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コミュ障な僕と自動拳銃  作者: イーノックZ
第1章 入部編
9/40

第7話  地獄の猛特訓② 格闘術編


 次の練習が行われるトレーニング室内に、僕は足を踏み入れる。

 トレーニング室内は、一般的なジムと同じくらいの部屋であり、様々なトレーニング機器がズラリと並べられていた。それだけではない。柔道場・剣道場まで完備してある立派なトレーニング室である。


 そんな立派なトレーニング室内をグルグルと見渡していると、腕を組みながら壁にもたれ掛かっている八幡宮優奈さんを発見した。



「ゆ、優奈さん!」



 僕が声をかけると、優奈さんは顔を上げるなり美しい笑顔を浮かべた。



「あら、神照君、もうそろそろ来るんじゃないかと思っていたわ。射撃練習は終わったのね」


「は、はい … 次は格闘練習ということなので、ここに … 」


「そう、それで射撃練習はどうだったかしら?」


「はい、それはもう … 結構楽しかったです。ぼ、僕の射撃の腕前は … まだまだですけど」


「ふふっ、それはよかった。射撃の腕前はこれから練習していけば上達すると思うから、それほど心配しなくてもいいわよ」


「は、はい」



 ところで目の前にいる優奈さんの長い髪が少し濡れている。汗で濡れているにしては濡れ過ぎている感じがするのだが … と思っていたところで、僕はとんでもないことに気が付いてしまった。

 現在の優奈さんは白いカッターシャツとチェックの短いスカートという学校指定の制服姿なのだが、その白のカッターシャツも髪と同じく少し濡れているのだ。その故、透けて優奈さんの下着が丸見えになっていた。



「あら、鼻から血が垂れているけど … 大丈夫?」


「ええっ!?」



 鼻に手をやってみると、真っ赤な血が手に付いた。

 僕は慌ててポケットからティッシュを取り出し、それを鼻に突っ込む。



「神照君、大丈夫?」


「あっ、いやぁ … もう、これで、大丈夫です!」



 優奈さんの透けている下着を見ただけで鼻血を出してしまうなんて … 恥ずかしい。

 しかも本人の目の前で出てしまった。絶対にバレてるだろうな。


 優奈さんの顔にチラリと目をやると、優奈さんは何やら口元を緩めて「ぷっ」と笑いを溢していた。



「ふふっ、やっぱり神照君は最高に可愛いわ! 透けて見えているわたしの下着を見ただけで鼻血を垂らすだなんて … 初心な少年ね。まぁ、予想通りの反応なんだけど」



 もしかして僕の反応を見て楽しむためにワザとやったのか!

 この前の脚を組んだときにスカートの奥が見えてしまったのもワザとやったものらしいし。優奈さん、あざとすぎる。



「神照君が射撃練習している時、わたしプールで泳いでいたの。だから全身少し濡れているんだけど、そこで濡れ濡れのわたしを見て神照君がどんな反応をするのか見てみたいと思ったわけ。あっ、そうそう、ちなみに透けて見えているのは下着じゃなくて、水着だから」



