お前の勘はよく当たる。
今回は前半と後半で舞台が違います。別の話にしても良かったのですが、あまりに短かったので一つにしました。
「ふふふ……私が、失敗?……ふふ、あはははは。私はやっぱりいらない子だったんだ。ふふふふ……」
フィルが森の出口に三角座りで座り込み始めてから随分経つ。俺が何を言っても無反応で、ぼーっと自分のローブの裾を弄んでいる。
「…………フィルルグのふーは不用品のふー♪フィルルグのいーはいらない子のいー♪フィルルグのるーは……」
とうとう自分の名前を使った歌まで歌い始めた。これはまずい。
「仕方ないな、それじゃあ一回戻ってカムランかピータンに聞きに行こうか」
とりあえず状況を変えるために俺が提案するとフィルは突然我に帰り、顔を青くして首を振った。
「それはダメです!だっ、大丈夫!私はこの近くにどの民族が住んでいるか位は記憶しています。ここから西へ真っ直ぐ行けば剣の民、北へ行けば花の民の領地がある筈です。ですが、ここから北へ向かうと『惑いの森』を通らなくてはいけなくなるので西へ向かい、剣の民の領地を目指しましょう」
大方、自分の所為で俺にまた歩きづらい道を歩かせるのが嫌なのだろう。いい子なんだけどな。
幸い、手袋も熱くなっていない。適当に言っている訳では無いらしい。
俺も惑いの森なんて物騒な名前の森は通りたくないし、ここはフィルの言葉に従って剣の民の領地を目指すとしよう。
そう、この時の俺は気付いていなかったのだ。俺のこの思考が、フラグ以外の何物でもなかった事に。
「フィル!この道さっきも通ったぞ!ほら、木に印!」
「そんな筈は……だって私達はちゃんと真っ直ぐに!」
「それが通用しないから『惑いの森』なんじゃないのか⁉︎」
「そんなこと言われましても!……あっ、伏せてくださいヨイチ様!魔物です!」
「なっおい!いきなり槍を投げるなぁ!」
そのすぐ後、俺達は惑いの森に迷い込んでいた。
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私は言い知れない不安に追われていた。
何かを伝え忘れている気がする。いや、ヨイチ様にはフィルルグが付いている、余程のことじゃない限りあの優秀なフィルルグに分からないことなど……。
ならば何だこの不安は。
「ピータン、さっきからうろうろうろうろと見ていて鬱陶しいぞぉ。何か、思うことでもあるのかぁ?」
カムラン様に叱られてしまった。
カムラン様が人を叱るなど、いつも叱られてばかりなのに……雨が降るかもしれないな。
しかし、私はそれ程までに不安を覚えている、ということか。
何か……何かを忘れて…………あっ!
「か、カムラン様ぁ!最初の目的地を!旅の順序を教えておりません!」
「な、何だとぉ⁉︎………………だが、まぁフィルルグも馬鹿ではない。余程の事がない限り惑いの森のある北を最初の目的地に選ぶ、という事はないだろう。……脅かすではないわぁ、これからのことに差し支えたらどうするぅ……」
カムラン様はそう言って椅子に座り直した。
そう、我らにはこれから大仕事があるのだ。とても、大事な。
……しかし、この胸騒ぎは。
「そんなに気になるのなら彼奴を送れぃ。性格はああだが、役に立たぬ訳ではあるまい。彼奴ならフィルルグ、延いては稀他人殿の居場所も分かろう」
「彼奴とは……彼女ですか?しかし、彼女は……」
「まぁ、稀他人殿には迷惑をおかけするだろうなぁ、申し訳ない。だが、死んでしまっては元も子もないのでなぁ。ピータン、お前の勘はよく当たる、急げよ」
カムラン様は真剣なお顔だ。あぁ、普段からこのようなご様子ならどれほど良いか。
「はっ」
私はカムラン様に頭を下げると彼女にこの事を伝えに向かった。
胸騒ぎがする、急がなければ。