第1話 コンビニでの襲撃
※この小説はフィクションです。登場する人物、団体等、名称は、実在のものとは関係ありません
未確認生物(UMA) … それは目撃例や伝聞などで存在の可能性があるが、生物学的に確認されていない未知の生物のことを指す言葉である。
よく年末になると超常現象特集番組が放送されることが多いが、実際にそれを真に受ける人は少数の人間だけだ。ほとんどの人間は「バカバカしい(笑)」と笑って受け流していることだろう。
僕もUFO・UMA・幽霊などを一度も目撃したことがないため、存在すれば面白いな~ とは思っているものの、基本的にオカルト系の話は信じない派だった … 。
そう … あの日、僕がチュパカブラに襲われるまでは …
◇
6月25日 火曜日 午後9時半
いよいよ夏を迎えるシーズンが近づきつつあるためか、最近暖かい日が多くなってきた。
しかし、それは昼間のみあって、県内の北部に位置する南沢市では夜になるとまだまだひんやりと寒い季節。さすがに暖房器具は必要ないが、夜出かけるときは何か羽織るモノが欲しくなる。
僕も今、薄手のカーディガンを羽織っているけど、風が吹くたびにひんやりとした冷たさが全身に襲いかかってくるので、身体がブルッと震えるほど寒い。思わず手の甲をカーディガンの袖で隠したいという衝動に駆られるが、男である僕が萌え袖をやってしまえば周りから変な目で見られるかもしれないので、ここは少しだけ我慢することにする。
細い路地を突き進んでいくとT字路に差し掛かったので、僕はT字路を左へと曲がろうとした。
T字路のところには酒屋が建っているのだが、そのT字路を左に曲がろうとしたとき、正面にある酒屋のガラス窓に反射して映っている自分の姿が目に飛び込んできたので、思わず足を止めてしまった。
そこに映っているのは、女の子にも見える中性的な顔立ちをしている僕の姿である。当然のことだ。反射して映っているのだから。
前髪は少し長く、色白な肌、女の子にも見える中性的な顔 … それらの自分の姿を見て、僕は少し溜息をついた。
僕の名前は、神照祐斗。県立 南沢北高等学校に通う高校2年生、17歳。
僕は大きなコンプレックスを2つ抱えている。
1つ目のコンプレックスは、よく女の子に間違われるということ。
僕の身長は160cmしかなく、女の子っぽい顔立ち、色白の肌、それに少し高めの声 … どう見たって女の子にしか見えないのだ。
また僕の性格にも原因があって、花が好きだったり、甘いものが好きだったりと、内面的にも女の子っぽいところがある。
いや … でも、僕はれっきとした男であって、恋愛対象は女の子なんだけど。
そして2つ目のコンプレックスは、コミュ障であること。
コミュ障とは … 人とまともに話すことができない、極度の人見知り、どもり、対人恐怖症などのことを指すネットスラングである。
僕は小さい頃から人見知りが激しく、友達と呼べる人物が出来た事なんか一度もない。ずっと今までぼっち生活を送り続けていた … いや、現在進行形で続けている最中である。
「はぁ … やっぱり、僕って女の子に見えるのかな … ?」
しばらくの間、じっとガラス扉に映った自分の姿を見つめていたが、今からコンビニに行くという用事を思い出し、僕は再び足を動かした。
こうして薄暗い夜道を進んでいき、ようやく自宅近くにあるコンビニの前までやってきて、店内に踏み入れると、「い、いらっしゃいませえ!」という若い女性店員さんの声が聞こえてきた。
僕は瞬時に店内を見渡す。
店内には僕と女性店員さん、そしてサラリーマンの男性客が2人 … 計4人しかいない。今日は人が少ない方だ。
とりあえずペットボトルのジュースとロールケーキを手に取り、レジへと向かうことにする。
レジカウンターに品物を置くと、女性店員さんはレジを打ち始めた。
しかし、店員さんは新人のアルバイトなのだろうか、少し動作が遅い。
「合計で357円になります!」
「あっ … はい」
財布から小銭を取り出そうとしたとき、突然、店の外からガシャーン!という大きな音が聞こえてきた。
店内にいる全員が「何だ?」と首を傾げて店の外へと視線を向けている。僕もその音源の方へと目をやったが、外は暗くてよく見えない。
しばらく様子を見ても何も起こらなかったので、僕はとりあえず500円玉を店員さんに差し出した。
