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コミュ障な僕と自動拳銃  作者: イーノックZ
第1章 入部編
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第5話  グロ好き少女


「ここは地下1階で、主に部員が生活するフロアよ。キッチンや浴室などの生活に必要なモノが完備されているの」


「へ、へぇ~」



 細長い廊下を歩きながら、僕は優奈さんから説明を聞いていた。

 射撃場の上にあるというこの地下1階フロアは、先程優奈さんが言った通りに部員が生活するフロアなのだそうだ。キッチンや入浴室、それに部員が寝泊まりできる個人部屋が10室もあるという。

 もはや、ここで一生暮らしていけるんじゃないかと思うほどの設備が整っている。これには僕も驚いた。


 やがて廊下の突き当たりにある分厚そうな鉄製の扉の前にたどり着いた。

 入口に掲げてあるプレートには『解剖室』と書かれてある。



「さて、着いたわよ。今から入るこの部屋はちょっとグロテスクな部屋だから覚悟してね」


「は、はい。まぁ … 名前が解剖室ですからね」


「そう。捕獲したUMAの生態を詳しく調べる部屋よ。さぁ、入りましょう」



 そう言って優奈さんが扉を開けると、中から少しばかり生臭いニオイが漂ってきた。

 何だろう、このニオイ。出来れば入りたくないんだけど。



「神照君、どうしたの?」


「い、いや … 何でもないです」



 意を決して中に足を踏み入れてみると、1人の少女が台に向かって熱心に何かの作業をしているのが目に入った。

 そして僕たちが入ってきたのに気が付いたのか、少女がこちらに顔を向けてくる。すると、



「ん、おおっ! ゆなっち部長、こんちはー!」



 その少女は、髪を明るい茶髪に染めたセミロングヘアーで、紺のニット帽子を被っている元気そうな少女だった。

 なんか見たことある顔だな … と思っていると、僕と同じクラスメイトであるということに気が付いた。確か名前は …



「めいちゃん … だから、そのあだ名はやめてくれるかしら?」


「ええーっ、いいじゃんいいじゃん! ゆなっち、満更でもなさそうだし!」


「あのね … 」



 ゆなっちって呼ばれた優奈さんは怒った様子であるものの、本当に満更でもなさそうに少しだけ微笑んでいた。

 その少女の視線が僕の方へと移る。



「隣にいる少年君って … もしかしてゆなっちの彼氏?」


「ちっ … 違うわよ! 新入部員よ、新入部員!」


「おお~、この部にも遂に新入部員が来たんだね!」



 新入部員と聞いた瞬間、少女は嬉しそうに飛び上がって僕の方に近寄ってきた。

 可愛らしい笑顔を浮かべながら、手を差し伸べてくる。



「やほっー♪ あたしは2年3組、出席番号15番、須賀谷すがやめい! よろしくねー!」


「あっ … えーと、僕は2年3組の神照祐斗。よ … よろしく」


「おおっ♪ あたしと同じクラスだったんだ! まぁ、とりあえずよろしくー!」



 須賀谷めいという少女は、差し出した手を僕に近づけてくる。

 たぶん、彼女は握手を求めてきているのだと思うのだが … 彼女の手には赤い液体が付着している。その赤い液体は一体何なんだろう? 絵の具かな? それともインク?

 非常に気にはなるものの、握手を断って彼女を傷つけてはいけないと思い、仕方なく彼女の手を握ることにした。



「いや~! やっぱ新入部員君が増えてくれると、あたしも嬉しいよ! ねぇ、ゆなっち!」


「まぁ、そ … そうよね」



 少し引きつったような表情を浮かべ、こちらを見てくる優奈さん。どうしたんだろう。


 須賀谷さんと握手を交わした自分の右手を見てみる。

 そこには彼女の手と同じく真っ赤な液体が付着していた。

 とりあえず匂いを嗅いでみると … 鉄臭いニオイがする。これは絵具でもインクでもなさそうだ。例えるならば … まるで血みたいなニオイ。もしかして … 本当に …



「ゆ、優奈さん、この赤いヤツって … なんでしょうか?」


「ああ、それは血よ。後で手を洗ってきた方がいいわね」



 血ってことは、須賀谷さんの両手についている赤い液体も血ってことだよね … 何の血なんだ!?



