表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
夢日記短編集  作者: 幻想箱庭
4/5

大罪の君。強欲と愛敬

「さ~て。無事に標的を捕まえることが出来たし、あとは依頼主のところに届けるだけね」


 君はとても上機嫌に、網に掛かった一匹の魚を眺めている。

 体の色は金。金塊を彷彿(ほうふつ)させるこの魚が、今回の俺達のターゲットである。

 与えられた情報を(もと)に、財宝や希少価値のある生物を探し出し、運ぶ。それが俺達『代理屋』の仕事だった。


 どこかの大富豪からの依頼。

 内容は、この湖に棲む巨大な黄金の魚を手に入れるというもの。

 彼はその魚を渡した暁には、大金と大量の宝石を報酬として与えようと言ってきた――らしい。


 依頼を受けるかどうかを決めるのはいつも君次第だ。

 部下である俺達は後になってからそれを知る。


 金と権力しか興味のない君。

 そして女神のような美貌を持つ君。

 たとえその身体に強欲の大罪を宿していようが、俺は彼女を愛していた。


「あーっ!! 何よこれ!? こんなところに釣り糸なんか残すんじゃないわよ!」


 その時だ。

 突然、彼女は大声で叫んだ。

 どうやら俺達が仕掛けた網が、前に来た誰かが残した釣り糸と一緒に、杭に絡まっているようだ。


 魚はもう捕らえている。あとは網を引くだけだった。


「皆! 今すぐこの糸をほどくわよ!」


 君の合図に、俺も仲間達も急いで作業に取り掛かった。


 糸を切ればいいだけの話。

 そう思うだろうが、何しろ相手は巨大な魚だ。

 通常の道具では釣り上げることはまず不可能なため、簡単には切れないワイヤーを用いるのだ。


 ほどなくし、釣り糸は全て取り外された。

 と思いきや、まだどこかに残っているのか網は途中で引っ掛かり、引き上げることは出来なかった。


「あとどこよ! ……って、あーっ!! あそこ!」


 そう言って、君はある一点を指差した。

 その先にあったもの――足場の腐った、辺りに掴めるものなど何もない場所に、最後の一本が仕掛けられていた。


「……冗談じゃないわ。誰か! あの糸を外しに行ってちょうだい!」


 見つけるや否や、君は俺達に命令する。

 誰もが行くのをためらった。特に君がだ。

 あのような足場の悪い場所では、通った瞬間、高確率で湖にドボンだろう。

 だけど俺は、誰かが動くよりも先に、君に振り向いて欲しいがためにその場所へと走っていった。



 ――ドボンッ。



 あ~、やっぱり……。

 …………

 ……




「ありがとう! でかしたわよっ、〇〇君!」


 何だかんだで魚を引き上げることに成功した君は、全身ずぶ濡れになって帰ってきた俺に、笑いながらそう言ってきた。

 彼女の笑顔はとても眩しく、嬉しそうな表情だった。

 続けて、俺の濡れた衣服を見て、


「本当に、ありがとね。風邪をひかないうちに早く着替えなさいよ」


 と顔を近づけて、優しく耳元で囁いた。

 君の甘い囁きに、俺の心はときめいた。



 その後、無事に依頼を成し遂げた俺達は、依頼主である大富豪に大層気に入られた。

 そして羽を伸ばすという意味合いも含めて、彼の知り合いが運営しているという写真館に行った。

 ただし、写真館と言ってもそれはこの巨大な建物の一角にある、本当はエステやレストラン、更には土産屋まである、超がつくほど高級なホテルの中だった。


「じゃ、本日の仕事を終えた記念に、皆で一枚撮りましょうか!」


 パリッとしたスーツを着こなした店員がカメラをセットしている間、君は仕事終わりの際に見せる明るい笑顔と声で、俺達に言った。

 しかし、写真を撮るのはいつものことではなく、今回が初めてだった。


「ほら、並んで並んでー」


 彼女に促されるまま、俺は皆と一緒にカメラの視界に入る位置に移動した。

 一番後ろの、俺の親友がいる真横の辺りに俺は立った。その前に女の仲間が。そして君は一番前だった。


 別に俺はどこでもよかったのだ。

 君と俺では釣り合わない。今いるこの位置こそが、自分にふさわしい場所だと思ったからだ。

 とにかく俺は、側でなくても、俺という存在が君の映っている写真の中にいるだけで十分幸せだった。


「○○君、ちょっとこっちへ来なさい」


 いきなり君に呼び出されて、また何かやらかしてしまったのではないかと少し怯えた。

 カッコ悪いかもしれないが、少しでも君に嫌われたくなかった。

 恋人でもないのにそう思ってしまう。


 彼女の元に辿り着くと、突然俺の首に腕を回してこう囁いた。


「今回の功績のご褒美に、一緒に写ってあげる。特別だからね」


 そして、次に紡がれた小さな一言。


「……愛してるわよ」


 また君の甘い囁き。

 吐息と一緒に、君の髪から甘い香りが(ただよ)ってくる。


 暫くして、ようやくカメラの準備が終わり、俺達は写真を撮った。すぐに現像された写真には、君と俺が一番前に写っていた。

 「これは記念品だから!」と言って、君は店員から受け取ったそれを、大切そうに鞄の中にしまった。



 君の行動はとても不思議だ。

 金と権力しか興味のない君。

 自分が汚れることを極端に嫌う君。

 そして、俺と一緒に写真に写っている君――。


 君が、本当に俺を愛しているのかは分からない。

 それでも俺は、これから先の未来でも、変わらずに君のことを愛し、敬い続けていくだろう。




 君は、


 俺を愛していますか?




【END】

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