彼は何と言っているのですか?
どうやら俺は見知らぬ土地に飛ばされると人外に囲まれる、という呪いにかかっているようだ。
そう考えて右手で身体に触れてみたが、なんの変化もない。
おかしいな、呪いではなかったらしい。
「答えろ、貴様らは何者だ。あの靄はなんだ」
気になることはいくらでもある。モルガナたちのこと、カムランのこと、槍の民のこと。
だが、今はこの状況をなんとかしないと。
このよくわからない状況を。
「おい、フィル大丈夫か?」
俺がクリスティーナに治療されているフィルに小声で話しかけるとフィルは軽く笑った。
「はい、大丈夫です。それより、彼等は爪の民です。野蛮な種族という事だけしかわかりませんが、警戒して……」
「おい!さっさとギーグさんの質問に答えねえか!治療も止めろ!この不審者共が!」
フィルはキョトンとした顔でフィルを怒鳴りつけた狼男を見た後、俺の方を見て。
「彼はなんと言っているのですか?」
と言った。
あぁ、そうでしたね。他の民の言葉わからない、とかそんな設定ありましたね。最初に出会った他の民が覇王の部下だったからそんなことすっかり忘れてたよ。
うん、嫌な予感しかしない。
「この駄犬今お姉様に向けて敵意を放ちましたね⁉︎犬の分際で‼︎畜生の分際で‼︎」
何となく予想がついていた通りクリスティーナが吠えた。狼男でもないのに。
「あぁ⁉︎何だこの女!……なんか馬鹿にしたような顔しやがって‼︎見下してんじゃねえぞチビが‼︎」
「あぁ⁉︎今私の身長について言いましたね⁉︎視線でわかりますよこのケダモノが‼︎」
なんでこいつら喧嘩出来てるんだろう。
言葉通じてないのに敵意だけでコミュニケーションとるんじゃねえよ。
「おいクリスティーナ、いい加減に……」
俺がクリスティーナを止めようと言葉を発した時だった。
空気がガラリと変わった。
正確に言うと、爪の民が全員俺に向けて戦闘体制に入ったのだ。
「貴様は、覇王の手の者か?」
爪の民の中で最も落ち着きのある狼男、仮に落ち着き狼とするが、その落ち着き狼が俺にそう言った。
なるほどな、そういう風に思われるのか。そりゃそうだよな。
俺の言葉だけ理解出来たら、そりゃ俺は怪しいよな。
とりあえず俺はそれを否定しようとして。
「いや、違う。話を聞いて……」
「大体腹立つんだよ‼︎何だこの髪型は!2本も尻尾ぶら下げやがって‼︎引きちぎってやろうか‼︎」
「あぁぁん⁉︎今私のこのツインテールを貶しましたね⁉︎お姉様に褒めてもらったこのツインテールをっ‼︎何となく分かりますよこの犬畜生がっ‼︎」
「その腹立つ顔を止めやがれクソ女‼︎」
空気を読めない2人の喧嘩に邪魔された。
「いい加減にしろ、ロラーン」
落ち着き狼がそれまでで最も厳しい声で言った。子供を叱る親のようだ。
それを受けてロラーンと呼ばれた狼男が黙り、更にそれによってようやく周りの空気に気付いたクリスティーナも黙った。
「すまない、血の気の多い奴が多くてな」
落ち着き狼はそう言って少し笑った。
「良いよ……あ、いや、良いですよ。いきなり出てきた俺達が悪いんです。あのツインテ女も後で反省させておきます」
背後からクリスティーナのものと思われる殺気を感じるが、気にしたら負けだ。
「それで、貴様らは……君達は何者なんだ」
落ち着き狼の質問にフィル達を指しながら答える。
「こいつらは槍の民のフィルルグとクリスティーナ。それで、俺は……」
「ん?どうした?言えない事情でもあるのか?」
言葉に詰まる俺に、落ち着き狼が不思議そうに、いや、怪しみつつ尋ねる。
どうしよう、この自己紹介恥ずかしいんですけど。
「俺は田中与一、この世界を……救う為に呼ばれた……ま、稀他人……です」
俺の言葉を聞いて、周りの俺を見る目が変わった。
可哀想なものを見る目になっている。
「なるほど、な。こちらに来た時にどこかで頭をぶつけてしまったのかもしれないな。もしかしたら我々が靄を警戒して攻撃した時にぶつけたのかもしれない。我々が悪いな、それは。我々が悪い。それで……あぁ〜、何だ。何というか……だな」
「怪我とか……怪我とかしてるんじゃないっすか!頭とか」
「あ、あぁ!そうだな。それなら俺が手当しよう。俺のテントに来ると良い。そうだ!今日の宿もないだろう。今日は泊まっていくと良い」
落ち着き狼はそう言って俺の肩を叩いた。
優しくすんじゃねえよ、泣きそうになるだろうが。