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1年半以上前の過去を振り返り苦笑していると時計が7時50分を指していることに気づく
「食べ終わった皿はシンクの水に浸しておいてください」
「はぁい!」
朝食を作る為、悠斗は汚さないよう朝食を食べた後に制服に着替える
逆に彼の親友は着替えるまでに時間がかかり、朝食を食べた後に着替えるのでは登校時間に差し障るため先に着替えさせるのだが、最後のネクタイを締めたり食べかすを払うのは悠斗の仕事となっているので結局ゆっくりは出来ないのだ
シュッという布の擦れる音を聞きながら綺麗な形のネクタイを締める
もう1度、身嗜みを確認するため洗面台の鏡に自分を写す
彼自身は平凡だと思い込んでいる
しかし楚々とした奥ゆかしさと日本人らしい漆黒の瞳は切れ長で煌めきを放ち、同じく漆黒の髪はサラサラとした手触りの良さそうな艶がある
綺麗に配置された顔のパーツも彼の白く柔そうな肌と相まってその美しさを際立てている
身長は170前半と日本人男性の平均的な高さではあるが、細身で手足の長い悠斗は華奢ながら長身に見られたりしているのだ
その隣にはいつも凪という背の低い親友がいるのも理由 の1つではある
さらにその溢れる母性?が多くの信者を作っているが、いかんせん彼は鈍いので自分の容姿同様、その好意が敬愛なのか恋慕なのかすら分かっていない
親衛隊すら出来そうな勢いでその魅力が多くの人に広まっていると言うのに、だ
そう言う意味では彼の親友の方が鋭く、またその扱いを心得ていると言える
知らないところで自分の着替えなどの盗撮写真が高値で取引されていたり、それを防ぐため躍起になっている後輩もいるのだが知らぬが仏というのか、幸い彼の生活に大きな弊害は今のところないのだ
身嗜みを確認した後、リビングでテレビの占いに食いつく親友のネクタイを締め食べかすを払ってシンクに沈む食器を洗えばわたわたと2人分の鞄を抱えた親友が笑顔で近づいてくる
「ありがとうございます」
「えへへ、どういたしまして!」
頭脳明晰、運動神経抜群で見た目に反した優秀な人材であるに家事一切が出来ず、少々…いやかなり常識を知らない親友はお手伝いという物に今更ハマったらしい
親友が何も無いところで3回に1回食器類を割るというある種の奇跡を体験し、渋々食器をプラスチック製にしたという裏事情は悠斗本人しか知らないが、健気に毎日鞄を持ってくる姿は日々親友の後始末に悩まされているにも関わらず微笑ましくお礼を言ってしまう
前日凪が寝た後に翌日の分の時間割通り教科書やノート、参考書を入れ、朝凪が起きる前にバランス良く詰めたお弁当を入れたのが自分であっても
これが小さな子供を誉める親の心境なのだろうかと、密かに思いながら頭を撫で鞄を受け取るのだ
「身嗜みは大丈夫ですね?ティッシュ、ハンカチ、絆創膏、携帯、防犯ベルは持ちましたか?今日は委員会の活動があるので帰りは 一緒に帰れませんが、この間みたいに声をかけられてお菓子をくれたからといって相手の部屋には行かないこと、僕に見せる前にお菓子を食べないこと、分かりました?」
「うん!分かったよ、お母さん!」
「僕をお母さんと呼ぶなというのはいつになったら分かってくれるんでしょうね…」
恒例となった朝の点検と注意をして部屋を出る
“おはよーございまーす!”
“あ、おはようございます!”
「おっはよー!」
「おはようございます、皆さん元気ですね」
学校へ向かう途中でかけられる挨拶に律儀に返す2人
出会う生徒達は2人に対して挨拶しているのだが悠斗は気づいておらず、凪は相変わらず人気者だ、しかし皆礼儀正しいいい子たちだな、などと的外れな事を考えながら登校している
結構な頻度で下駄箱に入っているラブレターは間違えたのだろうと差出人の下駄箱に返す始末
故に、恋愛面にはクールなのだというの噂もまわっている
学校ではオカンとして名が通っているのにそんな一面もステキとさらに羨望を集めていることも、当の本人は知らない