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異ノ覇-コトノハ-  作者: 徳永慶喜
19/43

それってとっても悲劇的だわ。

 

 逸れてしまったヨイチ様を探して走り回っている時だった。


 鼻が全く効かない。魔力によって惑わされている。ヨイチ様といる時はこんな事なかったのに!


 その少女は突然現れた。

 空中に突然虚が現れたと思ったらその中から出て来たのだ。


「あら、アナタは槍の民かしら」


 少女はそう言って笑った。

 幼い、14か15といったところだろうか。何か変わった服を着ている。真っ黒だが、えらくフリルのついた可愛らしい服だ。

 私もこんな服を……。


 私は気付いてしまった、その服が血で汚れている事に。



「貴女は、何者ですか?」



 言葉が理解できる時点で答えは決まっている。

 覇王の部下だ。それも肌の色から見て愛の民ではない。それはつまりかなり高位の配下という事になる。

 覇王は自らの直属の部下に、ヨイチ様のような言語理解の能力を与えているという。



「聞かなければわからないのかしら?貴女は知ってるんでしょう?今日、何が行われたのかを。それともこの血が誰のものか、聞かなければわからないのかしら?」


 頭に血が集まっていくのを感じた。




「貴女を倒します!」


「構わなくってよ」



 私は槍を実体化させ、少女の心臓を狙い、突いた。

 が、槍の穂先は闇に呑まれ、代わりに私のふくらはぎに鋭い痛みが走った。

 消えた穂先が、私のふくらはぎに刺さっている。



「闇と闇を、繋ぐイデア……空間転移?詠唱も無しにっ……」


「詠唱破棄、知らないというの?それってとっても悲劇的だわ」



 詠唱破棄、昔カムラン様が言っていた。本来必要な詠唱を省いてイデアを発動する技術。効果が数段落ちるから実践では使い物にならない、とカムラン様は言っていた。

 けれど、この少女のイデアは効果が落ちてるとは思えない。思いたくない。


 槍を粒子化し、すぐさま手元に戻す。

 まずい、足を負傷してしまった。


「もう終わりなのかしら?」


 少女が不敵に笑う。


「まだです!」


 私は少女に再び槍を向けた。

 ただがむしゃらに突いても転送されるだけだ。

 転送されないように、転送されても問題のないように戦わなくては。


 私は槍の柄の部分以外を槍の形を保ったまま粒子化した。


「そんな器用な事が出来るのね。予想外であるからして」


 少女が楽しそうに笑う。


 笑っていられるのも、今のうちだ。


 私が柄を突き出すと槍の形を成した光の粒子もそれに続く。

 予想通り暗闇に飲まれるが問題ない。私のどこに向けて転送されても当たるのは光の粒子だ。当たっても痛みなど無い。

 私はこれを続けて粒子が少女に当たった時、槍を実体化させればいいのだ。


 なんとか隙を見つけて、暗闇が無い場所を突く!


 そう、考えていた。

 暗闇に飲み込まれた槍の粒子は暗闇に消えたまま、現れる事はなかった。




「ねぇ、アナタの槍ってどのくらい遠くなったら操れなくなるのかしら?」




「私の槍を……どこに」


 自分でも声が震えているのがわかる。


「わからないわ?どこか、遠く。アタシの能力が届くいっちばん遠い所、であるからして」


 少女はまたも楽しげに笑った。


 槍無しではとても勝てない。

 武器が無くては、戦う事もできない。



「アナタ、悲劇的、って顔。槍を失うとみんなそうなのね。槍の民ってみんなだわ。みーんな絶望するのね」


 ……みんな?

 ……やはり、この少女の服についた血は。

 やはり、この少女は。


「諦めるの?それってあまり劇的ではなくてよ。足掻きなさい。それでこそ観客は盛り上がるものよ?」


 少女が俯いたままの私に笑いかける。


「……劇的?貴女は戦いに盛り上がりを求めるのですか?」


「そうね、退屈なのは大嫌いよ」


 少女が私の問いかけにそう返す。


 私はゆっくりと立ち上がった。




「それなら、盛り上がりはここからですよ!」



 私が叫ぶのとほぼ同じタイミングで、少女が顔を歪めた。

 少女の足には、後ろから槍が刺さっている。


「アナタ……」


「先程私に聞きましたね、どれ程の距離まで槍を操れるのかと。私に限界などありません。私、天才ですので。どれ程遠くだろうと、一瞬で呼び寄せますとも。光の速さ、舐めないで下さい」


 実際はそれ程速くありませんが。劇的を求めるならこれくらいの嘘は許してくださいね。


 転送術と聞いて武器を遠くに飛ばすと思いましたよ、予想通りです。流石私。

 私自身、操れるかどうかは賭けでしたが、よかった成功して。


「アナタ、いいわ。アナタと戦うのはきっと楽しい(・・・)。でも残念ね、とても残念。少し席を外すわね。よかったらついてきて?」


 少女はそう言うと人が通れそうな程大きな暗闇を作り出した。


 突如その暗闇から槍が飛び出してきた。

 急いで少女に刺さっていた槍を手元で実体化させ槍を弾く。

 これは、槍の民の槍……⁉︎


「アタシの部下に物騒な物を投げつけないでくれるかしら。アタシ、あまり部下が傷つくのは好きでないのであるからして」


 少女が暗闇に向けて言う。

 仲間を助けに行こうとしているのか。



「逃がしません!」


 私は暗闇に入る少女を追いかけ、暗闇に飛び込んだ。

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