覚悟は出来てる。
暗闇を抜けるとそこは森でした、なんて。
当たり前だ、さっきの場所へ戻されただけなんだから。
すぐ近くにはフィルとクリスティーナがいた。連れてこられた俺を見て動きが止まっている。
……人質か。クッソ、これが無いように逃げてたってとこもあったんだけどな。
「ヨイチ様っ!」
フィルが叫ぶ。
あぁ、そんな悲しい顔はしないでくれ。
大丈夫、覚悟は出来てる。心は穏やかだ。
別にこの精神の安定は、後ろからナイフを首に突きつけられてるこの状況を、
(あ、後ろからハグされてるみたいだな)
なんて思ってるのが理由じゃないから。覚悟が出来てるだけだから。
あ、いい匂いする。
クリスティーナ……は何か微妙な表情をしてやがる。俺が死にそうで嬉しいけどフィルの手前にやける事もできないから必死に我慢してる。そういう表情だ。
ひどくね?
「喋らないで。安心なさい。アナタを今ここで殺すつもりは無いのであるからして。まぁ、それもアナタ次第だけれど」
文句を言おうと口を開きかけた俺に美少女が耳元で囁きかけた。
ちょっとやめてくれませんかね耐性無いのでそういうの。
「ヨイチ様を離して下さい。そうでないと……」
「そうでないと、どうするのかしら。アナタにどうする事が出来るのかしら」
美少女が言いながら俺の頬をナイフの腹で撫でる。
切れそうで怖いんですけど。
怒りで顔を歪ませたフィルの隣でクリスティーナが別の感情で顔を歪ませながら言う。
「捕まってしまったのだから仕方ありません。諸共に殺しましょう」
「お前いい加減にしろよ」
あまりに嬉しそうに言うものだから人質である現状を忘れてツッコんでしまった。
「喋らないで、と言ったはずであるからして。こうしないと黙れないのかしら?」
そう言って美少女は自らの口で俺の口を塞いだ。
サラサラとした髪が頬に当たる。鼻息を気にして息を止めてしまったのは仕方のないことだろう。
そうか、これが……キス、か。
……………………は?
いやこれ、え?何で?いやいやいやいや、ごちそうさまです。いやはやほんっとに異世界きてよかった。唇柔らか……………………何だ、これ。何かが流れ込んでくる。何だ?苦しい。痛い。何だこれ体が。嫌だ、痛い、痛い……痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いぃ!!
「あああぁぁぁああっ!」
少女の口から解放されるなり俺は叫びをあげた。何だこれ信じられない。身体中が痛い。
「ごめんなさい。喋った罰、という訳ではないのよ?覇王様の元へ連れて行くにしても、まずは本当に稀他人かどうか、確かめなくてはならないのであるからして」
少女はそう言って地面で悶える俺を、布で口元を拭いながら見下ろした。
何だそれ。助けて、苦しい、痛い。
死にたくない。




