キスの影響なのか⁉︎
「あああぁぁぁああああっ!痛いっ、くっそぉ、うあああぁぁぁああああああっ!」
身体中を内側から引っ張られているような、身体をバラバラにされているような痛みが、俺の身体を絶え間なく襲う。
何だこれ、死ぬ。今まで体験してきた全ての痛みを総合しても、この痛みには届かないだろう。
頭が割れそうだ。
「ヨイチ様!」
フィルの叫び声が聞こえる。助けてくれフィル、死にそうなんだ。
「あああぁぁぁあああああああっ!がぁぁぁあああっっ!」
苦しい、息が、出来ない。
そう思って首に手を当てると不思議と身体の痛みが引いて行った。
左手を見ると解呪のカウントが減っている。
「……呪い、だったのか」
俺は痛みの残響でぼんやりする頭に手を当てながら立ち上がった。
そこに駆けつけたフィルが俺を支える。痛みでのたうちまわっている間にフィルの近くまで来ていた様だ。
「上出来、であるからして。呪いは効かないと聞いていたけれど、それはアナタがあまり優秀な稀他人ではないからということでいいのかしら。……でも少し複雑だわ。アタシの最上級の呪いがこうもあっさりと解かれてしまうなんて」
少女はそう言って頬を膨らませた。
もうこの子の事を可愛い女の子、だなんて思えない。悪魔のような……悪魔の……。
……ん?何だこの感覚は。知ってる?俺は、この子を。
「お前の名前は……モルガナ、か?」
俺は気付けばそんな事を口走っていた。
「あら、ユリリアから聞いたのかしら。そう、アタシはモルガナ。覇王様から愛の冠を戴いた、狂愛のモルガナであるからして」
そうか、ユリリアが言ってたんだ。何かモルガナ様に怒られるとかって言ってた気がする。
……いや、まだだ。まだ不思議な点がある。何故だ、何故俺は知っている。
「モルガナ、お前は……真ん中にピンクのリボンがついた黒いレースのパンツを履いているな?。
俺がそう言い放つとモルガナの顔が一瞬で赤くなった。
「な、何を言っているのかしら!な、なるほどさっき地面に倒れている時に見たのね!気持ちの悪い男であるからして!」
見るからに取り乱している。
その反応は当たりってことか。
まだだ、まだ分かるぞ。
「その、であるからして、とかの妙な口調!それも、キャラ付けだな?」
「な、何を言っているのか分からないのであるからしてっ!」
「最初お前は普通の喋り方だった。だが他の覇王の部下達に比べてお前はキャラが弱かった。だからお前はミステリアスなキャラを作り上げる為に、まずは口調から変えたんだ!その妙な口調にな!」
「黙って!ちょっとしゃべらないでくれるかしら!お願いだから!何?何でそんな事を知って……そんなデタラメを言うのかしら!訳が分からないわ!」
分かる、分かるぞ。あいつの恥ずかしい記憶が、手に取るように分かるぞ!
まるで自分の古い記憶を呼び覚ますかのように、モルガナの恥ずかしい記憶が、俺の中から溢れ出てくる。
これはまさか、キスの影響なのか⁉︎
ん?キス?
「お前、なんか余裕たっぷり、みたいな感じで俺とキスしてたけど、お前ファーストキスじゃねえかっ!」
「いやぁぁぁぁあああああっ!黙りなさい!黙りなさい!お願いだから死んでくれないかしら!いえ、アタシが殺すわ!楽には死なせないのであるからして!」
モルガナは顔を真っ赤にしたまま暗闇からナイフを取り出した。
はっ!分かる。あいつが何をしようとしてるのかが!
俺は身体を右にずらした。すると俺がいた所に向けて暗闇からナイフが突き出された。
モルガナが目を見開いて俺を見る。大方俺が暗闇の出現場所を読んだことに驚いているのだろう。
俺のすぐ近くでフィルも驚いていた。
もちろん、俺が一番驚いている。
クリスティーナの舌打ちが聞こえたのはおそらく気のせいだろう。
鬼の形相のモルガナが再び暗闇にナイフを突き刺した。新しく俺のそばに暗闇ができ、ナイフが突き出されるが、それも難なく避ける。
「何なのであるからしてお前はぁぁあ!」
モルガナは何度も何度も俺を攻撃した。それを俺は避ける、避ける、避ける。俺は幾度となく現れるナイフを華麗に避け続けた。
その間も次々とモルガナを辱めるネタは湧いてくる。
「お前の初恋は7歳の頃だ。相手に向けて手紙を書いたが、字が汚くて相手が読むことが出来なかった!それから字を練習してきれいな字が書けるようになったんだよな!」
「好きな色は本当はピンクだ。だが、自分のミステリアスなイメージに合わないから黒い服ばかり着ている!その反動か、下着はピンクの物が多いんだよなぁ!」
「本当はツインテールにしたいのか、すればいいじゃないか!似合うと思うぞ!」
「黙りなさぁぁぁぁいっ!」
この世界では子供並みの身体と言っても、元の世界じゃちょっとしたアスリート並みの身体なんだ、攻撃を避け続けるだけならいくらでも付き合うぜ!なんたってどこに攻撃されるか分かるんだからな。余裕余裕っ!
「すごいっ!すごいですヨイチ様っ!」
フィルが俺を尊敬の眼差しで見つめている。ふはは、もっと褒めるがよい!
「おおっ、これは最近の記憶っぽいな。負けたのかお前。一体誰に…………」
俺は身体の動きを止めた。
ナイフが俺に刺さりそうになるところにフィルが間一髪槍を滑り込ませる。
「ヨイチ様!どうしたんですか⁉︎」
驚くフィルの言葉も耳に入ってこない。
何だこれ、何だこの記憶は。
「お前槍の民に……カムランに何した」
「アナタ、なんでそんな事まで分かるのかしら。本当に危険であるからして」




