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コミュ障な僕と自動拳銃  作者: イーノックZ
第1章 入部編
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第6話  地獄の猛特訓① 射撃練習編


 翌日の放課後、ショートホームルーム(SHR)が終わるな否や、僕は教室を飛び出して、昨日案内された超常現象調査部の拠点に訪れた。

 場所は地下2階にある射撃場。体育並みに広い射撃場にポツンと僕だけが1人いる。

 帰りのショートホームルーム(SHR)は僕の2-3クラスが一足早く終わったのか、他の部員はまだ誰も来ていないようだ。

 

 そこへ数秒遅れて同じクラスの須賀谷さんが階段から降りてやって来た。



「祐君、やっほー!」


「あっ、須賀谷さん」



 相変わらず須賀谷さんのテンションは高めだ。



「祐君、今日から射撃練習始めるんだよね! いよいよだね!」


「そ、そうだね」



 昨日の帰り際、須賀谷さんから地獄のような特訓頑張ってね、って言われたけど、アレはどういう意味なのだろうか。



「あ … あのぅ、練習って厳しいの?」


「うーん、たぶん厳しいと思うよ! 祐君の場合はね!」


「 … えっ?」


「だって祐君、男の子の割には肌も白いし、少し背も小っちゃいし … ひ弱そうに見えるからかな?」



 ああ、やっぱそう見えるんだ。



「ちなみに練習は射撃練習だけじゃないからね! 他には格闘技とか筋トレとか、身体を鍛えなきゃいけないんだよ!」


「そ、そうなんだ」


「うんうん! でも不安がらなくてもいいよ、祐君なら頑張れるだろうし!」


「あ、ありがとう」


「それじゃあ、あたしは今から昨日の解剖の続きをしてくるから、練習頑張ってねー!!」



 そう言って、須賀谷さんは階段を昇って行った。

 射撃だけじゃなく、格闘技・筋トレとかもこなさなければいけないなんて大変そうだな。

 まぁ、凶暴なUMA相手と闘うのだから、きちんと身体を鍛えとかないといけないよね。運動音痴な僕に出来るのかな?


 そんなことを考えながらしばらく待っていると、階段から2人の女子生徒が降りてきた。

 1人は八幡宮優奈さん。もう1人は … 初めて見る顔の女子生徒であった。



「あっ! あの人が昨日入部してきたという新人さん?」


「そうよ。今日から射撃練習を始めてもらうつもり予定だから、あの子の指導を頼めるかしら?」


「えっ … あたしが指導するの!? 上手く教えられる自身ないよ … 」


「大丈夫よ、帆南ちゃんなら出来るわ」


「うぅ … はーい … 」



 するとその女性生徒は僕の前までやってくると、ニコリと笑って手を差し出してきた。


 彼女の身長は150cmくらいだろうか。肩まで伸びた黒髪のセミロングヘアーで目鼻立ちは整い、天使みたいに可愛らしい女の子だ。

 右眼は白い眼帯で覆われており、学校指定ではないピンク色のカーディガンを着用。短めのスカートから伸びている脚は太ももまである長いソックスによって包まれてギュッと引き締まっていて、僅かに見える絶対領域が何とも眩しい。優奈さんの脚も美しかったが、この子の脚もなかなかの美しい形をしている。


