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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
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第二十二話 うごめくもの

 リーンが同じクラスに入ってから二ヶ月が経った。


 それだけ経つとクラスのメンバーもよそよそしい雰囲気などとうに無くなり、打ち解けるまではいかずとも、ごく普通の友だちとして話をする仲にはなっていた。


 ソラ姫もアリスに気にするなとは言われていたものの、最初の内は警戒しまくって緊張した対応をしていた。が、それも長く続かず、元々平凡なただの中学生だったソラ姫にそんな緊張感が長く続けられるわけもなく……、今ではクラスのみんな共々、普通に友だちとして接するくらいの関係にはなっていた。


 いや、というよりは若村らに引っ張られ、普通よりは親しいくらいの間柄にはなっているかもしれない。



 ところで、世の中はクリスマスを前にしてなんとも華やいだ雰囲気になってて、それはソラ姫らのクラスでも同じだった。



「イブの日とかさ、なんかみんなでパーッとさ、楽しいことしたいよね?」


 休み時間、いつものごとくソラ姫の周りにいつものメンバーが集まり、とりとめのない話をしていた中、若村が、そんな話を切り出した。


「いいですね、クリスマスパーティ。ステキです」


 杉山がそれにいかにもうれしそうに賛同する。


「ね、リーンも一緒にどう? せっかくみんなとも馴染んで来たんだし、パーッと騒いじゃおうよ?」


 ソラ姫の横の席で自然とみんなの会話に入り込んでるリーンに、若村がさわやかな笑顔を浮かべながら誘いの言葉をかける。

 みんなの視線がリーンに集まる。今この場に居るのは、女子がソラ姫、若村に杉山。男子は青山に高橋、それに山下というまさに鉄板メンバー。


「私も行っていいのでしょうか?」


 リーンはソラ姫にちらりと視線をやってその表情を読もうとする。

 ソラ姫はもちろん断るべくもなく、うんとにこやかに頷く。


「くすっ。


 では、よろしければ……ぜひ。


 ご一緒させてください」


 リーンの色よい返答に若村らは揃って笑みを浮かべ、口々に浮かれ気味の歓迎の言葉を放つ。


「わーお! なんかこれすごくない? 地球人とエカルラート人とライア人でクリスマスパーティだなんて……。ほんと地球上で一番特別なイブになるの間違いなしね」


「だよなー! すっげーぜ。オレ、ツレに自慢しまくるぜー」

「調子にのりすぎないようにね、悠斗」


 悠斗のセリフに突っ込む晶。


「で、どこでパーティやるんだよ? このメンバーでさ。ありきたりなとこじゃ盛り上がんないぜー」


 智也がめずらしくまともなことを問いかける。


「うーん、とりあえず……カラオケとかかな?」


 晶が無難なところを言えば、


「「「ありきたりー!」」」

「やっぱ、素敵なところで楽しみたいです」

「うんうん、賛成!」


 皆、特に女子たちから反論。でもはっきりしたところを言うわけでもなく、収拾がつかない。


「リーンもなんかいいとこあれば言ってね」


 女子たちが気を使ってリーンにも振る。が、異星人たるリーンにそんな代案が出せるわけもなく、苦笑いを返すくらしか出来ない。


「ほら、男子ももっと意見出す出す!」


 はっぱをかける若村。

 ともあれ盛り上がるメンバーたち。

 それを眩しそうにみつめるソラ姫。


 夏過ぎから秋まで、微妙にクラスから浮いてしまっていただけに……、今のこんな雰囲気がうれしくてたまらない。



 クリスマスかぁ……。

 

 ソラ姫はみんなのとパーティを思い浮かべる。

 そして先ほどの智也の言葉に、愛くるしい顔をうーんと悩ましい表情に変えて考える。


 ふと閃きを感じたソラ姫。

 その表情がぱーっと華やぎ、いかにも嬉しそうなものとなる。


「あ、あのー」


 ソラ姫がおそるおそる盛り上がってるみんなに声をかける。なにかと空気が読めないと……最近は多少自覚しているソラ姫、その言葉は遠慮がちになる。もちろん春奈に口をすっぱくして言われていることも大きいのだろう。


