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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
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第六話 記録を録ろう!

「姫さま、朝です。お起きいただかないと、学校なるものに遅れてしまわれます」


 ソラ姫騒動の翌日。

 柚月家の蒼空の部屋ではソラ姫の侍女であるアネットとリーズがかいがいしく朝の準備を始めていた。白っぽい金髪が眩しい、モデル並みの身長とスタイルをした侍女二人が洋風の家屋だとはいえ、日本の住宅である蒼空の部屋にいると、それはもう違和感がハンパなかったりするのだが当の本人たちはそんなことなどお構いなしに、マイペースで自分の仕事を進めている。

 しかし肝心のソラ姫こと、蒼空のほうは「う~ん」とか「むにゅ」とか変な言葉が帰ってくるだけでなかなか起きようとしない。


「ちょっとリーズ、もっとしっかりお起し差し上げなさいよ。早くしないと奥様にお叱りを受けてしまうわよ」


 奥様とは蒼空の母親、日向のことだ。最初そう呼ばれた日向は戸惑い、普通に名前で呼んで欲しいとお願いしたりもしたのだが、「姫さまのお母上を名前で呼ぶなどとんでもない」と侍女たちに頑なに拒まれたというエピソードもあったりする。

 ちなみに侍女たちは通常はソラ姫の星船であるアリスことソラリスで過ごしていて、必要に応じて柚月家や学校に転移して仕事をこなしている。更にちなみに、アリスという呼び名は主人であるソラ姫や、アリスが認めた人物だけに許されていて、今のところその呼び方が許されているのは妹の春奈と母親の日向の二人だけ。残念なことに男である父親の雅行、それに侍女たちですら未だにそう呼ばせてもらえないのである。


「もう、わかってるわよ~。でも気持ちよさげに眠っておられる、姫さまのかわい~お顔見てるとねぇ、無理に起して差し上げるのもなんだかかわいそうに思えちゃって~」


 侍女としてダメダメな発言をするリーズ。


「ったく。姫さまに甘いんだから~。早く起さないとそのうちフェリが怒ってくるってば」


 フェリは、アネットとリーズのかわいい妹的存在であったはずなのだが、今や二人のなかなかに手強く口うるさい上司である。怒ったフェリは幼なじみである二人にもまったく容赦無しで、それがソラ姫のこととなれば尚更である。


「あははっ、そうよねぇ……フェリちゃんに怒られるのは避けたいですねぇ。うん、仕方ない、姫さまのおかわいらしい寝顔が見れなくなるのは残念ですが……起してさしあげましょう」


 こうして侍女たちの一連のやり取りの後に起されるのが、ソラ姫のエカルラートでの住まいである緋炎宮から続く、変わらぬ日常となっているのであった。



「「姫さま~っ、朝でございま~す! お起きになってくださ~い!」」



 蒼空の一日が今日もまた始まる。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「うわぁ、ソラちゃんお肌まっ白。制服脱ぐと余計際立つね?」

「へぇ、下着は地球のと全然かわんないね?」

「ふっしぎ~、ソラちゃんの背中、あんなキレイな羽が生えてたのに、今見てもなぁんにもない……何の跡も残ってないよっ」


 日本の中学に転入して2日。


 全校を巻き込んだお祭り騒ぎも一段落し、クラスの生徒たち……特に女子たちはそれなりに打ち解けてきていた。(というよりソラ姫が、一方的に好奇心という名の下にかまわれているという感じではあるが) 呼び名も皆が積極的に知り会おうとしているからか……ソラ姫ではなく単にソラさんやソラちゃんと呼ぶ生徒が多くなっていた。


 今は体育の授業を前に男子を追い出した教室での着替えの真っ最中である。制服の下にTシャツや体操服を着込んで来る生徒が多い中、ソラ姫はマジメに着替えを行なっていて、それゆえに半ばギャラリーと化した女子たちに見られたい放題となっている。

 ソラ姫自身、そうしようと思って朝、身支度をする際、体操服を着込もうとしたのだが、侍女さんたちにダメ出しを食らったのである。いわく、制服の下に更に体操服を着るなどという横着をエカルラートの姫がすることなど許されない、とか、制服に対する冒涜だ、とか……なんともうるさく、ソラ姫は下に着込むことをあきらめざるを得なかった。


 というか蒼空はエカルラートでソラ姫となって以来、自分で着替えする……など一度たりともさせてもらっていなかったりする。そういう意味では学校での着替えは、今や数少ない自分で着替え出来る時間であるともいえる。


 体操服への着替えでブラウスを脱ぎ、ブラ一枚となったところで女子たちにあけすけに注目されてしまったソラ姫。そのなめらかな真っ白い肌を恥ずかしさからうす桃色に染め、それがまたかわいらしさに磨きをかけ、余計に注目を浴びる変な循環が出来上がっていた。


「私のお肌ってね、こちらの人と違って紫外線浴びても日焼けしたりしないの。それとねぇ……下着はお世話になってる柚月家のお母さんからいただいたものなの~。勘違いさせちゃったのならゴメンなさい? あとねぇ、翼は背中から直接生えてるってわけじゃないから何も跡とか残らないし、だから制服に穴とか開けなくても大丈夫なんだよ~」


