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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
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第四話 やっぱり非常識?

読んでいただきありがとうございます。

 クラスへの紹介というイベントをなんとか無事にこなしたソラ姫は午前中の授業をそれはもう楽しげに受けていた。

 そして授業の合間の休み時間になるたびに、高まった興味を抑えきれない生徒たちがソラ姫を囲むように集まり質問の嵐を巻き起こしていた。中学三年生になって間もない生徒たちは、大人と違い物怖じや遠慮という言葉とは無縁。またソラ姫もそんな生徒たちの相手を嫌な顔もせず終始愛らしくにこやかな表情で質問に一つ一つ丁寧に答えていた。

 更にソラ姫が三年A組に転入してきたことは、当然のごとく瞬く間に学校中に知れ渡っていて、休み時間ともなればソラ姫を一目見ようと他所のクラスからも大挙して生徒たちが押し寄せてきて喧騒に拍車をかけているのだった。


 これにはさすがのソラ姫も、そのオッドアイの綺麗な目を丸くして驚き、苦笑いを浮かべるのだが、そんなしぐさですら可愛らしく周りの男子たちがまた大騒ぎとなる。

 普通ここまで男子が騒ぎたてると、逆に女子の反発を買ってしまいそうなものだが、そこはそれ、異星人の……それも領地まで持っているお姫さまと言うこともあり、反発を買うどころか一緒になって盛り上がっているありさまだった。


「TVでいつも後ろに付いてた女の人はどういう人なんですか?」

「今はこの学校の女生徒のお家にホームステイしてるってほんとなの?」

「あのグレイみたいな人とはどんな関係なのぉ? もしかして恋人だったり~」

「「「ええぇ~、やだぁ、うっそぉ?」」」


 一部、なんとも異様な盛り上がりを見せる場面もあったりした。


 グレイみたいな人……グラン公、いやフォリンとの関係まで聞かれるとは思ってなかったソラ姫は内心思いっきり訂正したくなる衝動に駆られたりもしたが、なんとか自制に成功する。そしてさしものソラ姫も、いいかげん次から次へと周りに集まってくる生徒たちの相手をすることが億劫になってくる。

 次の休み時間はいよいよお昼休み。輪をかけて興味津々な生徒たちが集まってくることは目に見えていた。

 ソラ姫は、だからお昼ごはんくらいゆっくり食べたいと思い、心の中である計画を立て一人にんまりとする。そしてそれに巻き込まれる人が若干いたりするのだが、巻き込まれる本人はそんなことなど知る由もないのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「いたよ、いたいたっ! すっごい人だかりでさぁ、もう大変。それに残念なことに背中の羽はしまちゃっててさ~、見れなくてがっかり。

 でもさぁ、ほんとにあの子が春奈んとこにホームステイに来てんの? だとしたら、めちゃくちゃお家、騒がしくなってるんじゃないの?」


 少し興奮気味に話す、表情にまだまだ幼さが残る少女。


「ほんとだよ。お姫さまはさぁ、家には三日前に国のえらい人たちに連れられて挨拶にきてさ、今はお兄ちゃんが使ってたお部屋に住んでもらうよう色々整えてる最中だよ」


 それに答える同じ年頃(というか同じクラスなのだから当たり前である)の少女。

 二人は三年生の教室がある階のひとつ上の階、二年A組の教室の中でそんな会話を交わしているのだが、教室内は二人以外も同じように三年生のクラスに編入してきた異星の少女のうわさでもちきりで、それはもう騒騒しいばかりである。

 というわけで、そんな生徒たちと一緒になってうわさのソラ姫を野次馬根性丸出しで見に行っていたのは森崎もりさき 優衣ゆい。ちょっとくせっ毛の髪を肩にかかるくらいに伸ばし、見るからにちょこまかとしたちょっと小動物系のいたずらっぽい雰囲気がただよう丸顔のかわいらしい少女だ。

