新しいジャンルの変態だ。
驚いた。
強いんだろうとは思っていた。なんせ護衛だ。俺を覇王とかから護る護衛なのだからそれなりに強いんだろうとは思っていた。
まさか人間の何倍もあるサイズの猪を一撃で倒すレベルだとは夢にも思ってなかった。
「思ったほどではありませんでしたね。実際戦うのは初めてでしたが。この程度の魔物がメインなら魔物にやられて死ぬ、という可能性は無くなりましたよヨイチ様!」
そういって可愛い顔でニコッと笑うフィル。
頬に返り血がついている。何それ怖い。
何だろう、猫だと思って育ててたら実はライオンでした、みたいな気分なんですけど。いや別に育ててないけど。
今まで通り甘えてきてもいいんだけど、その爪ちょっと怖いな、みたいな。いや別に甘えられてないけど。
それにしても……。
「何でそんなに強いのにさっきあんなに怖がってたんだ?」
俺が尋ねると、フィルは少し照れたような顔をした。
「それはですね、槍を持ってなかったからだと思います。私、槍が大好きなんです。触ってるだけで安心できて、それどころかちょっと興奮してくるくらいで。あぁ、素晴らしいですよね槍って」
言いながらフィルは血塗れの槍を股に挟み、頬を擦り付け、体をクネクネさせている。
変態だ。新しいジャンルの変態だ。
「その槍はどこに持ってたんだ?今まで無かったよな?」
俺の疑問を聞いたフィルは得意げに笑うとローブを勢いよく跳ね上げた。肌面積の多い服装が露わになる。
「ここにご注目ください!」
フィルは片手で腹部を指し、もう片方の手で槍を前に掲げた。
フィルが槍を手放すと槍はキラキラと輝く粒子状の光になってフィルの腹部に巻きつくように集まって行く。やがて光が消えるとそこには槍が何重にも巻きついた様な模様のタトゥーが刻まれていた。
どうです!と言わんばかりに得意げな顔をするフィル。
あれか、この世界は何でもありか。
……あれ?
「フィルってイデア使えなかったんじゃ無かったっけ?」
「これはイデアではありません、私達はこういう種族なのです!」
ドヤ顔が止まらないフィルが続ける。
「私達槍の民は生まれた時からこの槍と、つまりこのタトゥーと一緒に成長していく種族なのです。体が成長していくにつれて槍も強く、長く、硬くなっていきます。物心ついた時にはもう槍の出し入れも完璧にできるんですよ?」
槍の出し入れってなんかこう扇情的な……いえ何でもないです。
それにしてもこの世界にはイデアとは別にこんな特殊な力があるなんて、カムランとかコンスタンティンも教えてくれればいいのに。
他の民もこんな感じの力を持ってるって考えてた方が良さそうだな。
……やっぱり槍の出し入れってなんかこう……やっぱ何でもないです。