誰?
まさか魔物に逆ギレされるとは思わなかった。
そして、怒ってるフィル超可愛い。いや、フィルじゃないんだけど。
友達少ないとか言われたって仕方ないじゃないか、この世界に来たのは昨日だし、フィルと出会ったのだって今日なのだ。
……今考えたらこの二日間、馬鹿みたいに濃いなぁ。
しかし、相変わらずこの魔物の目的がわからない。
こんなぺらぺら喋るタイプの奴だったらもう普通に聞いてやろう。
「お前は何が目的な魔物なんだ?俺を食べたいならはなっから襲ってしまえば簡単に食べれたと思うぞ?」
そう言うと俺の眼の前でフィル(仮)がわなわなと震え始めた。
「わ、私が魔物だと……?」
何だろう、怒らせた気がする。口調も変わってるし。
「違うのか?」
「私は魔物ではない!覇王様からこの森の管理を任された、立派な人間だ!魔物にこんな事が出来てたまるか!」
フィル(仮)はそう叫ぶとローブを脱ぎ捨てた。
するとまるで早替えのように格好と姿形が変わっていた。
褐色の肌に真っ赤な目、髪は金髪で服は何やら軍服のような格好だ。そしてその軍服では窮屈だと言わんばかりに主張する存在が……。
嫌いじゃないです、ええ。
「我が名はユリリア!誇り高き愛の民に生まれし覇王様の戦士だ!」
出ました愛の民。やったらカムランに嫌われてた人達ですね。
そして、えーっと、覇王様の……何だって?
まぁいいや。
「それじゃあ急いでるんで」
「待て、稀他人」
俺が立ち去ろうとするとユリリアに肩を掴まれた。
「すみません、命だけは勘弁してください」
とっさに謝罪が出る俺はある意味ですごいと思う。
でも記憶を元に人の真似をするのなら俺の記憶がある程度分かるという事だろう。それなら嘘をついてもしょうがないじゃないか。
「安心しろ、何も今命を取ろうという訳ではない」
ユリリアはそう言って笑った。
あれ、もしかしてあれですか?意外と覇王いい奴だった的な……。
「勝手に殺したら覇王様に怒られるし」
違いますよねそりゃあね。そんな都合よく行かないよな。
まずい、旅が始まって早々大ピンチだ。
状況を打開しようにも何も手が……手が…………無い、事も無い、か。
だけどどうやって……。
「それにしても、貴様のその手袋は何だ。異様な魔力を感じる。愛の民は魔力に敏感なのだ、念のためそれを渡せ」
ほほう、これに目をつけるとは、お目が高い。
「や、やめろ!やめて下さい!これだけは!これだけは!あ、あぁ!」
「ふふふ、諦めろ。貴様には拒否権などない。……っと。……何だこれは、異様な程に熱いな」
俺の必死?の抵抗虚しく真実の手袋は奪われてしまった。
あぁ〜あ、持ったな?今この状況で、この周りが嘘まみれの状況でそれを持ったな?俺は止めたぞ、知らないからな!
「止めてくれよ!俺は、稀他人なんかじゃないのに!」
「今更何を…………なっ!熱っ!熱いっ!え?燃えてっ……」
ユリリアの手で、嘘の許容量をオーバーした真実の手袋が燃え上がった。
思わずユリリアが手を離し、燃えた手袋が植物だらけの地面に落ちる。
当然火は瞬時に草に燃え移った。
そのまま凄まじい速度で燃え広がる。
「え⁉︎何だこれ!これ、どうやって消せば!あ、熱いっ!燃える!森が燃えてる!消さなきゃ、覇王様に、いや、モルガナ様に怒られる!」
ユリリアが凄まじく動揺しながら火を消そうと手袋を踏みつける。
はっはっはーその程度じゃ消えないんだなそれは。
そういえば、さっきこの森の管理を任されたとか言ってたよな。
それならもしかして。
「その炎は周りから嘘が消えない限り消えないぞ、知ってるだろ?俺の記憶を読んだんだから」
俺がそう言うとユリリアは泣きそうになりながら言い返した。
「私は他人の記憶を読める訳ではない!私の能力が他人の記憶からある人間を選び勝手にトレースするのだ!この手袋の事など知らん!それより、本当だろうな!本当に嘘が消えれば炎も消えるのだな⁉︎」
俺が頷くと、ユリリアは何やらぶつぶつと呟き始めた。恐らくイデアだろう。よし、目論見通りに進んだ。この森の人を惑わす能力をこいつが管理しているならそれを止める事も出来るはずだ。
しかし、ポンコツ度で言ったらうちのフィルに引けを取らないな、ベラベラと自分の能力ばらしてるし。この世界の女子はこんなのばっかりか?
「よし!この森への魔力供給を絶った。これで火は………………消えてないではないか!」
イデアを唱え終わったユリリアが吠えた。
そりゃそんな簡単に消えませんよ、火だもの。
「貴様どういうつもっ……」
どういうつもりだ、と言いたかったのだろう。
だが、それは叶わなかった。言い終える前に、ユリリアに向けて槍が飛んできたからだ。
それをユリリアが間一髪で躱す。
当然だ、人を惑わす森の魔力を絶ったのだ。
おまけに火と煙まで上がってる。
そうなればあいつが来ないわけがない。
俺の頼れる護衛のあいつがっ……‼︎
「お姉様ぁぁあああ‼︎ご無事ですかぁ!」
そう叫んで飛び込んできたのは、白髪ツインテの美少女だった。フィルとほとんど同じ格好である。違いはホットパンツがミニスカートになっているくらいか
はじめは目をキラキラと輝かしていた少女だったが、俺と目があうとすぐに瞳の中に疑問符が浮かんだ。
「「誰?」」
見事なまでのハモりだった。