第4話
「許せないわ……」
舞がふてくされたように机に顔を突っ伏したまま一言発する。
身近にいるのはいつものメンバー……
から義明を抜いた里緒と初雪だ。
彼女は先ほど、ダニエルに電話を掛け、軽くあしらわれた
所為もあってか、ひどく不機嫌なご様子。
時刻は正午を回り、皆が昼休憩を楽しむ時間帯。
舞達はもう既にご飯を食べ終え、団らんの時を過ごしていた。
「国際電話は通話料金が高いのだし、そう簡単に
かけて来れるものではないと思うのだけど」
本を一枚めくりながら退屈そうに舞を諭す初雪。
「そんなことくらい言われなくても分かってるわよ!」
机を思い切り掌で叩きつけながら怒鳴りつける舞に
沈黙を貫く初雪とはぁ、はぁと鼻息荒く興奮している里緒。
「怒ってる舞はいつ見ても良いなぁ……
僕だけに怒ってほしい」
「でも、もう世間はクリスマスよ、クリスマス!
この学園だってクリスマスパーティーの準備をとっくに始めてるわよ!
それなのに、大切な彼女に連絡の一つも寄こさないなんてどういう神経
してるのよ、あいつ!」
「大切に思われてないだけなのではないかしら」
「何ですって――――――!!!」
涙目で怒りながら初雪に食ってかかる舞と
変態性を微塵も隠そうとせずに怒っている舞を
ずっと眺めている里緒。
なんで、私こんな子たちと一緒に学園生活を送っているのかしら、と
初雪は思わず、自分の今の立ち位置に思い悩んだ。
「ったく、こっちは義明が遊びじゃなく仕事で向こうに行ってるから、
今かけたら迷惑になるかも、とか
考えて電話だってかけてないのに!」
「あら、あなたの事だからとっくに電話はかけていて
それを無視されているから怒っているものとばかり思っていたわ。
ごめんなさいね、私、あなたのことを誤解していたみたい。
あなたならこの期間にもう百回程度は朝飯前な気分で電話をかけていると
勝手に思い込んでしまったわ、その話が本当なら
勘違いしていた未熟な私を許して頂戴」
「ギクッ」
擬音を口に出す舞。
これでは先の自分の発言が嘘っぱちであることを公言している
ようなものだ。
舞の態度に全てを悟った初雪は、
少なくとも百回以上はラブコールをしているわけね、と
溜息を吐く。
「と、とにかく、今のこの状況は私の精神衛生上、
非常に芳しくないわ!
今すぐにでも義明の所に向かいましょ!」
「「!!?」」
予想外の言葉を口にする舞に絶句する二人。
「……ご両親がそれを許すとは到底思えないのだけれど。
特にあなたの父親は腫れ物を扱うようにあなたを愛でているじゃない」
「……腫れ物を扱うようにっていう部分はいらないと思うんですけど、
やっぱり、あんたって私を馬鹿にしてるわよね、馬鹿にしてるわよね!」
またしても、涙目で初雪に突っかかる舞。
そんな二人を里緒は満足げに眺めている。
勝気な女子二人を囲っているのだ。
ドMのメンタルを持つ里緒が喜ばない筈はない。
「そうだわ、クリスマスパーティーよ!
クリスマスパーティーで出店を開いてお金を稼ぐの!
稼いだお金でアメリカに行くわよ!」
「1日、2日で何十万もお金を稼げるわけがないと
思うのだけれど……
簡易的なお店でそんなに稼げるものならこの世界に
社畜は存在しないわ」
ここ、加木穴工学園の通常の学校にしては珍しく
クリスマスイベントが催される。
期間は12月21日、12月22日の二日間。
学生は自由参加であり、来場者は誰でもOKという
独り身の者に優しいスタンス。
こんな珍しい企画が通るのもイベント大好きなとある学生会長と
おもしろければなんでもオッケーな人格者である校長だからこそ
できることなのだろう。
出店は参加した学生が自由気ままに出している。
そして、舞も――――――
「クリスマスパーティーには参加するとして……
舞はどんな出し物をする気なの?」
里緒の問う言葉に思わず口端を上げる舞。
もうこの時点で初雪は嫌な予感しかしていない。
「私はね……〝占い〟よ!
迷える子羊たちの正しい道しるべを占ってあげるの!