  あっ … いけない、いけない。あまりにもスタイルが良いから見とれてしまった。



「あたしは2年4組の綾羽あやは帆南ほなみ。超常現象調査部の部員だよ。よろしくね!」


「あっ … 僕は、2年3組の神照祐斗です。こちらこそよろしく」



 自己紹介をして差し出された彼女の手を握ると、柔らかい感触と共にほんのりとした温かさが伝わってきた。

 女の子の手を握っているんだ … と自覚とき、自然に顔が熱くなっていくのを感じた。



「か … かわいい」



 一方、その様子を見ていた優奈さんはというと、かわいいと呟きながら、うっとりとした表情で僕を見つめてきていた。

 僕の反応に気づいたのか、綾羽さんも上目遣いの目をして僕の顔を覗き込んでくる。



「へぇ~、祐斗君って女の子と握手しただけで顔が赤くなるんだぁ~」


「えっ … いや、その … 」


「ふふっ、神照君は初心うぶだからね」



 僕の反応を面白がってか、綾羽さんは握ったままである僕の手をさらに両手で包み込んできた。



「どう? 女の子から手を握られて、今どんな気持ち?」


「ぁ … ぇ … 」



 僕の心臓の鼓動が速まっていく。

 もう顔から火が飛び出しているんじゃないかと思うほど、顔が熱くなってきた。


 なかなか手を離してくれない綾羽さんを見かねてか、優奈さんが止めに入ってきてくれた。



「こらっ、帆南ちゃん! 神照君はわたしのペットなんだから、そこまでにしてあげてね。あっ、そうそう、早く神照君に射撃練習の指導をしてくれるかしら?」


「へぇ~、優奈部長のペットなんだぁ~。見た感じ何でも言う事聞いてくれそうだからね」


「だ・か・ら、早く神照君に射撃の指導を!!」


「はいはい、了解でーす!」



 綾羽さんは未だに顔の熱さが冷めない僕に向き直ると、ペロッと舌を出して頭をかいてみせた。



「えへっ、さっきは困らせちゃってゴメンね!」


「う、ううん、別に … いいよ」


「んじゃ、あたしは今から射撃練習の準備をしてくるから、ちょっとだけ待っててね~」


「分かった」



 そう言い残し、綾羽さんは階段の近くにある鉄製の扉を開けて中に入って行ってしまった。

 僕がチラリと優奈さんの顔を見ると、彼女はニコリと微笑んだ。



「ここで1つ忠告しておくけど、なるべくあの子に気に入られないようにしてね」


「えっ … ? 何で、ですか?」



 僕がそう尋ねると、優奈さんは小さな声でこう答える。



「あの子は … ヤンデレだからよ」


「ヤ … ヤンデレですか?」


「そうよ。ヤンデレの意味くらいは、神照君でも知っているわよね?」


「は、はい」



 ヤンデレの意味くらいは知っている。

 人間の性格・状態を表す「病んでいる」+「デレ」を意味する合成語だったような気がする。ツンデレと同じ萌え属性の一つらしいが。



「帆南ちゃんは、好きな男の子が出来ると徹底的にストーキング・盗聴・盗撮をしたりするのよ。しかも相手が他の女の子と親しげに話していたら大変よ。一気にヤンデレモードに突入してしまって、手を付けられないようになってしまうから。まぁ、これも相手のことを愛するが故の行為なんだけどね。」


「そ、そんなことするんですか? で、でも … 明るくて優しそうに見えましたけど … 」


「そう、神照君が言った通り、帆南ちゃんは優しくて明るい子よ。普段はね。帆南ちゃんがヤンデレになってしまったのには … 深い事情があるのだけれど、神照君には今は話せないわ」



 ヤンデレになってしまった原因か。気になるけどプライベートなことだからな。



「だから神照君、帆南ちゃんに気に入られないようにしてね?」



 気に入られないように、って言われましても、どうすればいいんだろう。



「それじゃあ、わたしは調べ物があるから行くわね。射撃練習頑張って!」


「は、はい!」



 優奈さんが立ち去ると同時に、先程の部屋から大きなケースを抱えた綾羽さんが出てきた。



「おまたせ~、今から射撃練習をするね!」


「う、うん」


「じゃあ、こっち来て」



 帆南さんの後をついて行くと、射撃場内横一列にズラリと並んでいる射座レーンと呼ばれるデスクの1つの前までやってきた。

 デスクの上に大きなケースを置いた帆南さんは、そのケースの中からヘッドフォンみたいなものを取り出し、僕へと手渡してきた。



「はい、これ」


「これ … 何? ヘッドフォン?」


「違うよ。これは防音用イヤーマフだよ。室内で射撃練習をする時は音が響くから、これを付けなきゃ耳がやられちゃうの」


「な、なるほど」



 防音用イヤーマフを受けると、次に帆南さんは黒い拳銃を取り出した。



「祐斗君、これが拳銃だよ。ちなみにこの拳銃の名前知ってる?」


「いや … 僕、銃には詳しくないから … 」


「これはね、H&K USPという拳銃なの。ドイツの銃器メーカーであるヘッケラー&コッホ社が開発した自動拳銃だよ。非常に高い精度と信頼性から世界各国の特殊部隊で使われている有名な銃で、口径は9mm、9mmパラベラム弾使用、装弾数は15+1となっているよ」



 ちょっ … 一気にそんなことを説明されても、チンプンカンプンで分からないんだけど!