 そして少々グチりながら優衣の相手をしているのが柚月ゆづき 春奈はるな

 春奈はソラ姫がホームステイ先に選んだ家に住む女の子で……ふわっと軽くウエーブさせた髪をポニーテールにまとめ、小顔でくっきりとした顔立ちにつぶらな瞳がなんともかわいらしい少女である。


 春奈とソラ姫には他にも人には言えない秘密があったりするのだが、もしそれを公言したとしても……信じてもらえるかどうかは甚だ疑問である。


「ふーん、お兄さんの部屋ねぇ。そういや春奈のお兄さんも蒼空そらって名前だったよね? 確か、アメリカの学校に留学してるんだったっけ? でもまぁ、偶然にしてもすっごいよね。

 ……で、どうなのっ? 異星人のお姫さまってさ。やっぱなんか変な習慣とかおかしな行動とかとったりすんの? ご飯とか一緒に食べたりしてんの? 羽はどうなってんの? あのグレイも来たりした?」


「へっ? あっ、うん。その、ねぇ……」


 矢継ぎ早に色々と聞いてくる優衣。何から答えていいものか、戸惑う春奈。

 優衣の顔は、早く教えろとばかりのうずうずした表情だ。


「ほんと優衣ってどうでもいいことに一生懸命になるよね? 命かけてるよね? そこに使う労力をすこ~しでも勉強の方に持っていければ……ねぇ?」


 春奈に襲いかかりそうな勢いで質問している優衣に、呆れたような言葉をかけながら割って入ってきたのはこれも少女。

 150cm前半である春奈と優衣より頭半分くらいは背が高く、長い髪をハーフアップにしていることもあり、中学二年生にしては大人びた印象で、かわいいというより綺麗系の顔をした少女である。


「もう亜由美。横から入ってきたかと思えば、ずいぶんなこと言ってくれるじゃん? あんたが思ってるほど私、成績悪くないんだかんね? やれば出来る子なんだからねぇ、ふん!」

 

 いかにも心外であるといった顔をして三人目の少女に文句を言う優衣。

 少女の名は保坂ほさか 亜由美あゆみといい、春奈と優衣、そして亜由美の三人は親友と言えるほど仲が良く、何をするにもいつも一緒で、休み時間ともなればこうして無駄話に花をさかせるか、連れ立ってトイレに行くか……などなど、行動を共にすることが多い。


「へぇ、そうなんだ? 私初耳だわ。私の記憶が正しければ優衣の中間考査の成績って、確か……」


 少し意地の悪そうな表情を浮かべながら優衣に向ってそう言葉をかける亜由美。


「ぐぬぅ……」


 悔しげな表情を浮かべつつも言い返せない優衣。実際のところの優衣の成績はといえば、遊び至上主義であり試験勉強といえば”一夜漬け上等”であることからすれば、推して知るべし……といったところである。


 話の途中、亜由美の参戦で優衣の的から外れた感のある春奈は、そんな二人をにやけながら見つめている。ソラ姫転入で多少、というか、相当騒騒しくはあるものの、今日も学校は平和だよねぇ……などと、年寄りじみたことを考えたりしてる春奈だった。