私は舞姫様なんだから、神様同然のことをしても罰は当たらないわよね!」
「「…………」」
占い師と教会の神父と神様を一緒くたに考える舞に
里緒と初雪は沈黙を貫いた。
この場に義明が居れば彼女の暴走は止めることが出来ただろうが、
生憎とこの二人にそんな力はなく。
というよりも、里緒はそんな舞の暴走を支援する側で
初雪は何と言うかもう、とにかく無関心。
今も舞から視線を離し、本の文字列に焦点を置いている。
そして――――――
「それは〝占い〟と言うよりも〝カウンセリング〟に
近いのではないかしら?
もっと単純に〝人生相談〟?」
――――――単純な疑問を舞にぶつけるだけなのであった。
「…………いいのよ、それで!
第一、占いもカウンセリングも詐欺の温床じゃない!
っていうことは私が似たり寄ったりの詐欺まがいなことをやっても
許されるわよね!」
「…………」
絶句する初雪。
彼女はもうこれ以上のやり取りは不毛と感じたのか読書
の続きを始めてしまった。
「そうと決まれば、出店の申請よね!
ちょっと私、今から学生会室に行ってくるわ!」
行動力が半端ない舞に何も身動きできず、
その場に残されてしまった里緒と初雪。
彼女の姿はもう既にこの教室にはいない。
初雪が時計に視線を移す。
時刻は12時50分。
授業が始まるのは13時からである為、
まだ、学生会室に誰かが残っていれば
ぎりぎり、対応してくれる時間ではあるが……
クリスマスパーティーは明後日から始まる。
出店の申請期間はとっくに過ぎているに違いない、
もう手遅れだろう、と初雪が冷静に考えている最中。
ドタバタ、と騒がしい音が廊下から駆け抜けてきて……
バタン、とまたしても教室内に響き渡るドアが開く音。
それら騒音の正体は舞だった。
彼女は息も絶え絶えにこちらを向いている。
舞が教室から姿を消してまだ5分しかたっていない。
つまり、彼女がこんなに早く戻ってきた理由は一つ。
「……早かったわね、その様子だと学生会室には
誰もいなかったのかしら?」
「…………」
初雪の問いに沈黙を貫く舞。
どうやら息を整えるのに必死らしい。
初雪もそんな彼女をじっと見守り、
そして、ようやく落ち着いた所で彼女が一言。
「……受かったわ……」
「何?」
「だから出店の申請が通ったの!」
「「ええええええええええええええええええ!」」
里緒と舞の驚愕の声が教室に響く。
しかしながら、申請の許可を出した人物が
原本だと聞いて、
美少女好きの原本なら、と納得した。
2013年12月21日
クリスマスパーティー当日。
「ねぇ、本当にこれで大丈夫なの?
不安でしかないんだけど……」
「私が大丈夫って言っているんだから、
大丈夫に決まっているじゃない!!
何をそんなに怯えているのかしら、この子は。
そんなだからいつまでたっても彼女の一人も出来ないのよ!」
「…………」
舞の言いたい放題に黙してしまった里緒。
彼は決してモテないわけではない。
というよりもむしろ、この学園で一番モテているのは
彼だと言っても過言ではない。
彼は何度も女子から告白をされているのだが、
それを全て断っているだけだ。
一体、いつになったら気づいてくれるのやら、
この鈍感お姫様は、と里緒は思わず溜息を洩らした。
舞が出し物用に用意してもらったスペースは理科準備室。
確かにここならば、オカルト的な雰囲気は醸し出せるかもしれない。
そこは良いのだが、問題は……
彼女が用意した物は机一つと椅子が二つ。
そして――――――
黒子が被るような顔を覆う布が垂れた帽子一つとろうそく二つ。
ただそれだけであった。
「まあ、舞が大丈夫ならこれ以上は何も
言わないや、たったこれだけの道具で
占い、頑張ってね!」
「やっと、分かってきたわね、このポンコツさんは!
その通りよ、私が大丈夫って言えば、全てが上手く行くのよ!
