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「お母さん、今日のお弁当なぁに?」
「食べ物を口に含みながら喋るんじゃない、朝食の最中に昼食の話をするな、学校で食べるときに確認すればいい、そして僕をお母さんと呼ぶなと毎日言ってるんですが?」
目の前で昨日散々騒いだホットケーキを形のいい口に入れ、リスのような頬袋が似合ってしまう愛らしい同室者の言葉に額を押さえながら言葉を返す
「えー!ゆうちゃんはうちのお母さんよりお母さんだもん!」
今学園内で持ちきりになっているある人物と同じ音の名を呼ばれた男はピクリと肩を揺らした
「僕の名は悠斗です!ちゃん付けは止めろとあれほど言ってるでしょう!」
それがゆうちゃんこと、牧原悠斗とその同室者にして某ランキング上位に必ず入っていた、出雲凪の朝の風景である
子供のように愛らしい、言い換えれば年相応の落ち着きがない同室者と生活を共にするようになってから、悠斗のお母さんと呼ばれる性質に拍車がかかった
某ランキング上位だった凪は大きな1人部屋を与えられたが、1人で生活出来ず親友に助けを求めた
その親友というのが他ならぬ悠斗だった
元々頼られれば助け、面倒見の良い性格だった彼は唯ならぬ雰囲気の電話に素早く行動を起こし、電話相手の親友の部屋を見て愕然とした
洗濯機が大量の泡を床に巻き散らかし、冷水を溜めた浴槽には湯垢が浮き、ベランダに干してある洗濯物は水浸しの泡まみれ、キッチンでは得体の知れない原色の物体がフライパンに焦げ付き、リビングには零れたジュースが染み込んだ絨毯に割れた皿が散らばっている
一体何をどうしてこうなったのか
痛む頭を押さえ、親友に動くな大人しくしていろと3度にわたり厳重な注意をした後、大惨事となっている親友の部屋を片付け、洗濯物を洗い直した上で皺もなく干し、泡だらけの床を綺麗に拭き、風呂掃除、リビングの絨毯の交換、ジュースの染み抜きをし、毒々しい原色の物体を袋に二重にして捨て、オムライスとコーンス ープにサラダと彩り鮮やかな食事を準備した
一息吐いて、大人しく待っていた親友のもとへ食事を運びふたりで食べる
中等部までは専属の執事に世話をしてもらっていたのに、高等部に入ったら自立をすると言い出した結果が半日も保たず惨敗となった親友を見て密かにため息をつく
幸せそうにオムライスを頬張る親友には著しく生活に必要な能力が欠けていたのだ
まあ、親友の容姿と学園の性質を知っていたあの執事が相当過保護でうんざりするのは悠斗自身も身をもって知っているのであまり責める気はないが