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夢日記短編集  作者: 幻想箱庭
1/5

rainy

 今夜は大雨だった。


 とうに梅雨は明けたというのに、台風じゃないのか? と思ってしまうほど、私が住む地方は突然の集中豪雨に見舞われていた。


 カウンター席に置かれたテレビの向こう側では、ニュースキャスターのお姉さんが、しきりに現在の天候状況を説明している。各地で警報が出される中、私はたまたま立ち寄ったレストランから出ることが出来ずに、ただひたすら雨が弱まることを願いながら、中央のテーブル席に座っていた。


 ――今日中に帰れそうにないかも。


 待てど暮らせど止む気配のない外の様子にため息をついた私は、今晩はここで食事をしながら夜を明かそうと決め込み、アパートで心配しているであろう大家さんに一報を入れた。


「あの……。ここ、空いてますか?」


 連絡を終え、メニュー表を開いて料理を選んでいた私に、不意に誰かが声を掛けてきた。顔を上げると、そこには一人の少年が濡れた傘を持って、私の前に立っていた。


 レストラン内は、突然の大雨のせいでその場から帰ることが出来ない人や、外から避難してきた人でいっぱいで、座席のほとんどが既に埋まっている状態にあった。

 そのため、面識のない人達同士が一つのテーブル席を囲うのは別に珍しい光景ではなく、目の前の少年も周囲と同様、相席を願ったのだろう。


「あ……、はい。空いていますのでどうぞ」

「ありがとうございます」


 そう言って、私は隣の座席に置いていた荷物をどかして、彼に場所を譲った。

 一方の少年も、丁寧に頭を下げた後、傘をテーブルの横に掛けてから、私と合い向かう形で椅子をずらして、腰を下ろそうとした。


(……?)


 何故だろう。

 この人とは初めて会ったはずなのに、初めてじゃない気がする。

 もっとどこかで、この人と会ったことがある。


 本能的にそう感じた私は、席に着いた少年の顔を見つめながら、恐る恐る声を掛けた。


「……あの、××さんですか……?」


 自分でも自覚出来るほど、酷く小さな声。

 恐らく、普通の人なら何を言っているのか全く聞き取れなかっただろう。


「え……」


 しかし、少年は私の言葉に驚き、目を丸くしながらこちらを見ていた。

 暫しの間、互いに顔を見合わせる私達。

 まるで二人を取り巻くこの空間だけ時が止まったかのような、奇妙な感覚がそこにあった。


 やがて彼は、戸惑いの表情を浮かべながらも、おもむろに口を開き、尋ねた。


「あ、の……。〇〇さんですか?」


 私の名前を呼ぶ彼。

 やっぱり、この少年はあの人だった。

 リアルの世界では会ったことのない、だけど私にとってはかけがえのない、大切な人。


 雨の日のレストランで起きた、偶然にも似た出逢い。

 だが私は、この出逢いを決して偶然として片付けたくはなかった。


 やがて私達は静かに微笑みを浮かべると、注文した料理を食べながら、夜が明けるまでずっと一緒の席に座っていた。



【END】

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