なんてったって、私は天下の舞姫……」
「それじゃあ、頑張ってねー」
「最後まで聞いてよ――――――!!」
ドアが閉められる。
里緒にしては珍しい皮肉を込めた言葉も
舞には通じなかったらしい。
里緒と初雪は犯罪まがいなこの件について無関係を
装うために基本、舞に手を貸すことはしなかった。
触らぬ神に祟りなしを地で行く実に薄情な者達である。
里緒が去った後のこの空間は一人でいるとなかなかに
怖いものだった。
室内は黒いカーテンで覆われ、不気味な人体模型やら
虫の標本やらが周囲を囲んでいる。
そして、舞は机を真正面に椅子に座っているだけ。
机を挟んだ向かいには彼女の物と同じように椅子が
一つ用意されている。
「まあ、雰囲気は上出来よね!」
舞は一人で満足そうに頷く。
表の看板には〝占いの館〟と書かれた文字。
「さあ、今日は稼ぎに稼ぐわよ――――――!」
そうして、意気込み。
いざ、義明の所までレッツラゴ―作戦が始動したのだった。
「なんでよ――――――――――――!!!」
一日目のクリスマスパーティ―が閉会して一時間が
経過した頃、学園からの帰り道で舞の悲鳴が響き渡った。
「おかしいわ、おかしいわ!
絶対にこんなの誰かが仕組んだ罠よ!」
「罠も何も当然の結果よ。
なんでたかが占いに千円も払わないといけないのよ」
「だって、だって……」
「常識が欠如しているにも程があるわよ、
明日はその十分の一の値段にすることね」
今にも泣き出しそうな舞に初雪が助言するが。
「嫌よ、それだと、アメリカに行くのに
今の十倍の人たちを占わないといけないじゃない!」
「それ、諦めてなかったのね……」
「当然よ、その為に出店を出したんだし!」
と言う舞の手の中には乱雑に握りしめられたお札が一枚。
「その千円札はどうしたの?」
目に付いた里緒が思わず舞に問いかける。
「朝一番に来てくれた人が一人だけいたのよ!」
「「えっ!!?」」
この言葉には驚きを隠せない様子の二人。
実は今日の朝、こんなことがあったのだ。
丁寧に開けられる扉の音。
早速、来なさったわね、
いざ、義明の所までレッツラゴ―作戦の鴨一号が、と
舞は椅子に座ったまま、ほくそ笑む。
彼女は現在、黒子帽を被っている為、
誰が椅子に座っているか、どんな顔立ちなのか、
男か女かまで、お客さんに見えないようになっている。
つまり、舞から一方的にお客さんが視認できるだけ。
「へー、電気は全部消してろうそくの明かりのみに
してるんだ、本格的だね!」
呑気にそんなことを喋る被害者一号。
そんな人物が舞の目の前に座ると彼女は絶句した。
目の前に鎮座している人物は原本作音その人だった。
「……迷える子羊よ、本日はどのようなことを占って
ほしいのですか?」
多少、動揺したものの台本通りに話を進める舞。
それに対して原本は――――――
「どうやったら美少女と仲良くなれますか!?」
「死ねばいいと思います」
身を乗り出して聞いてくる原本に辛辣な言葉を投げかける舞。
「それ、もう占いなんて言わないよ、舞ちゃん」
「あんただからよ、それに舞ちゃん呼びは止めてほしいんですけど。
ぶっちゃけ引くんですけど、ドン引くんですけど、あり得ないんですけど。
それよりもなんであんたがここに来たのよ」
「そりゃあ、もちろん舞ちゃんの様な美少女と仲良く慣れるほうほ……」
「死ねばいいと思います」
「分かったよ、じゃあ、義明君との相性を占っ……」
ここで原本の意識は途切れた。
後日、彼にこの件を言及した所によれば。
彼が気付いた時には保健室のベッドの上。
財布の中身を確認すると、やはりと言うべきか
ちゃっかりしていると言うべきか千円札が一枚
減っており、この件を知った義明は舞を引き連れ、彼の下まで
行くと土下座させて、詐欺まがいに奪ったお金を返したらしい。
2013年12月22日
クリスマスパーティー二日目。
千円と言う高い値段で一人も客が来ないことを選ぶか
値段を引き下げて少しでも多くの客に来てもらうことを選ぶか、
という初雪の説得により、舞は値段設定を
泣く泣く千円から百円に引き下げてスタートした。
昨日の売り上げは千円。
ノルマは残りおよそ、99000円。
つまり、今日だけで9900人のお客さんを招き入れないといけない。
正直、不可能な数字であるが。
「厳しい数字だけど、私ならやってやれないことはないわよね!」
なんせ、天下の舞姫様ですもの、と声高らかに笑う
