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異ノ覇-コトノハ-  作者: 徳永慶喜
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はい、私は言葉がわかります。

 俺の名前は田中与一。ごく普通の高校二年生だ。でも学校に忘れ物を取りに行く途中に不思議な光に包まれて、気づいたら異世界にいたんだ。

 いやぁ、こんなフィクションみたいなこと本当にあるんですね。感動的だな、異世界!


 ……今の俺の感動に水を差す「いや、異世界かどうかなんてそんなすぐにわかんねぇだろ」という意見もあるだろう。だがーー


「目の前にオークみたいなのが沢山いるから異世界だって信じるしかないじゃないですかぁ。はははやだなぁ」


 おっと余りのことに口に出た。俺は今森の中で数十人のオークに囲まれている。オーク達は皆、俺に槍を向け、興奮によって剥き出しになった牙を光らせている、そんな状況だ。


 いやどんな状況だよ、おかしいだろ。


 こんなの俺が知ってる異世界転生と違う。こういうのは基本、突然異世界に飛ばされるもそこでとても強い美少女に出会い、なぜか言葉も通じる上にその美少女に惚れられちゃったりして。さらに主人公には世界を救うための力が宿っていて、最強の武器を手に世界を救う旅に出る、みたいになるはずだろ?

それなのにーー


「*××%+<°¥・<×」


 美少女はいないし、言葉も通じない。おまけに俺は恐怖で声も出ないときた。やれやれ……。


「*××%+<°¥・<×」


 オーク達は何度も話しかけてくる。いきなり槍で刺さないだけでも親切なのかもしれないけど。でもそろそろオーク達も限界だ。イライラしてるのが目に見えてわかる。何か喋らないと……。


「ええっと、武器を下ろしてください……とか、言ってみたり」


 オーク達の槍を持つ手に力が入った。おい、なんでだ。

 ……いや、そうだよな。いきなり現れたやつが訳分からない言語喋ったら警戒するよな。でも気づいてるかいオークさん達、俺もそれ、体験中だぜ?

俺の目の前にいる二人のオークが何やら話している。時々俺を指で指しているな。会話内容を予想してみよう。


「おい、こいつファッキンクレイジーモンキーだぜ。やっちまえよ」


「いいのかよ、じゃあ俺、いっちゃおうかな」


 そしてそのオークはそのまま槍を振りかぶり、俺の方へ投げた。


 おいおい、予想通りかよ。


 俺はとっさに目を閉じた。死ぬのか、俺。異世界厳しすぎるだろ。異世界人に優しくしようぜ。

 くっそ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない!















 ……長くないか?

 死ぬ前は時間が長く感じるとか、走馬灯を見る、とか聞いたことあるけど、それにしても長すぎる。それにバカみたいに静かだ。さっきまではオーク達の声や森の木のざわめきなんかがずっと聞こえてた。今はそれが一切聞こえない。


 怖いけど、目を開けてみるか。


 そうして開いた俺の目が最初に捉えたのは宙に浮かぶ槍だった。完全に止まっている。

 それどころか他の物も止まっていた。周りのオーク、空を飛ぶ鳥のような生き物、風に揺れる森の木々まで、全てが止まっている。まさか、時間停止?……この状況、つまり!


「俺の異世界での超能力は、時間停止なのか⁉︎最強じゃないか、最高にハイってやつじゃないか!」


「残念ながら違います」


 俺の最高のハイを邪魔したのは幼い少年の声だった。気付くと目の前に羽の生えた少年が立っている。いつの間に現れたんだこいつは。


「この時間停止は私の能力です。"私が時を止めた"ってヤツですね。この度は我々のミスで異世界召喚に巻き込んでしまい誠に申し訳ございません」


 少年はクリクリとした目を輝かせながら俺に頭を下げた。時間停止は俺のじゃないのか、残念。……って待て、異世界召喚に巻き込んだ?


「それって俺は間違ってこの世界に飛ばされたってことか?」


「はい、そうでございます。本当ならもっとイケメンでスポーツ万能、頭脳明晰で武の心得もある完璧高校生が飛ばされる筈だったのですが……」


 少年はクリクリとした目を申し訳なさそうにパチクリさせている。そんな申し訳なさそうな目をするならもう少し歯に絹着せようか少年、与一くん泣いちゃいそうなんだけど。


「それじゃあ俺は元の世界に帰れるってことだよな、そっちのミスってことなんだから」


「…………」


 何故目をそらす少年よ。


「まさか……帰れないなんてないよな?こんな危険な世界で。今だってお前が時間停止を解けば俺死んじゃうよ?」


 さっき気付いたが、今俺が動かせるのは首から上だけだ。このまま時が動き始めれば間違いなく俺の胸を槍が貫く。


「サービスでこの槍は破壊しておきますね」


 少年はそういって宙に浮かぶ槍をへし折った。自分がミスしておいて何がサービスだ、と言いたいところだが、正直ありがたい。その調子でその辺のオーク達も全員倒していって欲しい。言葉が通じないんです。比喩的な話じゃなくてほんとに。


「え?あ、そうですね、それじゃあそれにしましょうか」


 少年はそう言うと俺の方へ手を向けた。


「え?何がそれなんだ?それにするって何?」


「僕は心の声とか聞けちゃうんです。割と万能なので。ミスっちゃったお詫びに貴方の望み、叶えて差し上げようと思いまして。サービスですよ?」


 そう言った少年の手が光り始める。え、あれ、俺の心の声聞いたんならオーク達を全滅させるんだよな?何で俺に光る掌向けてんの?ビームとか出ないよね?え、大丈夫?俺死なない?


「安心してください、人体に害はありませんよ」


「いや!だから何して……うわうわうわっ!」


 光が俺の中へ入ってきた。優しく、暖かい光。何故かとても安心する。


「望みは聞き届けられました!それでは、良い異世界ライフを!」


 そう言って少年は翼を羽ばたかせ空へ浮かび上がった。


「え?」


 いや、オーク健在だし!てか、俺このままこの世界で暮すの⁉︎死ぬって!絶対死ぬって!


「てかお前誰だよ!!!」


「天使的なサムシングですっ!」


 少年のその言葉と同時に、世界は動き始めた。

少年は消え、騒がしいオーク達の声や森の騒音が帰ってくる。槍を投げたオークが折れた槍を見て呆然としている。


「おい、てめぇ!」


 オークの中の一人が叫んだ。

 違うんです、俺がやった訳じゃないんです。なんか知らない男の子が……って、え?


「言葉が……わかる?」


 オーク達がざわついた。


「貴様は、我等の言葉が使えるのか」


 何やら豪華な装飾をつけたオークが話しかけてきた。長のようなものだろうか、周りのオーク達が少しかしこまった様な気がする。


「もう一度聞くぞ、異なる者よ。貴様は我等の言葉が使えるのか」


 異なる者ってなんだ。そりゃ確かに俺はオークみたいな見た目はしてないけど、俺からしたらそっちが異なる者なんだけど。何はともあれ、言葉がわかる。理由なんて一つしか思い浮かばないけど、とにかく今は答えないと。


「はい、私は言葉が分かります」

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