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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
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第八話 いろいろ計画しよう!

 ソラ姫が三年A組に仲間入りしてから三週間が過ぎた。


 世の中は鬱陶しい梅雨がようやく明け、学生たちが等しく待ち望む、暑くて熱い、夏の季節がやって来ようとしていた。


 ソラ姫を迎え入れた国崎中学も例外ではない。



 転入当初、異星人の、しかもお姫さまという立場であるソラ姫に対し、もの珍しさから近寄ってくる生徒、アイドルのごとくチヤホヤしてくる生徒などが大量発生し、一種お祭り騒ぎ状態となっていた。表面的には……。

 しかし、そんな騒ぎとは裏腹に、どんなに見た目が可愛らしくても異星人ということへの警戒心からか、更には授業で垣間見せられる異常な身体能力やその見た目の特異性からか、本当の意味で打ち解けるまでには案外時間がかかってしまっていた。みんな親しげに話しかけて来るとは言え、どこかよそよそしく、薄っぺらかったのである。

 

 が、そうは言うものの、そこは中学生。

 大人びて見せようと、いじましい努力をしてはいるものの、まだまだ子供っぽさも残る生徒たちも多い。それは当然同じクラスの生徒たちに顕著に現れる。

 いかに警戒していようとも、ソラ姫の、そのあまりに愛くるしく可憐な、天使のような姿に惹かれず同じ教室にいることなど、そうそう続けて居られようか?


 否である。


 二週間も過ぎれば、クラスメートはすっかりソラ姫への警戒感をなくし(骨抜きにされたともいう)、まるで以前からそこに居たかのごとく、ソラ姫……いや、ソラのことを友だちとして扱うようになっていった。


 中学生の適応力、あなどりがたし。ぱねぇのである。

(まぁ始めから何も考えていないって生徒たちも一部いるようではあるが)



 そんな中、生徒たちとって地獄の期末考査も無事に終え、あとはいよいよお待ち兼ねの夏休みを迎えるだけとなっていた。

 三年生にとって、この夏休みは特別である。なにしろ中学生活で迎える最後の夏休み。そしてそれを過ぎれば、期末考査もかわいく感じるに違いない、マジ地獄になるであろう受験勉強の日々……が、生徒たちを手ぐすね引いて待っているのだから。


 ということで明日から待ちに待った夏休みとなる、一学期最後の日。

 終業式後のSHRを終えた、三年A組の教室は騒騒しいまでの盛り上がりを見せていた。


「ソラちゃんソラちゃん。夏休み、みんなで海に行こうって話ししてるんだけど一緒に行かない?」

 

 ソラ姫にそう話しを振ってきたのは、ここ最近で一緒に行動することが多くなった女の子、ひなちゃんとゆかちゃん。若村 陽菜乃わかむらひなのと、杉山 優香すぎやまゆかであり、二人はクラスに転入した当初からソラ姫のことを気にかけてくれていた子たちである。

 太めの黒縁眼鏡をかけ、肩にかかるくらいの髪を小さな三つ編みにしていて、一見地味な装いである。が、その凜とした端整な顔立ちとさっぱりとした性格からか、いかにも出来る女の子というイメージが強い若村さん。クラス内での人望も高いが、その人気っぷりは男子より女子の割合が高かったりする。

 対するのは、背中に届く色素が抜けぎみ茶色っぽい髪をツーサイドアップにした、笑うと八重歯が覗いてとてもかわいらしい女の子。その姿はまさにアイドルといったイメージで、その容姿からクラスにも(というか学校中に)少なからず好意を寄せている男子がいる杉山さんである。

 二人とも揃ってソラ姫よりは頭半分以上は背が高い。というかソラ姫より小さい生徒はこのクラスはおろか、三年生中捜してもいないともいうが。


「わぁ、海ですかぁ。楽しそうっ! その、私が一緒に行って迷惑でないなら……ぜひ行きたいな~!」


 ソラ姫は誘ってくれた二人に対し、うれしそうに、でも少しだけ遠慮がちにそう答える。自分が行動すると図らずも騒ぎになることも多く、迷惑をかけないかとソラ姫なりに気を使っているらしい。(春奈に叱られて以来、蒼空も注意するようにしているようだ。……まぁ、あくまで多少であるが)


「迷惑だなんて思ってないよ。それはそれで面白いしね? じゃ、ソラちゃんも参加ってことでいいよね? あ、ちなみに他のメンバーとして、ほら、そこの三人も入ってるから。荷物持ちとしてこき使ってあげるといいと思うよ」


 どうやら若村は色々仕切りたがる性質たちらしい。ある意味見た目通りか。

 若村が指し示す先にいるのは、(ソラ姫も実は良く知っている)青山と高橋。それともう一人、いつも一緒にいる山下だった。山下は青山らと違い、中々の優等生で成績も三年の中では常に上位20位以内をキープしている秀才であり、その手にはいつもタブレット端末が納まっている。

 まぁ青山と高橋もお頭おつむの出来はともかく、見た目だけは良く、山下も中性的な見た目で中々にやさしげな顔付きをしていてなにげに女子受けも良かったりする。ということでこの三人が揃っていると注目度はそれなりに高い。


「うぉい、若村。あんだよ、その荷物持ちってのは? 荷物くらい自分らで持てや~?」


 きっちり聞きつけた青山が抗議の声を上げるも、


「何言ってるの? 死ぬの? こんな美少女三人と一緒に海に行けるだけでもあんたたち運がいいんだからね? それくらいして当然だと思わない? ねぇ、ソラちゃん」


 若村のその言葉に隣りにいる杉山が「び、美少女……」とつぶやきながら照れて顔を赤くする。男子は男子で「誰が美少女だってぇ?」などとすかさず突っ込みを入れ、そしてソラ姫はといえば、