「500円お預かりします! えーと … あれ?」
店員さんは必死にレジを操作しているものの、お釣り用のお金が取り出せない様子。
どうやら相当テンパっているようだ。まだバイトに慣れていないのか。でもその気持ちは分かる。僕もよくテンパるから。
「す … すみません! 少々お待ちください!」
まぁ、少しくらいなら待っても構わない。
そう思っていたとき、突然、コンビニの自動ドアが開く音がした。
「い … いらっしゃいませ!」
店員さんはレジを操作しながら元気よく挨拶をする。
僕はふと何気に入口へと目をやると … そして、僕は見てしまった。
そこには奇妙な生物がいた。
体長は1mくらいだろうか。ソイツは大きな頭と真っ赤な目をしていた。鋭い爪が伸びている3本の指。口には鋭い牙が生えている。そして頭部から背中にかけて、棘のようなものが連なって生えていた。
僕はこの生物を知っている。なぜならソイツは未確認生物(UMA)の中でも有名なチュパカブラそのものだったからだ。
僕が茫然と見つめていると、ソイツはいきなり本の雑誌を立ち読みしていたサラリーマン男性に襲いかかった。
店内が騒然とする中、襲われた男性は必死に抵抗をするもの、ソイツは男性の首に噛みつき、首筋を噛み千切った。血しぶきが舞い上がり、雑誌コーナーが真っ赤に染まっていく。
ほんの数秒後、男性はピタリと動きを止めた。それが意味するのはただ1つ。絶命したということだ。
次にソイツは、同じく近くにいた別の男性に襲いかかった。
「きゃぁぁぁああああああ!!」
2人の男性が立て続けに奇妙な生物に襲われたのを見て、女性店員は悲鳴を上げた。
すると女性店員の声に反応したのか、ソイツは僕がいるレジの方へと顔を向け、次の瞬間、こちらに向かって飛びかかってきた。
僕は慌ててしゃがんで回避したものの、ソイツは僕の頭上を通り過ぎて、レジにいた女性店員の顔に張り付いた。
そのまま女性店員は仰向けでレジカウンターの向こうに倒れ込んでしまい、僕の視界からは消えてしまった。しばらくレジカウンターの向こう側から店員の呻き声が聞こえていたが、やがて噴水のような血しぶきが湧きあがった直後、ピタリと声が聞こえなくなってしまった。
「あっ … えっ!?」
僕は今だにこの状況を理解することが出来なかった。
なぜここにチュパカブラがいるのか? そもそもUMAというのは、人間が作り出した架空の生物ではなかったのか?
でも、この数秒間の間で3人の人間が殺されてしまった。
襲われた男性らは目を見開いており、首から血が噴き出ている。そう … 死んでいるのだ。
僕は恐怖で足が動かなくなった。
店内に残っているのは、もう僕だけ。次は … 僕が殺される?
そしてレジの向こう側から キキキキッ!! という不気味な甲高い音が聞こえてきた。ヤバい、早く逃げないと…! コンビニの出入り口まで、たったの3m~4mくらいか? だが、今はそんな距離も途方もないほど長く思えた。
僕は力を振り絞って走る。恐怖で震えて足が思うように動かせないが、何とかして無理矢理動かす。
よし、あと数歩で出られる! と思ったとき、突如近くの棚から何かが飛びついてきた。
そのまま僕は床に仰向けで倒されてしまう。
えっ、もう1体いたの!?
見れば自分の胸の上に、先ほどと同じサイズの奇妙な生物 … チュパカブラがいた。
ソイツは鋭く尖った口を広げると、僕の首に噛みつこうとしてきた。
必死のソイツの顔を掴んで何とか阻止する。こいつ身体が小さいくせに、意外に力が強い … !? こんな体勢じゃ、長くは持たない。
しかも店内からブチュ!!という肉を潰す音が聞こえてきた。
何とか顔を動かして見てみると、男性客の腹から数体のチュパカブラがうようよと突き破ってきている光景が目に入ってきた。
「あぁっ …… 」
その恐ろしい光景を目の当たりにし、僕は死を覚悟した。殺される。
キキキキキキキキキキッ!! という次々に湧き起こる奇声が、不気味に響き渡っている。
でも、僕はふと思った。このまま死んでもいいかな … って。
僕はコミュ障であり友達はいない。小中学生時代はイジメられたくらいである。僕のことを必要としてくれている人なんていないんだし … いっそこのまま殺してくれ。
そう願ったときだった。
パンパンパン!!