頭がお花畑なお嬢様。
しかして、ここから怒涛の巻き返しが始まる。
「……実は……僕、相ノ木舞ちゃんのファンなんですけど、
1ファンから抜け出して彼氏に…………」
「それは無理な相談ですね、彼女には
義明・オースティンと言う非の打ちどころがない完璧超人のイケメンが
彼氏にいます。
モブであるあなたはこれまでと同様、1ファンとして彼女、舞姫様を
崇めなさい。そうすれば、あなたはこの人生において
妥協できるラインギリギリで幸せに暮らせるでしょう」
「く、くっそ~~~~~~~~~」
「実は僕、舞姫様のことを慕っていて……」
「慕うよりも崇めなさい、そうすれば今まで以上に
あなたの人生はバラ色の輝きに満ち溢れるでしょう」
「く、くっそ~~~~~~~~~」
「実は僕、宇都宮初雪さんのことが……」
「彼女はビッチでドSな性格破綻者です。
彼女のことは忘れ、相ノ木舞さんのことを舞姫様と崇めなさい。
そうすれば、あなたの閉ざされていた人生は輝きを取り戻すわ」
「く、くっそ~~~~~~~~~」
「ふぅ、良い仕事っぷりだわ。
この分なら目標額まではきっともう少しよね!」
時刻は既にお昼を回っている。
占いとは呼べない内容だが、それでも
昨日とは違い、お客さんは自らお金を置いて行ってくれる。
初めて人の役に立っているその事実に妙な達成感を
感じている舞。
「もうこうなったら、お昼ご飯抜きで稼ぎまくるわよ!!!」
舞の宣言が室内に響き渡った。
とは言ってもやはり、この時間帯は食事処に人が
流れていくのだろうか。
やっぱり、お昼御飯食べるべきだったわ、なんて
舞が後悔しているのも束の間。
最後のお客さんが来てから数十分後。
暗い室内に久しい光が差し込む。
舞は眩しさに目を細めるがドアを開けた人物の
輪郭だけははっきりと見て取れた。
身長低めの小太りな体躯。
その体つきから中年男性であろうことは間違いない。
保護者だろうか、と舞が目星をつけていると
その人物はドアを閉め、ゆっくりと真正面の椅子に
腰を降ろす。
舞はようやく、彼の全貌を見たわけだが
やっぱり、見たことのない人物だった。
「迷える子羊よ、本日は我が占いの館にどのような用件を
持ってきたのですか?」
「……年頃の娘の……接し方を今まで間違えていたみたいで……
今後、どうしたらいいのかまるで分からないのです……」
「あなたは何も悪くありませんよ」
「!!?」
「あなたは誠意を持ってお子さんに接したのであればそれは
あなたが悪いのではなく、あなたを否定した世間が悪いのです。」
「おお、何と慈悲深い……
ありがとうございます、お館様」
心が弱っていると自分を肯定してくれる、
それだけですぐに見ず知らずの人にすら心を開く
心理の悪い性がここに現れていた。
そして、舞も〝お館様〟と言われて調子に乗っている様子。
「さあ、もう行きなさい。
これからのあなたの生に幸多からんことを。
神様はいつでもあなたの傍にいますよ」
「あ、ありがとうございます。
これで私は救われました、ようやく初雪とも正面から
向き合うことができそうだ……」
「!!?」
〝初雪〟という単語に身構える舞。
つまりはこいつがあのドSお嬢様、生みの元凶ってわけね、と
舞は席を立つ中年男性の背中に声を掛けた。
「汝、迷えた子羊よ……」
その言葉に振り向く男性。
「あなたの悩みの種である娘はまだまだ未熟な女の子です。
あなたが厳しく躾けてあげなさい。
何か、悪い事をしようものなら外出禁止を言い渡しなさい。
男子と喋っていようものなら不純異性交遊禁止条例を掲げなさい。
そうすることできっとあなたの大切な娘さんは立派な女性へと
これから成長することでしょう」
「おお、最後の最後まで貴重なお言葉を
ありがとうございます」
男は今度こそ本当に出て行った。
一仕事終えた舞はホッと一息入れる。
そんな無防備な時に限って
彼女的に来てほしくない人物が姿を見せた。
またしてもドアが開かれる。
プロレスラーと比較しても一回りも二回りも巨大な体つき。
ドシン、ドシン、と心臓に直接響いてくるかのような
ずっしりと重い足音。
彼女の目の前に座った人物は紛れもなく彼女の父
相ノ木重人だった。
「……迷える子羊よ、本日はどのような要件ですか?」
「実は、娘との中が上手く行っていないような気がして」
動揺を見せながらも話を進める舞に全く気付かない重人。
「安心してください、それは気のせいですよ」
「!?