 まぁそんな平和はお昼休みを迎えて終わりを告げたりするのだが……この時の春奈は知る由もないのである――。




☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 チャイムの音と共にお昼休みを迎えた国崎中学校。

 そんな中、三年A組の一角で、とある攻防が繰り広げられていた。


「ソラちゃんと一緒にお弁当食べるのは私たちよ。男子はあっちいっててよ。しっしっ!」

「なっ、横暴だぞっ若村っ。オレたちも一緒に食ったっていいじゃんかよぉ?」

「ダメダメっ、男子なんか、っていうか高橋なんかと一緒に食べてバカが移っちゃったりしたらどう責任とってくれるの?」


「なっ……」


 どうやらお昼のお弁当をどんなグループで食べるかでひと悶着起こっているようである。

 もちろんその中心にいるのはソラ姫である。


「おい智也~、何言い負かされてんだよ? つか、おま……泣いてんのか?」

「ううっ、悠斗ぉ、オレのバカって移るんだってよぉ? どうしよ……『パシン』あうっ」


 智也のセリフは途中で頭をはたかれたことで止まる。


「おまっ、ほんっとバカだな? んなもん移るわけねーだろっ。何、若村に言い負かされてんだよ」

「だってよぉ……」


 悠斗にはたかれた頭をさすりながら智也がぐずる。

 見た目日焼けしてかっこいいスポーツマンのはずが……なんとも情けない立場へと追いやられてしまっていて、このクラスの力関係がよくわかる構図となっていた。


「ふふっ、智也、悠斗、それに他の男子たちも。とっととあきらめてほらっ、男は男同士、むさ苦しいグループでお弁当お食べなさい? お~ほほほほっ」


 細めのフレームの眼鏡がやたらと似合う、短めの三つ編みを両サイドから後ろに流した女子、若村わかむら 陽菜乃ひなのは、勝利を確信したのかそう言い放ってからわざとらしいつくり笑いを男子にかけた。

 若村の後ろではクラスの女子たちがソラ姫を男子から遠ざけるよう囲むようにして立っていて、その中でソラ姫は戸惑いの表情を浮かべている。


「あ、あのぉ~」


 ソラ姫が恐る恐る女子たちに声をかける。さすがのソラ姫も今の女子たちの迫力にはちょっと引き気味だ。


「あ、何ですかソラさん」


 隣りにいた女子、杉山がうれしそうな表情で聞き返す。


「えっとですね。私……みなさんとお昼ごはん食べたいのはやまやまなんですがぁ……先約あるんです。だから……ごめんなさいっ!」


 そう言って軽くお辞儀したのと同時に、何も無かった背中から光の粒子が湧き出し、それは素早く翼の形に収束していくと、ついにはあの透きとおるかのような白い翼となる。

 そしてあろうことかソラ姫は、窓際である自分の席の窓へと身を乗り出す。


「「「「あっ!!!」」」」


 クラスの男子、女子、ソラ姫争奪戦を繰り広げていた戦士たちが仲良く揃って声を上げた。

 生徒たちの驚きの目線の先。

 そこにソラ姫の姿はすでになかった。



「「「飛んでっちゃった……」」」



 しばし静まる教室。



「「「すっ、すげー!!! まじ飛んでたぜっ!!! すげ、すげっ、すっげー!!!」」」


 一気に騒騒しくなる教室。窓の外にはキラキラした粒子を軽く振りまきながら飛んでいくソラ姫の姿。

 クラスの女子は飛びゆくその綺麗な姿をうっとりした表情で見入っている。対する男子はそれはもう大騒ぎとなっていた。

 そこに最早、ソラ姫争奪戦を繰り広げた痕跡はかけらも残っておらず、みんなして非現実的な光景に思い思いの姿を見せるのみだった。


 それにしてもわざわざ生徒たちの目の前で飛び去って見せるあたり、なかなかサービス精神旺盛なソラ姫なのであった。(転移を使うという手段もあり、それを使えばそれこそ一瞬だったはず。まぁそれはそれで騒ぎになるのは間違いないが)



 そしてそうやって三年A組の教室内が騒然となっていたころ……一階上の二年A組においても中々に大騒ぎとなっていた。


 そう、女子生徒が一人。一瞬でその姿を消していたのだから。


 その消えた生徒とは……もちろん柚月 春奈。


 消えてしばらくはまさに大騒ぎとなっていたのであるが……察しのいい春奈の友だち、亜由美の一言でその騒ぎはすぐ一段落した――。が、今度はその理由においてまた大騒ぎとなった。


 結局のところソラ姫が春奈のことを転移させたというのが真相であり、ソラ姫が春奈の家にホームステイしていることも周知の事実であることから、その騒ぎはゆっくりとではあるが収束していった。


「「「春奈ちゃん(柚月さん)いいなぁ」」」


 クラスみんなの意見が初めて一つになった瞬間だった。


 その場にいた生徒たちはその時のことを後にそう話し、興味深そうに寄ってくるよそのクラスの連中に自慢げに話すのだった。




そろそろ違う展開にしてみたい……。

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