「何、ソラちゃん。なにかいい案浮かんだ?」


 若村がそんなソラ姫に優しい笑顔を浮かべながら問い返す。


「う、うん。あのね……」


 そう遠慮がちに言いながらみんなの表情を上目で窺うソラ姫。随分な警戒のしようである。

 男子はそんなソラ姫を見て一斉に顔を赤らめる。まだまだ純情である。


「ほら遠慮しないでいいから、パーッと意見言っちゃってソラちゃん」


 若村が焦れてそう突っ込む。


「ん。じゃ、言うね。


 えっとね――」



 ソラ姫がその案を告げる。



「ええー! ま、まじでー!」

「ほ、ほんとにー?」



 ソラ姫の提案はそれはもう若村たちを驚かせた。そしてそれはあまりに心躍らせる提案で……、若村らはしばらく興奮冷めやらぬといった状態が続いたのだった。

 その中でリーンはといえば、やはり多少驚いた表情を浮かべていたとはいえ、その内心がどうかはともかく冷静なものだった。



 そう、ソラ姫の提案とは――、



 星船アリスへの招待。


 宇宙空間でのクリスマスパーティ開催の提案だった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「そうか、ソラ姫が宇宙に上がるか……。


 ならばリーン、お前には面倒ばかりかけてすまんが……、ソラ姫の身辺には十分注意しておいてくれ。こちらでも早まったことをしないよう、急進派に働きかけてはいるが……、どうにも押さえが効かない。出来れば宇宙そらには今しばらく上がってほしくないところだったが……仕方あるまい。


 まぁ、奴らがどう出ようとも、あのソラ姫に傷一つ付けることが出来るとは到底思えないが……、万一のこともある。


 よろしく頼む、ティラ=リーン」


「はい、ゾフ=ソーク。心得てます。この命に代えてもソラ姫様に急進派は近づけさせません」


 義理とはいえ、およそ親子とは思えない会話をするライア人、ソークとリーン。なんとも寒々しい話題である。


「ふむ……。まぁそこまで気負わなくてもよい。奴らの動向はなかなか掴めぬが、なるべく情報は適時伝えるよう努力はする、無理はするなよ。


 ところで、随分地球人とも打ち解けたようではないか? やはり同じ種族、通ずるものでもあるか? それにソラ姫とも仲良くやっているようだが……」


 急に話題を変え、日本での生活の話を振るソーク。


「はい、その……、色々と、考えさせられるものもあります。ソラ姫様も最初はともかく、今は心を許してくれているように見受けられます……。


 でも――、私はライア人ですから」


 漆黒の瞳を伏せがちにし、どこかもの悲しげに言うリーン。


「そうか――。


 ではまた次の報告を待つ。大事にな」


 それを最後にソークからの通信が閉ざされる。

 リーンは通信機。地球のスマホを模したそれの、今は消えてしまった画面をいまだ見つめている。


 そしてしばらくし、ふぅ……と深いため息とともにようやく物憂げな様子から一息つけるリーン。

 その様子は一転、毅然とした面持ちのいつものリーンに戻っているのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 星船アリスのソラ姫の自室。

 クリスマスの件もありソラ姫が久しぶりにアリスに戻り、そこでくつろいでいたところに血相を変えて現れた侍女たち。


「ひ、姫さま! リ、リーンとか申すライアの女をソラリス様に招いたと聞き及んだのですが、それはまことでしょうか?」


 まず口を開いたのはフェリエル=ミディ=アリエージュ。ソラ姫の一番の理解者であり、ここ日本までで付いてきたソラ姫命の侍女頭である。そしてその後ろにはアネット=ウェス=ブランシュとリーズ=ウェス=アルヌーの姿。


