もしかして、ばれちゃいました?
一体どれくらいの時間が経ったのだろうか。
俺は一人、大きな木の陰で息を殺していた。
息を殺していたらフィルが見つけてくれないのではないかとも思ったが、近くで魔物の鳴き声とかするのだ、息も殺すだろう。
強過ぎるフィルを見て調子に乗っていた。ここを舐めていたのだ。
ここは惑いの森、どれだけ強くても離れてしまえば助けに来れるとは限らないのだ。
怖いなぁ、心細いなぁ、寂しいなぁ……俺死ぬのかなぁ。
そんな事を考えて泣きそうになっている時だった。
「もう、探しましたよヨイチ様。勝手にいなくならないで下さい、心配したんですから」
天使、いや女神の声が聞こえた。
フィルが困った様な笑顔で俺の前に立っていたのだ。
俺はフィルに縋り付くと、
「ごっ、ごべんなさいっ!猿がっ!猿がにぼつをぉ……俺、俺追いかけなきゃって……俺ぇ」
泣きながら謝った。
フィルが俺の背中を優しく叩いてくれる。
本気で怖かった。マジで死ぬんじゃないかと思った。軽率でしたごめんなさい。
反省はしながらもフィルの体はしっかりと堪能する。俺は跪きながら抱きついているので丁度お腹のあたりに顔が来る。
腹筋が鍛えられていて少し硬いが、それがまた……。
…………………。
俺はある事に気が付いてしまった。
匂いが、しない。
このフィルからは香水の匂いがしないのだ。
いやまぁ、これだけの時間森の中にいるのだから香水の匂いが落ちていても不思議ではない、だが長時間歩き回っているのだから汗の匂いくらいしてもいいだろう。
さらに俺は二つ目の違和感を見つけてしまった。
腹のタトゥーが何というか、あやふやだ。
もっとこう……芸術的なデザインをしていたと思うのだが、今俺が超至近距離で見ているタトゥーはまるで子供の落書きのようだ。
そしてフィルに抱きついてから、手袋が超熱い。今日一熱い。
俺はこの森に迷い込んだ直後、フィルから聞いた言葉を思い出す。
『「さらに相手の知り合いに化ける魔物までいるそうですよ!目の前の相手の記憶から姿形、記憶まで作るそうなので見破ることはまず不可能です」』
俺はゆっくりとフィル(仮)から離れた。
そしてフィルの目を見て鼻を啜りながら言う。
「ここはいつ魔物が出てくるか分からないんだ。さっきも魔物の鳴き声がしてて、怖いから槍を出しておいてくれないか?」
フィル(仮)が目を逸らした。
俺の予想が正しければこいつは槍を出す事は出来ない。
姿形、記憶は真似できても、特殊な能力まで真似できてしまったらその魔物は最強の魔物になってしまう。
覇王の物真似でもしてしまえば、覇王と同じだけ強い、という事になってしまうからだ。
恐らくこいつは話を逸らしにかかるはずだ。
「大丈夫ですよ、さっき倒しておきました。私は強いですから。それよりはやくこの森を抜け出してしまいましょう」
そう言って得意げに笑う。くそ、可愛いな。流石フィルの顔。
だが、ビンゴだ。こいつは偽物だろう。
でもどうする、偽物と分かったところでフィルがいないと倒すことも出来ない。
俺は武器なんて持ってないしな。
この偽物の目的もわからない。
取って食おうっていうのなら無理やり連れて行ってしまえばいい、わざわざ俺に歩かせてついて行かせる必要はないだろう。
まさか俺を運べない程非力な魔物だなんて言わないよな。
そうして返事もせず考え込む俺を見てフィル(仮)が笑った。
「もしかして、ばれちゃいました?」
しまった、偽物だと見抜いていることがばれた。
どう答えたものかと迷っているとフィル(仮)が続けた。
「いや、ばれますよね。そりゃばれますよ。だって腹のタトゥーあやふやだし、体のサイズも何となくしかわからないし、体臭もわからない、口調だって定まってない。何でこの場にいてもおかしくない人物の記憶が、こんなあやふやな記憶しかない奴しかいないんですか!友達少な過ぎるんじゃないですか⁉︎」
逆ギレである。まごう事なく逆ギレである。