 な、なるほど … 水着だったんですね。



「まぁ、お遊びはここまでにしておいて … それじゃあ早速、格闘練習に移るわよ。まず本格的な指導の前に、神照君の実力を確かめさせてもらうわ」



 トレーニング室の端にある柔道畳まで移動すると、優奈さんは構えを取り意地悪そうな笑みを浮かべた。



「さぁ、いつでもかかってきなさい!」


「ええっ!? か、かかってきなさい って言われても … 」


「もちろん、わたしが女だからって手加減しなくてもいいわ。わたしを襲おうとする気持ちで本気で掛かってきなさい!」



 いやぁ … いきなりそう言われましてもですね。

 僕、今まで誰かと柔道も格闘も決闘もした経験がないし、どう行動すれば良いのか分からない。

 でも仕方なく見よう見まねで構えを取り、優奈さんに向かって突っ込むことにした。



「うわぁぁあああ!!」



 とりあえず優奈さんの身体を押し倒すつもりで突進し、自分の腕を彼女の細い胴体に巻きつけてタックルを決めようとしたその時、突然僕の片足が薙ぎ払われた。



「うわぁ!?」



 バランスを崩して倒れそうになる僕を見て優奈さんは一瞬ニヤリと笑みを浮かべたかと思うと、瞬時に僕の背後に素早く回り込み、



「よいしょ♪」


「!?」



 なんと僕の首に腕を回してきたではないか。

 そして次の瞬間、一気に首を締め上げられてしまう。



「うげぇ … !?」


「ふふっ、苦しい? まぁ、これでもわたし、随分と手加減しているんだけどね。さぁ、早くこの状態から抜け出さないと落ちちゃうわよ」



 ヤバい … 頭がクラクラしてきた。

 いくら手足をブンブンと振り回しても抜け出すことが出来ない。このままじゃ … 僕 …



「 ぅ….. ぁ …. 」


「ふふっ、苦しそうに顔を歪めている表情も可愛いわ。一日中眺めていたい気分♪」



 何言ってるんですか、この人!?

 僕の苦しんでいる様子を見て、優奈さんのテンションが高くなっていくような気がするのだが。



「ぅっ…… ギ …. ギブ …… 」



 しかし、ギブアップ宣言をしても優奈さんからの攻撃が収まる気配がない。ていうか絞めつけてくる力が増々大きくなってきている。

 次第に視界がぼやけていき、意識が遠のいていく。

 ヤバい、僕 … 死ぬのかな、と思っているうちに、目の前が真っ白になってしまった。







 どれくらい意識を失っていたのだろうか。


 僕が意識を取り戻した時、ます最初に視界に飛び込んできたのは優奈さんの綺麗な顔だった。

 彼女は口元に笑みを浮かべながら、僕の顔を見下ろしていたのである。



「ゆ … 優奈 … さん?」


「あら、やっと目を覚ましたのね。神照君が気絶しているときの顔、すごく可愛かったわよ!」



 またいきなり変なことを言う優奈さん。

 どうやら僕は気絶していたようだ。すると、そこへ、



「クックックッ、まったくマスターはやり過ぎなのだ。新人相手にそんな強力な技を使うだなんてな」



 聞きなれない男子の声が耳に入ってきた。


 頭がクラクラする中、その声がした方向に目をやってみると、トレーニング室の入口扉の前に1人の男子生徒が立っていた。

 彼の左眼は白い眼帯で覆われていて、右手は白い包帯にグルグルと巻かれており、制服の上から黒いコートを着込んでいる … 何か、いかにも中二病っていう感じの男子生徒。

 ここにいるってことは、この人も部員なのだろうか。



「圭人君、マスターって呼ぶのはやめて頂戴」


「良いではないか。マスターはマスターなのだからな」


「 … はぁ」



 優奈さんは困ったように溜息を吐いた。

 僕は恐る恐る優奈さんに尋ねてみる。



「あの … あの人も部員ですか?」


「ええ、そうよ。名前は … 」


「クックック、自己紹介くらいは自分でやらせてもらいたい」



 その男子生徒は包帯で覆われた右手を頭上に掲げると、何やら意味不明なポーズを取り始めた。



「我が名は、悪魔の王であるサタンの血を引く魔界北管理教育高等 使い魔殲滅部1年:ソーマガワ・ケイトだ! この右腕には古より封印された邪気眼が宿っている。我はこの邪気眼を完全覚醒させるために、日々修行を積み重ねているのだ!」


