言葉を聞きながら、俺は途方に暮れていた。
「申し訳ない……そうだ、良い酒がある。飲むか、稀他人殿」
「一番キツイやつを頼む、マスター」
「俺はマスターじゃない、リーダーだ」
旅の仲間からの変態扱い、稀他人だと信じてもらうには、実に重い代償だ。