「めいちゃん、だから解剖するときは手袋をつけなさいって何回言ったら分かるの? もし感染症にでもかかったら、どうするのよ?」


「あははっ、ゴメーン。だってぇ、手袋つけるのメンドイし!」


「次からはちゃんと手袋つけるのよ?」


「了解です、ゆなっち!」



 須賀谷さんは先ほどを同じように台に向き直す。

 僕は近くの水道で手を洗った後、恐る恐る彼女が何をやっているのか拝見させてもらうと … なんと、彼女はチュパカブラを解剖していた。

 台上には金具で固定されたチュパカブラがあり、周辺には臓器や血などが散乱している。

 それらを見て不気味な笑みを浮かべている須賀谷さん。ものすごく怖い。



「ねぇねぇ、祐君も見てみて! この鮮やかな赤色の血、そしてこの内臓の形といいゾクゾクしてくるよね!」


「 ……… 」



 あまりにグロすぎて、これ以上見ていられなかった。

 僕の隣では、優奈さんも苦笑いを浮かべている。



「めいちゃんはね、グロいのが大好きらしいの。特に血が大好物らしく、あたしが怪我したときは何回血を舐められたことか … 」


「へ … へぇ … 」



 須賀谷さん、見た目は物凄く可愛らしいのに、こういう趣味を持っていたなんて … 。

 


「どう、めいちゃん、何か分かった?」


「うーん、いつもと変わらないってとこかな? 何も新発見なし」


「そう … っで、神照君、そこで何してるの?」



 優奈さんがそう僕に尋ねてきた

 僕は今、気持ち悪くなったので水道に顔をうずめているところだったのである。

 それよりグロ好き須賀谷さんならともかく、優奈さんもよく平気でいられますよね。



「優奈さん、あんなモノ見てしまったら … ちょっと気持ち悪く」


「大丈夫? まぁ … 今日入部したばかりだから仕方ないわよね。でも時期に慣れていくから大丈夫よ」


「そう … ですか?」


「そうよ。それで神照君が具合悪そうだし、今日はこの辺にしておこうかしら? じゃあ、射撃練習は明日から行うわね」



 優奈さんに背中をさすられながら、『解剖室』から出て行こうとしていると、最後に須賀谷さんからこう声を掛けられた。



「祐くーん、明日の射撃練習、頑張ってね~! 地獄のような特訓が待ってると思うけど、気にせずにファイトー!」


「あ … ありがとう」



 今、地獄のような特訓が待っているって聞こえてきた気がするんだが … これからの僕の部活生活、本当に大丈夫なのか?







 部活の拠点を後にし、学校をも後にした僕らは、現在自宅を目指して薄暗い道路を歩いていた。

 僕の隣には八幡宮優奈さんが付き添ってくれている。優奈さん、僕を家まで送り届けてくれるらしいのだ。



「あ、あのぅ … わざわざ … すみません」


「別にいいのよ。わたしも家がこっち方面だから」


「そう … ですか」


「それより具合の方は、もう大丈夫なの?」


「は、はい!!」



 夕食時間帯である午後6時の住宅街にはどこか家庭から漏れ出た晩御飯の匂いが漂っており、そこに2人の足音が鳴っているだけの静けさ。そして女子と2人きりという時間。

 緊張と恥ずかしさの影響で、僕のコミュ障が威力増幅されて発揮さえてしまう。



「 …… 」


「 …… 」



 うっ … どうしよう。沈黙タイムが訪れてしまった。分かっていたことだけど、なんか気まずい気分。

 僕にとって沈黙自体は平気なんだけど、『コイツ、早く話しかけてこいよ!』って相手は思っているだろうな~、と言うように相手側の気持ちを想像してしまうと、僕は平気でいられなくなってしまうのである。


 やばい … 何か話さなくちゃ … 。えーと、えーと、話題は何にしようか?

 同性とすらまともに話したことが無いのに、異性と話すだなんて … ああー、考えれば考えるほど頭が真っ白になっていく。



「あっ、え、えーと、今日はいい星空ですね」


「そうよね。つい見とれちゃうほど星が綺麗よね。神照君は星って好きかしら?」


「 … はい」


「へぇ~、わたしもよ。一番好きな星はデネブかしらね。デネブは地球から約1800光年先も離れているのに1等星の明るさで輝いているのよ。あんなに遠く離れていても最も明るい1等星だなんて凄いと思うじゃない?」



 ええっ!? 優奈さん、めっちゃ星のことについて詳しいじゃん!!

