死は免れないな。
俺たちはかなりの時間、惑いの森を彷徨った。
何度も魔物と遭遇したが、それらのことごとくをフィルは瞬殺した。
フィルの戦闘スタイルは何というか凄まじいものだった。
敵が現れたら有無を言わさず一閃。少し遠ければ槍を投げつけ、投げつけた槍は光の粒子にして回収。
一撃で沈まない相手に対しては刺した槍を抜くことなく粒子にして回収、手元で実体化させすぐさま刺す、これを死ぬまで続ける。
うん、これはあれだ。この森で死ぬ事ないな。
最初こそ息をするように魔物を殺すフィルを怖がりはしたが、よく考えたらアイツらは俺たちを殺そうとしてる訳で。そんな奴らの命を尊んでやる必要なんて全くない訳で。
今はただただフィルに対して感謝の念を感じるばかりである。
うちの護衛は頼りになるなぁ。
それにしても。
「何度目だよ、ここに戻ってくるの」
俺たちは何度も、ローブの切れ端を巻いた木のあるスタート地点に戻ってきていた。
どれだけ真っ直ぐに進んでも必ずこの場所に戻ってきてしまう。
「少し休憩にしましょう。私、お弁当作ってきました」
そんな初デートの彼女みたいな事を言ってフィルが荷物を降ろした。
うんざりしている俺の顔を見て気を使ったようだ。
「ちょっと荷物見ててください、私座る場所作ってきます」
フィルは槍を実体化させた。恐らく木でも切って切り株を椅子代わりにするのだろう。
……普通槍じゃ木の幹は切れないよなぁ。刃の部分短いし。異世界怖い。
そんな事を考えながらふと荷物に目をやると手足のやたら細長い猿が荷物を物色しているシーンを目撃した。
猿もこちらに気付き、目があう。
世界は静寂に包まれていた。
互いに呼吸さえままならないほどに、お互いの挙動に気をくばる。
先に動いたのは、猿だった。
「……ウッキィ!」
猿は鳴き、荷物を抱えて一目散に走り出した。
「待てコラッ!」
急いで追いかける。多少離れてもフィルは香水の匂いで俺を見つけてくれるだろう。何よりここで食料を失うのはまずい。
猿は凄まじい勢いで森をかけていく。
一生懸命追いかけていると突然、俺の頭の中に何かイメージの様なものが浮かんできた。
草に包まれたお弁当、香水の瓶、何らかの手紙の様な物、布……恐らくは着替え、布……恐らくは女性物の下着、それらが頭に浮かんでは消える。
これはまさか……鞄の中身?何で見てもない俺に鞄の中身が分かるんだ?
そしてその後、複数の猿が腹を抱えて呻いている姿が頭に浮かんできた。あの猿の家族だろうか。どうやら腹を空かせているようだ。
もしかしなくてもこれがコンスタンティンの言っていた動物との意思疎通って奴か。もはやテレパシーなんだが。
これはあれか?腹を空かせた家族がいるから見逃してくれってことか?見逃すかよこっちも命かかってんだ!
にしても猿の野郎俺のフィルの下着を見やがったのか。死は免れないな。
でもこれのおかげで何となく猿がどこに逃げているのかが分かる。
猿は魔物のいないルートを知っているのか、追いかけている道中魔物と出会う事は無かった。
だがまぁ、当然野生の猿に森で追付ける訳もなく、そして見事に帰り道も分からなくなった。
でも大丈夫、じっとしてればフィルが俺についた香水の匂いを追いかけて助けに来てくれる………………はず。