 僕がポカンとしたような表情を浮かべていると、綾羽さんは慌てたような表情を浮かべて「ゴメン」と呟いた。



「ゴメンね、そんなこと言われても分からないよね。昨日入部したばかりなんだし」



 やはり銃を扱うからには、銃のことについて詳しく勉強しなければいけないのかな?



「い、いえ … でも綾羽さん、詳しいね」


「まぁね。銃を扱っていくうちに自然に憶えちゃうものだから、祐斗君も自然に憶えると思うよ」



 そして帆南さんは先程のH&K USPという拳銃を僕に差し出してくる。



「口で説明しても分からないと思うから、実際に撃って身体で覚えた方がいいよね。はい、コレ」


「あっ … どうも」



 僕はその黒い拳銃を優しく受け取った。

 やはり普通のエアガンとは違い、ずっしりとした重さである。



「ここで注意事項! 銃口は決して覗かないように! あと決して人には向けないように! また標的に狙いを定めるまで引金トリガーに手をかけないこと! 暴発しちゃったら大変なことになるからね、分かった?」


「う、うん」



 そのように注意を受けて、僕は改めて今手にしている銃は命を奪う兵器なのだと実感した。当たり前だけど、そこらのエアガンとは違うのだ。



「一応、弾は全部装填してあるから、後は引金トリガーを引くだけで弾丸が発射するよ」


「な、なるほど」


「じゃあ、防音用イヤーマフを付けて、早速撃ってみよう!」


「うん」



 防音用イヤーマフを耳に装着し、僕は拳銃を手にしながら射座レーンに立った。

 前方約15m先には、円形状の的がぶら下がっている。的は可動式となっているらしく、上部にはレーンが付いている。

 たぶん練習を重ねていくうちに、徐々に距離を伸ばしていくのだろう。



「まずは構え方から説明するね。祐斗君は右利きか左利き、どっち?」


「右利き」


「じゃぁ腕を構えるとき、左手と右手の力の配分は70:30になるようにしてね。要するに左手で銃をしっかり押さえこんで固定するってとこ。その際に右手にも力が入ると思うけど、引き金を引くことに集中させてね。じゃぁ、レッツゴー!」



 僕は言われたとおりに銃を構える。狙うは15m先にある円形状の的。

 時々、綾羽さんが直接構え方の姿勢を手直しするために僕の身体に触れてくるので、物凄くドキドキするが今は的を狙うことに集中だ!

 標準を的の中央に定め、そして引金トリガーを引く。


 パン! という高い銃声と共に、腕に強い反動が襲いかかってきた。

 後ろに倒れそうな勢いだったものの、綾羽さんが手直ししてくれた姿勢のおかげで何とか踏ん張ることは出来た。



「あっー、おしい!」



 見れば僕が撃った銃弾はまったく的に命中していなかった。



「あの … 撃った後、銃口が大きく上に逸れるんだけど大丈夫かな?」


「あー、大丈夫だよ。弾が出る瞬間に、銃口がきちんと的に向かっていたら平気だから。銃を撃った直後、銃口は反動で上方に行こうとするけど、なるべく反動は小さくしておいた方がいいかもね。実戦では、こうしてゆっくりと撃つことはあまりないし、標敵も多くなるから、すばやく次の標準を合わせなきゃいけないの。反動が少ない方が次の狙いも定めやすいでしょ?」



 綾羽さんはニコリと微笑むと、僕の背中をポン!と軽くタッチしてきた。



「じゃっ、もう一度行ってみよう! ちなみに銃を前へ押し出すように構えると反動を押さえやすくなると思うよ」


「う、うん」



 そして僕は再び引き金を引いた。

 パンッ! という音と共に銃口から発射された弾丸は、的の端にだけど命中することが出来た。



「おおっ、すごい、すごーい! やったね!」


「いや … どうも」


「ほら、どんどん撃っていこう!」



 引金トリガーを引き、射撃を再開する。

 そのまま何度も何度も射撃を重ねて16発目を撃ち終えたとき、カチカチという音が鳴って弾が発射されなくなった。

 引金トリガーを引いても弾は発射しない。



「弾切れだね。ほら、銃のスライドという部分が後退しているでしょ? 弾倉マガジン内にある弾丸がすべて発射されると、スライド部分が後退したままで停止するの。このことをホールドオープンっていうから、覚えておいてね」