 確かに僕も星っていうか、宇宙のことには興味があるけど、それほどベラベラ詳しくは知らないんだけど。



「 …… 」


「 …… 」



 再び訪れる沈黙。

 あああああああああああああ!! もうヤダ! 

 こうなったらもう、僕なんか一生会話できなくてもいいや!

 生まれてこれまで17年間、人生諦めました!


 1人心の中で絶望感に浸っていると、優奈さんがクスッと笑いを溢した。



「神照君、さっきわたしに話しかけてきたよね? アレ、無理して話しかけたんでしょ?」


「えっ … !? ど、どうして … 分かったんですか?」


「ふふっ。だってわたしは神照君のことならなーんでも分かるから」



 やっぱりこの人、エスパーなんじゃないのか?

 優奈さんは一度満点の星空を見上げると、静かにこう言った。



「神照君、別に無理して話そうと思わなくてもいいわよ。わたしは別に『早く何か話しかけてきて頂戴!』って思ってないから」


「そ … そうですか?」


「そうよ。それにわたしは神照君がコミュ障だってことを知っているわけなんだし、無理に話そうと思わなくてもいいってわけ。でも神照君はコミュ障で悩んでいる様子だから、いつかわたしが克服させてみせる。分かってくれた?」


「は、はい!」


「よしよし、偉い子ね」



 そして優奈さんから頭を撫でられる僕。

 思わず赤面してしまう僕の様子を見て、優奈さんはさらにうっとりとした表情を浮かべた。



「ふふっ、神照君って可愛い」



 優奈さんは何度も何度も僕の頭を撫でてくる。

 この時の彼女はとても優しい目をしていた。どこか悲しげな表情が混ざっている優しい目。



「あ、あのぅ … 優奈さん、ちなみに部員って何人いるんですか?」



 僕は思わずそう尋ねかけていた。

 優奈さんの表情が徐々に悲しげになってきたから、無意識に出た言葉であった。


 すると優奈さんは我に返ったかのようにハッ!と顔を上げ、いつもの美しい笑顔を浮かべた。



「全員で5人よ。わたしと神照君、めいちゃん … あと他に2人いるわ。2人は用事があって今日の部活には来なかったんだけど … 明日2人を紹介するわ」


「わ、分かりました」



 そして再び歩くこと数十分後、ようやく僕らは足を止めた。

 足を止めた先にあるのは、一般的にどこにでもあるような2階建ての一軒家。そう、僕の自宅である。



「ここが神照君の家?」


「は、はい」


「そう。ならここでお別れってことね」


「そ、そうですね。あのぅ … わざわざ付き添ってくれてありがとうございました」


「ふふっ、いいのよ。それじゃあ、また明日学校でね。さようなら」


「さ、さようならです!」



 優奈さんは名残惜しそうな表情を浮かべながらも、こちらに向かって手を振り、そのまま道の向こうに歩いて行った。

 僕は空に輝いている星を見上げ、今日の出来事を振り返る。



「超常現象調査部 … かぁ」



 これまでコミュ障のせいで人との関わりを避けてきた僕。

 でも … この部に入ることによって、自分は変われるんじゃないかと思うようになってきた。


 ミス南沢北高に輝いた優奈さんと僕は会話をした。いや、会話をしただけではなく、可愛いと褒められて頭まで撫でられた。

 すべてのきっかけは、昨日コンビニでチュパカブラに襲われたところを優奈さんに助けてもらったことがきっかけだ。あの出来事が無ければ、僕は今もコミュ障まっしぐらの道を進んでいただろう。

 でも、僕は変われるかもしれない。いや … これを機に絶対に変わって見せるんだ。



「よし、目指せ! コミュ障克服!」



 優奈さんはコミュ障克服に協力してくれるみたいだけど … 本当に僕ってコミュ障を克服できるのかな。それにUMAと戦闘を繰り広げるみたいだけど、上手く闘えるかな?

 今更になってそんな不安が押し寄せてくるのであった。


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