こいつやばい奴だ。
「どうしてお姉様の香りを追いかけて来たというのに、私からお姉様を奪ったクソやろ……失礼、ゴミ屑のところに辿り着いたのでしょう」
いや、言い直せてないんですけど。1つもマシになってないんですけど。口悪いですね貴方。
て言うか、お姉様?まさかこいつ、
「もしかして、フィルの妹さん?」
「はい、フィルお姉様の心の妹、クリスティーナです」
俺の質問にクリスティーナと名乗った少女が間髪入れずに答える。
なんか心の、とか聞こえた気がするけど、気にしたら負けだ。
この短いやり取りだけでわかる。
こいつやばい奴だ。
「それで、お姉様は……」
「おい!私を置いて話を進めるな!消えないではないかこれ!どうすればいいんだ!」
クリスティーナの言葉をユリリアの叫びが遮った。
「チッ」
クリスティーナが舌打ちと共にユリリアの方に視線を向ける。
ユリリアは軍服風の服の上着を脱いでそれ炎を消そうと奮闘していた。
最早プチ山火事となった炎をその程度で消せると思ってる辺り、凄まじくポンコツである。
「あら、あれは……」
クリスティーナはそう呟き、しばらくユリリアを見つめた後、邪悪に笑った。
「『雨は汝を赦すだろう 汝のその愚直を
雨は汝を責めるだろう 汝のその軽率を
雨は汝を認めるだろう 汝のその可能性を
雨は汝を信じぬだろう 汝のその身勝手を
愚者は愚者なりて愚者のままに 雨を求めよ』」
クリスティーナがそう唱えると空から信じられない程の水が降ってきた。イデアだ。
雨がどうとか色々言っていたが、雨なんていうレベルじゃない。バケツをひっくり返したような、という表現がこれ程しっくりくることは他にないだろう。立ち上がれない!
森を燃やしていた火が一気に鎮火されていく。
やがて水が止むとクリスティーナは妖しく笑いながらユリリアに近づいていった。
「貴女その肌、愛の民の人間ですね?覇王にしっぽを振る、誇りなき種族」
そのクリスティーナを地面にへたり込んだユリリアがキョトンとした顔で見つめる。
「おい、こいつは何を言ぐがばっ……」
俺に何かを訪ねようとしたユリリアの口の中に突然水が溢れ出した。
クリスティーナがイデアを唱えたようだ。
「口をきいていいなんて言ってません。イデアを唱えるつもりだったのでしょうけど、させるわけがないでしょう」
クリスティーナは、口から水が溢れ続け苦しそうなユリリアのすぐ側まで行くと、遠くの地面に刺さっていた槍を粒子化し、手元に引き寄せた。そのままその槍をユリリアの方に向けて言う。
「愛の民、貴女を捕らえさせていただきます。貴女がいれば、あの男とお姉様が共に旅をする必要は無くなりますので」
……ちょっと待て、今何つった。