本当ですか!?」
「はい、あなたの娘さんはあなたのことを大切に思っています。
これからも思う存分に甘やかしなさい!
これまで以上に甘やかしなさい!
彼女の言葉は全て受け入れ、彼女の行動は全て許しなさい。
そうすれば、あなたはこれまで以上に彼女と深い絆で
結ばれることでしょう」
「そ、そうですか……
ありがとうございます、これで気持ちよく眠れそうだ!」
席を立つ重人にまたしても後ろから声を掛ける舞。
「ただし、寝るときはマスクをして一番、彼女から
離れた寝室で睡眠すること。
でないと、今まで積み上げてきた彼女との絆は全て
崩れ去ります」
「……分かりました」
どうして、こんなにピンポイントでアドバイスできるのか
不思議に思う重人と悩み事があったからあのとてつもなく
五月蠅いいびきが最近は聞こえて来なかったのね、と理解した舞。
重人も出て行き、クリスマスパーティーも終盤に差し掛かる。
「見れるお客さんは後、一人くらいかしら……」
カーテンを少し開けて
彼女は終わりゆくクリスマスパーティーの夕焼け空を
窓から眺めた。
「結局、クリスマスっぽいことなんて一つも
出来なかったわ……」
自嘲気味に吐き捨てる舞。
そんな彼女の下に最後のお客さんがやってきた。
ドアが開かれる。
それに気づいた舞はカーテンを閉め、
そそくさと自分の椅子へ座る。
入ってきた人物は細身で背がすらりと高い金髪の男性。
それを見て舞が思ったのは外国人かな、ではなかった。
まるで、義明が成人したみたいだ。
そう錯覚してしまった。
「……占いをしてほしいんだけど、良いかな?」
彼が椅子に座った後も呆然としていた舞に思わず
声を掛ける金髪の男性。
彼の発する流暢な日本語から彼が外国人ではなく、
日本人であることを理解した。
「……迷える子羊よ、今日はどのようなご要件を?」
「実は、私には友達と言うものがいなくてね。
偶然通りかかったこの場所にちょうど良い雰囲気の
占い所が見えたから占い、というよりは相談に乗ってもらいたくてね。
どうしたらいいと思う?」
不意を突く彼の言葉。
これは舞にとって難題だ。
なんせ彼女の周りには自然と人が集まってくる。
気付けば人が自分を囲っているという状態なのだ。
そんな彼女にこの悩み事は荷が重い。
「……そうですね、
とりあえず……笑顔、ですね。
笑顔を浮かべていれば悪い気はしませんから
自然と人も集まってくることでしょう」
「では、そんなあなたの周りにはどんな人物がいますか?」
「そうですね、まずは完全無欠、完璧超人な男の子と
ドMな男の娘。
後は、憎たらしいドS令嬢とかそんな所ですね」
「ほう、それは実に面白そうな面々ですね。
ぜひ彼らについてお聞かせ願いたい。
まずは完全無欠、完璧超人な彼から……」
「お目が高いですね、いいですよ!
是非、お聞きになって行って下さい!」
彼から滲みでる親しみやすさに段々と素がでてくる舞。
彼女は結局、思う存分義明、里緒、初雪について
金髪の男性に語ったのだった。
「……とまあ、とりあえずここまで言えば分かったでしょうけど
何が言いたいかと言うとこの女はとりあえず、ムカつくってことよね!」
「ほお……」
もはや、いつもの口調で話している舞と
そんな舞の言葉を熱心に聞いている金髪の男性。
「いやはや、十分勉強させていただけました。
今日はありがとうございます。
これで私も明日から友達作りが捗りそうです」
そう言って、彼は席を立ち、そして――――――
「そういえば、お金をまだ払っていませんでした。
お金はここに置いておきますので」
言って舞の前に封筒を差し出す。
うっすらと見える中には何やら札が一枚入っているようだ。
「それでは今日は本当にありがとうございました。
また会える日を楽しみにしています」
「?」
そんな意味深なセリフを残して男は立ち去った。
そんなことよりも封筒の中身が気になった舞は
忙しなく封を切り、中身を取りだした。
すると、そこには――――――
成田、ニューヨークの往復航空券が一枚入っていたのだった。