 恥ずかしがりながらも律儀に女生徒たちの問いに答え、かわいらしい舌をぺろっと出すソラ姫。そのしぐさもなんともかわいらしい。 


「えー! お日さまに当たっても日焼けしないんだなんてすっご~い、うらやましすぎ! なんか飛べることよりそっちの方がよっぽどうらやましいかもっ」


「「「いえてる~!!」」」


 どうやら羽が生えるという自分たちとは無縁の身体的特殊能力よりも、日焼けしないという体質? の方がよっぽど気になるらしい女子たち。さすが中学三年生、思春期を迎えた年頃の女の子たちといったところか。


 ――そんな騒ぎから、多少着替えに時間がかかった女子たちはグラウンドで点呼をとる体育教師に揃って叱られ、みんなで苦笑いをするのだった。もちろんソラ姫もその中の一人だったことは言うまでもない。

 ただ、そんなソラ姫の顔は叱られているにもかかわらず微妙にうれしそうな表情を浮かべていて、周りの生徒たちはそれを少し不思議そうな顔をして見ていた。


 エカルラートからこっち、同年代の友だちが居なかったソラ姫にとって、みんなと過ごす時間はどんなことでも、貴重な体験であり楽しいことなのかも知れない。



「今日は新しい生徒も加わったこともあるし、簡単な体力テストを行ないたいと思う。メニューは50m走だ。みんな手を抜かずしっかりと計測に挑むように! わかったな?」


 三十代前半くらいの、長身で引き締まったいかにもといった体付きをした男性体育教師のその言葉に「おーっ」と楽しげに喜ぶ生徒や「えー」とばかりに不満を述べる生徒。その分かれ目は自分の記録に自信があるかどうか? だろう。

 計測を前に、それぞれ楽しげに自分たちの今までの記録を比べあったり、はたまたダメさ具合を語りあう生徒たち。体力自慢の一部の男子たちはやる気満々のようで過去の自分のタイムがいかにすごいか自慢合戦の様相を呈している。そんな子供な男子たちを白い目で見る女子たちもいる。

 そんな中でも、みんなの興味が異星人であるソラ姫の記録へと向うのは仕方のないことだろう。何を隠そう、体育教師もその一人だったりする。


 そんな生徒たちのいろんな想いが飛び交う中、50mの測定が始まった。


「ソラちゃん、飛んじゃダメだからね~」

「うわぁ、ちっちゃいけど、足長~い。顔小さ~い」


 順調に計測が進むなか、一緒に走る女生徒と共にスタートラインに立ったソラ姫を見て、口々にはやし立てる生徒たち。

 白地に首周りと腕周りに赤いラインが入った半袖の上着、ひざ上10cmほどの赤地のトレーニングパンツといったこれまたオーソドックスな出で立ちながらも、それですらソラ姫のかわいらしさを引き立てる小道具と成り得た。


「スカーレットくん、君の体力がどんなものなのか我々にはまったくわからない。しっかり確認する上でも手を抜かず、思いっきり走るようにして欲しい」


 教師にかけられた言葉に頷くソラ姫。


「はい、わかりました。では遠慮なく、全力で走らさせてもらいます!」


 返事をしたソラ姫の顔は、それはもういたずらっぽい表情を見せている。

 それを見た体育教師は自分の言った言葉を少しばかり後悔した。



「うぉ~! な、なんだありぁ? 反則だ~!」

「え? いつ走ったの? もう終わり?」

「「あ、ありえな~い!」」

「「「かっこい~!」」」



 教師の笛の音と共にスタートし、瞬く間に50mを駆け抜けた――、そのソラ姫の走りを見た生徒たちの、驚きと信じられない気持ちが入り混じった声がグラウンドにこだまする。


 自慢げにタイムを競い合っていた男子たちは意気消沈し、そんな男子たちを白い目で見ていた女子たちはソラ姫の記録に目を丸くして驚きつつも、落ち込んだ男子たちを見てケラケラ笑う。

 

 年頃の女子、けっこう残酷である。



『4秒59』



 それがソラ姫の打ちたてた記録だった。


 体育教師は絶句する。

 それは世界記録をも易々と塗り替える数字。人類が今だ超えたことのない5秒という数字を、ストップウォッチによる手動計時とはいえ、いとも簡単に……あっさり切ってしまったソラ姫に教師はなぜか薄ら寒い想いを抱く。

 見た目はまるっきり地球人。まぁ翼が出たり消えたりするとはいえ、もう見るからにか弱そうな小さい少女なのである。ちなみに中学女子の平均はせいぜい8秒台。早くとも7秒台前半がいいところだろう。


 生徒たちが騒ぐ中、体育教師は異星人ソラ姫に対する認識を、かわいらしく、ものめずらしいだけの少女――から、やはり異星人はいくら似ていようと地球人とは違うし、得体が知れない――、という方向へと改めるのだった。



 そしてそんな様子はもちろん遠巻きにソラ姫を護衛(という名の監視)しているSPたちも知るところであり、そんな情報が上に報告されるのもしごく当然のことである。


 更にそんなことをしている政府機関の動きなど、ソラ姫はもちろん、ソラ姫の星船であり絶対的守護者であるアリスが知らない道理もないのである。国が異星人あやしいひと相手にそんなコトをやるのは当たり前のことだろうし、いちいち気にかけていてもキリがないし意味もない。



 裏で何をされていようが……なにはともあれ――、ふるさとである平和な日本を満喫しているソラ姫なのである。



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