「ひなちゃん。荷物多いのなら別に持たなくたって大丈夫だよ? 亜空間使えばどこでだって出し入れ自由。転送も出来るし、それになんだったら私のアリスを使えばどこへだってすぐ行けちゃいますよ?」


 などとのたまい、なんともマイペースでずれた感覚を披露してしまう。春奈に言われた言葉はどこへ行ってしまったのか? 早速自重出来てないソラ姫である。


 これには少女二人と、男子三人もあきれてしまう。


「ちょ、ソラちゃん? さすがにそれは……遠慮しとく。

 あのね? 海に遊びに行くのってさ、行くまでの過程も楽しみのひとつだと思うわけね。お姫さまで、色んな力持ってて何でも出来ちゃうソラちゃんには、わかりにくいのかもしれないけど……。

 でもさ、せっかく他所よその星から日本に来たんでしょ? そういうのもぜひ楽しんで欲しいんだけどなぁ?」


 若村からそう諭され、しばし表情をぽかんとするソラ姫。その顔もなんともかわいらしく男子といわず若村たちも思わず見とれてしまう。そしてその天使のような顔を少し寂しげな表情に変え言う。


「ご、ごめんなさい。そうだよね。ぼ、私ったらつい――。

 せっかくみんなで遊びに行くんだもん。あっさり終わらせちゃったらなんの楽しみもないよね。何白けちゃうようなこと言ってるんだろ、私。


 その、やっぱり……。


 私なんか、一緒に行くと迷惑かけちゃうかなぁ……?」


 一年近くエカルラートで過ごし、侍女さんたちに世話をされる生活に慣れ、万能感ハンパないアリスと共にあり、そして何より破格な自分の能力のせいなのか? ずれてしまった感覚にショックを受け、そんな弱気な発言をするソラ姫。その姿はみるみるしょぼくれた姿に変っていき、まるで叱られた後の小さな子供のようである。


 見かねたゆかちゃんこと、杉山が言葉をかける。


「そんなことないよ!

 ソラちゃん、それくらい気にしないで。みんなのためを思って言ってくれたことなんでしょ? ほんと全然問題なし。

 それに――私ね、そのぉ……アリスさんに一度でいいから乗せてもらいたいな? なんて思ってみたりもしてたし。こんなことお願いしてみたり出来るのも、世界広しと言えども私たちだけだよね? ふふっ、なんか厚かましいかな?」


 そう言いながら舌をペロっとだし、自分の言葉に照れる杉山。


「うん、それいいね! ゆかちゃん、ナイス。

 ソラちゃん、それ実現するなら私も絶対一緒にね? お願~い。あ、そっちの男どもはどうでもいいから。私たちだけ・・で、ぜひお願いしたいなぁ」


 いつの間にか話しがずれてきているが、なんとも楽しげに話しを広げる若村。もちろん男子たちは面白くない。


「てめー若村。何自分たちだけで話進めてんだよ~! そんなの……」


 青山が興奮気味に突っかかっていくところに山下が割って入る。


「まぁまぁ、悠斗。落ち着いて。冷静にいこう冷静に。

 ソラ……ちゃん。海に行く話はもちろんだけど、今の杉山さんの話し――。僕もすっごく興味あるな。良かったら僕たちもぜひ……実現できるなら、ぜひ一緒に乗せてもらえたらうれしいな、どう?」


 海へ行く話からいつも間にかアリスにみんなして乗りたいって話にすり変っていき、会話についていけてないソラ姫。


「はぇ? え、ええっ? その、えっと……、ええっ?」


<お姉さま、落ち着いて? 話しは交感で聞いてました。私の方はいつでもOK、ウェルカムです。お姉さまのお友だちでしたら私にとっても大事なお客様。お姉さまのご都合でどのように決めていだいてもかまいませんから。ふふっ、私のいいとこいっぱい見せちゃいます。こうご期待です!>


 突然割って入って来るや、さっさと杉山らの話しについて了承の意を告げるアリス。

 みんなソラ姫そっちのけである。


 ソラ姫はもう色々どうでも良くなった。



「はふぅ。も~好きにして? ボク、みんなに任せるっ。アリスにも招待するから。


 いつにするかも好きに決めちゃっていいよ。


 決まったらそれ、ボクに教えて」


 そう言ってちょっとというか、随分拗ねてしまったのかほっぺをぷっくり膨らませ、ぷいと横を向いてしまうソラ姫。もはや自分のことをボクと……言ってしまってることにも気付かない。それと同時に、しまってあったはずの翼がじわりと実体化してきて背中に広がってくる。どうやら気分が高ぶると出てしまうようだ。


 困ったお姫さまである。


 そんな様子に驚く五人であったが、拗ねてしまったソラ姫を、若村と杉山、それに男子三人総出でどうにか宥めすかすことに成功する。


 それにかかったのは三十分少々の時間――。


 だけではなく、ソラ姫が気に入っているという、いちごのショートケーキを奢るはめにまでなったそうである。いちごショートは至高。は、その時のソラ姫の弁である。

 ちなみにお金を出すのはもちろん男子。当然、反論する余地は欠片もなかったのは言うまでもないことか。


 

 そのあと落ち着いたソラ姫とみんなが、夏休みの予定を楽しげに決める姿が長い間教室にあり……。


 どんどん帰っていく生徒たちにも目もくれず。

 結局それは先生が見回りに来て、早く帰りなさいと叱られるまで続いていたらしい。




 何はともあれ。

 どうやらソラ姫=蒼空は、いい友だちの再獲得に成功したようである。



読んでいただきありがとうございます!

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