「 ……・」


「おや? お主、邪気眼とは何だという顔をしておるが … まぁ、邪気眼を持たぬ者には一生分からんだろう。だから説明は省かせてもらう」


「まーた始まったわ」



 優奈さんは実に呆れた様子で溜息をついていた。



「代わりにわたしが説明してあげるわ。あの子は1年4組所属の杣川そまがわ圭人けいと君。見ての通り … 重度の中二病ね」


「は … はぁ … 」


「一応、格闘練習の指導はわたしと圭人君が担当になっているから、そこのところはよろしくお願いね」


「よ、よろしくお願いします」







 それから優奈さんからいろいろと指導を受け、現在、僕は杣川圭人と向かい合うようにして構えを取っていた。

 僕の後ろでは、優奈さんが腕を組みながら見守っていてくれている。



「この格闘練習は実戦においてはあまり使う機会がないのだけど、銃が弾切れになって予備の弾倉もないっていう状況に陥った時の備えとして大切な練習なの。だからキチンと身に着けていないと、命取りになることもある」


「こんな僕でも上手く身に着けることが出来ますか?」


「確かに神照君は男の子の割に背が低い方だし、女の子みたいな身体つきしているけど、キチンと練習すれば身に付くわよ。じゃあ、さっき教えてあげた方法でやってみて。ファイトー!」



 そう言って彼女は僕の背中を叩いた。



「クックックッ、お主、この我輩に勝てるかな?」


「ちょっと圭人君、今回は手加減してあげてね。神照君は初心者なんだから」


「クックックッ、分かっておる。さぁ、我輩にかかってこい!」



 杣川圭人はまるでプロの格闘家のような真剣な表情を浮かべている。本当に手加減してくれるのかな?



「神照君、まずはパンチの基本形ジャブの練習からね」


「はい。じゃあ … 行かせてもらいます」



 優奈さんの合図で、僕は彼に向かって踏み込む形で左手を斜め前へと突き出した。

 対して圭人は、僕のパンチを片手で受け止める。



「ふむ。こんな程度の力では我輩を倒すことはできんぞ?」


「神照君、押し込むんじゃなくて当たる瞬間だけに力を込めるの」


「はい」



 後ろからフォローしてくれる優奈さんの声を聞いて、僕はもう一度ジャブを繰り出す。



「ふむ、さっきよりは良くなったぞ。では今度は連続で繰り出してこい」



 僕が続けてジャプを繰り出そうとしたとき、ふと圭人の様子が変化した。

 包帯が巻かれた右手を痛そうに押さえ始めたのである。

 僕は思わず手を止め、彼に駆け寄った。



「あの … 大丈夫?」


「ぐわぁっ … ちくしょう!  … また暴れ出しやがった!!」


「へっ?」


「恐らく、また奴等が近づいて来たみたいだな」



 この人 … 何を言っているんだ? 

 近づいてくるって … 誰が近づいてくるんだろう?



「はっ!! まさか、奴の狙いは … !?」



 すると、慌てた様子でポケットを探り出す圭人。

 そしてポケットから2つ折りの携帯電話を取り出した。



「ジャック! しっかりしろ! くそっ … 反応がない!」


「あっ … あのぅ … ジャックって?」


「ジャックとは、我輩の使い魔のことだ! くそっ、いくら呼びかけても反応がないぞ! これもカノッサ機関の仕業か!!」



 彼は携帯に向かって必死に何かを呟いている。この人 … おもしろいなぁ。



「反応がないって言っているけど、ただの充電切れでしょ?」


「なん … だと!? 腹が減っているのか。では飯を与えなければ!」



 後ろから飛んできた優奈さんの呟きを聞き、血相をかいてトレーニング室から出て行ってしまう圭人。

 あの人、携帯を使い魔って言ったよね。さすが、中二病だけに違うなぁ。



「いつもあんな感じなのよ。はぁ … 仕方がないわね。続きはわたしが相手してあげるわ」


「は … はい?」



 優奈さんが少しウキウキと喜んでいるかのように見えるのだが … 気のせいだろうか?


 その後、僕の格闘技レッスンが終了したのは午後9時。

 あれから優奈さんによる指導の下、数十回も気絶させられ、少しばかりトラウマとなってしまったのは言うまでもない。


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