なるほど、草食か……。
落ち着き狼、正しい名はギーグと言うらしいが、俺達はそのギーグのテントに泊めてもらう事になった。
俺達が飛ばされたこの場所は爪の民の数あるキャンプのうちの1つらしい。ギーグはそのキャンプリーダーだとか。
キャンプリーダーってなんか凄いあれだな、響きがパーリーピーポー風だよな。
テントと言っても三角形のものではなく、ちゃんとした家の様相を成している。
昔テレビで見たモンゴルのパオのような……あれ?この説明は前にもした気がする。デジャヴか?
「さぁ、食事が出来た。食卓についてくれ」
ギーグがテーブルに食事を並べながら俺達を呼んだ。
俺はこの世界に来てから初めて嗅ぐ香りにワクワクしながらテーブルに向かった。
アレの匂いがする。
「さぁ、食べてくれ。料理には少しばかり自信があるんだ」
ギーグは席に着いた俺達に向かってそう言った。
「よっしゃあああ!肉だあああ!」
俺は思わず叫んでいた。肉だ。この世界に来てから初めての肉。槍の民は野菜しか食べないベジタリアンだったし、森の中では飯なんて食う余裕はなかった……ってあれ?俺まだこの世界に来てから2日しか経ってないのか?なんかもう数ヶ月ぐらいこの世界にいる気がするんだが、1日に色々詰め込みすぎじゃないか?この世界は。
そんな上機嫌な俺の隣でフィルとクリスティーナが表情を暗くしていた。
「どうしたん……だ」
俺は聞きかけて、途中で気付いた。そうだ、ベジタリアンだこいつら。
「タナカヨイチ……だったか?彼女達はどうしたんだ?やはりこんな粗末な肉では口に合わなかったのだろうか……」
ギーグが心配そうにフィル達を見つめる。
「違うんです、彼女達はベジタリアンなんです」
「なるほど、草食か……」
俺の言葉にギーグは微妙にずれた反応をすると台所へと歩いて行った。
草食……まぁ間違ってはない……のか?
「いえ!お構いなく!我々はただの護衛ですので」
急いでフィルがギーグに声をかける。
その隣でクリスティーナがいただきます、と静かに言って手づかみでジューシーな骨付き肉を一口頬張った。途端に顔色が真っ青になる。
食わず嫌いとかじゃないのか。というか気を使うとか、出来たんだな。
「無理して食べなくて良い、代わりのものをすぐに取ってこよう」
ギーグはそう言って外に出ようする。
「待ってください!買ってくるおつもりですか?そこまでお世話になるわけには!」
フィルが立ち上がりながらそう叫んだ。
……あれ?話噛み合ってなくないか?
………………あ、そっか。俺が通訳しないとダメなんだった。俺は両方の言葉が分かるからすっかり忘れてた。
「待ってくれギーグさん!フィルがそこまでして貰わなくても大丈夫だって言ってる」
俺が急いで伝えると、ギーグは立ち止まり、
「あぁ、そうだったのか。あまりに必死に叫ぶものだから急かされているのかと」
そう言ってテントの入り口を閉めた。
言葉が通じないってのは厄介だな。
結局フィル達は肉の味付けとして使われる唐辛子のような香辛料をちびちび齧っている。時折辛そうに顔を歪めるのは、見た通りの辛さだからだろう。
「本当にそれでいいのか?やはり俺が取って……」
「いいんです!またややこしい事になるんで!」
ギーグが心配そうにフィル達を見つめる。余程客にちゃんとしたもてなしが出来ないのが気になるのだろうか。
「取り敢えず、本題に入っていいですか?」
俺は話題を変えようとギーグに話しかけた。
もちろん、他民族間会談についてだ。
と言っても俺はその全貌を把握している訳ではないのでフィルが言っていることをギーグに伝えるだけの、本当に通訳役な訳だけれど。
「なるほど」
ギーグは俺達から諸々の話を聞いた後、考え込むような姿勢をとった。
見たところ他民族に対してマイナスの感情を持っている様には見えない。覇王のことも敵対ししている様だったし協力してくれるとは思うんだが……。
「その話を民長にしなくてはならないんだな?」
ギーグの言葉に俺が頷く。
どうしたんだろう、やたら悩んでいる。やっぱり俺達を警戒してるんだろうか。
「お姉様を待たせてますよ、犬。少ない頭でさっさと考えなさい」
「ん?いま、クリスティーナさんはなんと?」
「美味しい食事をありがとうって言ってましたよ。ただやはり辛かったのか少し表情が歪んでますが」
「すまない、明日はちゃんとしたものを振舞おう」
あの女マジでどっかに置いていきたいんですけど。
机の下の見えないところでフィルがクリスティーナの太ももをつねっている。フィルも大変だな。
……なんかあの女喜んでないか?
ギーグはやがて意を決したように顔を上げると言った。
「結論から言おう。すぐには無理だ」
……なんですとぅ?