耳の鼓膜が破れるのではないかと思うほどの大きな音が響き渡った。同時に僕の腹の上にいた奇妙な生物の顔がはじけ飛ぶ。
さっきの音は … 銃声?
そう思ってコンビニの出入口へと目をやってみると、そこには僕が通っている南沢北高校の制服を着た美少女が立っていた。茶髪で腰まで伸びているロングヘアーに端正に整った顔立ち。透き通るような色白の肌。そしてモデルのようなスリムボディ。
僕はその人を知っている。
僕と同じ高校2年生で、隣の2組クラスに所属している八幡宮優奈だ。南沢北高校のミスコンで優勝するほど容姿端麗であり、美少女として校内では有名な人物である。
だが、そんな彼女は手にありえないモノを握っていた。拳銃だ。
「あなた大丈夫? 生きているわよね?」
茫然と彼女の姿を眺めていると、彼女が話しかけてきた。
ぎこちない形であるが、僕は首を縦に振る。
「そう。一応間に合ってよかったわ。じゃあ … しばらくの間、耳を塞いでいてちょうだい」
「えっ?」
八幡宮優奈が再び銀色の拳銃を構えたと思ったら、直後、パンパンパンパン!! という凄まじい音が響き渡った。
慌てて耳を両手で塞ぐ。
一体、どうなっているんだ? 女子高生が銃を連射している!? 確か日本はアメリカと違って、銃の所持が許されていないハズだよね!?
僕が必死に耳を塞いでいると、しばらくしてピタリと銃声が止んだ。
恐る恐る目を開けてみると、店内は凄まじいことになっていた。
数十体くらいいたあの生物が1体残らずグチャグチャの肉の塊になっていた。店内のいたるところには真っ赤な血、緑色の液体、銃弾痕が広がっている。そして棚に並べられていた商品は穴だらけ。
しばらくの間、僕が放心状態となっていると、さっきの拳銃女子が近づいてきて手を差し伸べてきた。
「もう大丈夫よ。標的は全滅したから」
「えっ … ぁっ、えっ?」
状況が理解できない。ただでさえ未確認生物のチュパカブラが襲いかかってきたというのに、今度は拳銃を手にした美少女に助けられた? アニメやラノベじゃあるまいし。
僕がポカンと彼女の顏を見つめていると、彼女は長い髪を手でかき分けながら顔を僕に近づけてきた。
「あら、あなた、1年生の時に同じクラスだった神照君じゃない。道理でどこかで見たことがあると思ったわけだわ」
えっ … 僕のことを覚えていてくれたの? 確かに1年生の時に同じクラスになったのは事実だけど、直接彼女と会話をしたことなんて一度もなかったハズなのに … ?
「ねぇ、神照君は見ちゃったのよね?」
「えっ … 何を … ?」
「チュパカブラを」
「チュパ … ええっ!?」
僕が驚いている様子が面白かったのか、彼女はクスリと笑った。
「ふふっ、まぁ … いいわ。神照君だけは特別。だから … どちらか選択してくれる?」
そう言った直後、八幡宮優奈は先程の綺麗な笑みから一瞬にして引き締まった表情に変化した。
「ここでわたしに記憶を消されるか、ここで起きた出来事を誰にも話さないって約束するか」
「だ、誰にも … 話しません!」
僕は思わず反射的にそう答えてしまった。
すると、彼女はフッと先程の笑みを浮かべ、人差し指を僕の唇に近づけてくる。
「約束よ?」
「はっ … はい」
「うむ、よろしい。じゃあ、神照君は早く自宅に戻りなさい。後の処理はわたしがするから。ほら、早く行かないと … 」
「あっ … はい!」
言われたとおり、僕はそそくさとコンビニを後にすることにした。
誰にも話すな … か。チュパカブラといい、拳銃を手にした同級生といい … 今日は変な日だ。それにしても … 本当に彼女は何者だったんだろうか?