「ふぇ、フェリさん。そ、それにアネットさんにリーズさんも。

 あはは、な、なんかすっごく耳が早い……ね」


「姫さま! 笑い事じゃございません。あ、あの、ラ、ライアの小娘をソラリス様の中に入れ込むなど……、一体いかがなされたのですか?」


「「いかがなされたのです!?」」


 フェリがいつもの冷静さなど微塵も感じさせないほどの慌てっぷりでソラ姫に詰め寄る。

 アネットもリーズも一緒になって問い詰め、ソラ姫を強い視線で見つめてくる。


「ふわっ、そ、その、みんな落ち着いて? リーンさんはそりゃライアの人だけど……、同じクラスのお友だちだから。


 だ、大丈夫、すっごくいい子なんだから。


 この間きた艦隊の司令さんの娘さんなんだけど……」


 ソラ姫のこの発言がまたいけなかった。


「はぁ? 艦隊司令の、む、娘? そ、そんな敵のVIPの娘をこ、こ、この、ライエル最新鋭の、エカルラートの大事な姫さまであるソラ様がご乗艦あそばされる、こ、この星船に……」


 そう言いながらフェリが、急にフラフラっとして倒れそうになる。


「「フェリちゃん!」」


 慌てて後ろから支えにまわるアネットとリーズ。

 ソラ姫も心配げな表情でフェリを見る。


「フェリさん、ごめんね。


 ……でも、大丈夫。リーンさんはほんとお友だちだし、それに今回は他にもクラスメートの子、五人招待したんだ。


 アリスには万全の体制でみんなを守ってもらうようにするし。ボクだって、もしなんかあれば全力で守るし。


 だからほんと、心配しないで、ね?」


 ソラ姫はふらつきながらもなんとか落ち着いたフェリに向かって歩いていき、その両の手をそっとフェリの手にのばし、包み込むようにして持つ。

 

 ソラ姫はその手を見つめ集中する。

 

「あ、暖かい……」


 フェリが思わずそう口にする。

 ソラ姫の小さな手伝いに、なにかが自身の体に入って来る。フェリはその気持ち良い感覚に体がとろけそうな気分になってきて、またもや力が抜けそうになる。


「あ、ちょっとフェリちゃん! どうしたの?」


 そんなフェリの様子に慌てて支えるアネットとリーズ。もう先ほどから上司と部下の会話ではなく幼馴染の妹を心配する姉の態度に変わってしまっている。


「ご、ごめんなさい、もう大丈夫、大丈夫ですから」


 そう答えたフェリはもう先ほどまでの色めき立った様子は影をひそめ、その頬はほのかに赤く……妙な色気すらただよう。ソラ姫からもらった不思議な力、癒しの力とでもいうのか? フェリは落ち着きをすっかり取り戻した。


「姫さま……、わかりました。このフェリ、姫さまのご判断にしたがいます。

 はい、いざとなればこのフェリ、刺し違えてでも姫さまをお守り通してみせますとも!

 

 そうとなれば、アネット、リーズ。このソラリス様に初めてお客様をお招きさしあげるのです、粗相があってはエカルラートの姫の立つ瀬がありません。早速準備にかからねば。


 では姫さま、私たちは早速準備に取り掛かりますゆえ、失礼いたします。

 後ほど久しぶりに、ゆっくり湯あみもしていただきたく、お迎えにあがりますから今は存分におくつろぎくださいませ、では」


 フェリのまだどこか納得しきっていないだろうその言葉にソラ姫は苦笑いを返すほかない。


「はぁ、やっぱライアの人と仲良くなるってそう簡単にはいかないのかな?」


 部屋から出ていく侍女たちを見つめつつ、ため息交じりにそう独り言をつぶやくソラ姫。




 この後、アリエージュの心配が違う意味で的中することになろうとは……、



 今のソラ姫、万能感にあふれるその存在になったがゆえに……、わかるはずもないのだった。



 

お話も佳境です。

もう少しだけお付き合いいただければうれしいです。


読んでいただきありがとうございます。


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