 なるほど、銃の専門用語もちゃんと覚えなきゃいけないんだな。



「よし、じゃあ、次は弾倉マガジンの交換をしてみよう。まずはここのマガジンリリースボタンを押してみて」



 言われたとおりに指定された箇所のボタンを押すと、空になった弾倉マガジンを取り出すことが出来た。

 そして彼女から手渡された新しい弾倉マガジンを差し込んむ。

 えーと、次は何すればいいんだろう? スライド部分が後退したままなんだけど … 。



「新しい弾倉マガジンを差し込んだら、スライドストップという部分を押してね。するとスライドが前進して弾丸が銃の本体に送り込まれるから」



 言われたとおりにスライドストップという部分を押すと、カシャっと音を立てながらスライドが前進した。



「じゃあ、この調子でじゃんじゃん撃っちゃって! 今日は弾倉マガジンを10個用意したから、すべて撃ち終えることがノルマね!」



 僕は射撃を再開した。

 撃っては弾倉交換。撃っては弾倉交換。その動作を繰り返すだけ。

 徐々に銃声と反動に慣れてきたのは良いものの、指や腕が痛くなってきた。


 そしてノルマである10個の弾倉マガジン、計150発を撃ち終えると、綾羽さんはニコリと笑って拍手をしてくれた。



「よし、今日の射撃練習はここまででいいよ。お疲れさん!」


「 … はぁ」



 そう言って綾羽さんは、タオルで僕の額から流れ出る汗を拭いてくれた。

 思いのほか、射撃は体力を消費するんだな。ずっと的に弾丸を命中させるために精神を集中させるからね。


 僕はお礼を言って彼女の顔に目をやった。

 彼女はまるで天使みたいな優しい笑みを浮かべ、優しく僕の汗を拭いてくれる。

 こうしてみる限り、彼女は献身的で優しい女の子だと思うんだけどな。とても盗聴・盗撮・ストーキングをするようには見えない。



「祐斗君、初心者なのに結構上手いね! 祐斗君ならこれからもっと上達すると思うよ」


「そう … かな? その割には、あまり的に当たってないと思うけど」


「だって祐斗君、射撃は今日が初めてなんだよね? 練習すればもっと的の中央に命中するようになるよ。上達していくたびに的の距離を伸ばしていくから、すこし難しくなるかもしれないけど … 大丈夫だよ!」



 生まれて初めて実弾による射撃を体験したわけであるが、的に命中するたびに射撃の面白さが増していくのを自分自身で感じることができた。



「拳銃に慣れてきたら、ショットガンとかアサルトライフルとかの銃を使った射撃の練習をしていくから覚悟してね」


「うん。あと … ちょっと聞いてもいい? 優奈さんはやっぱり部長だから … 射撃の腕前は上手いの?」



 そう尋ねた瞬間、綾羽さんが意味深な笑みを浮かべた。



「祐斗君って、優奈部長のことが気になるの? もしかして優奈部長のことが好きとか?」


「い、いや … 僕は、そんなつもりで、言ったんじゃないんだけど … 」


「優奈部長の射撃の腕前は凄いよ! 優奈部長は様々な種類の銃を上手く使いこなすし、ほぼ百発百中で的に当てちゃうんだよ。あたしの憧れなんだぁ~」



 やっぱり優奈さんはこの部の部長なだけに、射撃の腕前はハンパないみたいだ。



「えーと、もう5時かぁ。これで射撃練習は終わりだから、次は格闘練習だね。格闘練習は射撃場の隣にあるトレーニング室でやるみたいだから、次はそこに行ってね」


「うん、分かった。今日は … 射撃の練習指導してくれて、ありがとう」


「へへっ、どういたしまして! じゃあ次の練習も頑張ってね!!」



 笑顔を浮かべながら手を振る綾羽さんの元を後にし、僕は射撃場のすぐ隣にあるトレーニング室へと向かうことにした。


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