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「うわーん!お母さん、ごめんなさぁーい!」
「ダメです!今回という今回は許しませんからね!」
寮のとある一室に早朝から響くふたつの声
ひとりは某ランキングで必ず上位に入っていた出雲凪
そしてもうひとりは凪に第2の母だと公言されている牧原悠斗、その人である
彼は密かに某ランキングの両方に入っているが、本人は気付いておらず自分は目立たない…と思っているちょっぴり天然な人なのだ
さて、今朝はなにが原因で喧嘩、というか躾が繰り広げられているのか
「夜中に目が覚めてしまったからといって、作っている途中のプリンや羊羹を黙って食べるなんて!僕が分からないとでも思っているんですか!?その上歯磨きもしないで寝たでしょう!?」
「ごめんなさぁい!今度からは勝手に食べないし、ちゃんと歯磨きするからぁ!!」
摘み食いと歯磨きに対する躾だった
「ダメです!一週間おやつ抜きで野菜週間です!」
「ふぇええーん!!」
会心の一撃!
出雲凪のヒットポイントはもうゼロだ
「勿論、買い食いや貰い物を隠れて食べたら一週間から1ヶ月に延ばしますし、最悪約束が守れないなら松林さん呼びますからね !僕に管理を預けて帰られたわけですし、もしも手を煩わせるようならすぐにでも専属執事に!って言ってましたから」
「やだぁー!!お母さん、僕のこと捨てないでぇ!!」
どこぞのオカンと幼い息子だろうか
腐っても此処は高等部という看板を背負った寮のはずだが
「ふぇっ、どーしよぉ…ゆうちゃん怒っちゃったよぉ」
2時間程の説教の後、凪は仲良くしている双子の部屋を訪れ今朝の事を話した
「えー?お菓子食べただけでそんな怒るのー?」
「むーは我慢できないよね」
「しーもでしょー?」
瓜二つな顔を合わせて、ねー!と可愛らしく首を傾ける
こちらも生粋のお坊ちゃんズな訳で、大切に甘やかされて育ったため社交性には問題なく高い能力を持っていても、こういうとこでは我が儘が出てしまうらしい
凪、相談する相手を間違っていないだろうか?
「だって、羊羹は大好きなのにあんまり作ってくれないし、プリンだって新作のフルーツのミルクプリンだったんだもん!」
ストックのために多めに作ってあった物を殆ど食べ、食べ過ぎて朝から腹痛を訴えていたら流石に怒るだろう
お母さんと呼ばれる彼が常に心配しているのは親友の体調なのだから
「ま、言い出したら聞かないでしょ?お母さんは」
「頑張ってね、凪ちゃん」
「「僕らは怒られたくないから」」
薄情かつ相談に乗る気などさらさらない双子
こちらも以前1時間程正座でお説教を受けたことがあり、若干のトラウマを植え付けら れたらしい
それからは悠斗の目に映るところでのイタズラや我が儘は控えている
「ふえぇーえん!」
えぐえぐと涙を流す凪
自業自得とはこの事ではないだろうか