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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
22/24

第二十一話 ライアの人(ひと)と、ソラと、ニンゲンの性(さが)

久々の投稿です。

「はい、今日も二組ほど校内に紛れ込もうとしていた馬鹿どもを確保し、後方の支援車両に引き渡したこと以外――、特に問題はありません。引き続き周囲の警戒にあたります。K3エリア報告終わり」


 ソラ姫が国崎中学に登校している間、常に周囲を巡回しているSPの一人が、警護用車両からいつものごとく上司へと報告を上げている。その表情は、いつも懲りずに突入してくるマスコミ関係者にいかにもうんざりといった様子で、多少お気の毒……と言えなくもない。


 定時連絡を済ませた男は、隣に座る同僚にその顔を向けると独り言のように言葉を続けた。


「まったく、どいつもこいつもこっちの仕事を増やすばかりで、うんざりだ。

 しかし、ようやく先のライア艦隊事件が落ち着いたかと思えば、今度はそのライア人の転入生か……。ほんと次から次へと色々面倒なことだ。

 それにしても……ライア人のあの少女、ありゃどう見たって俺たち人類と変わらない姿だったな。一体どうなってるんだか? お姫様はどこかなんとも人間離れしたところがあって、なるほど異星人かって思えるところも多いが……、今回のはマジ地球人、それもアジア系って感じにしか見えなかったぜ」


 どうやらこの男たちがもライア人の転入生、ソーク=ティラ=リーンの警護の一役を担っていたようである。


「おい、余計な詮索はするなって。俺たちはただ与えられた任務をこなしていればいいんだ。ほれ、真面目に仕事を続けろよ」


 同僚の男に注意を受ける、報告をしていた男。言われて一瞬、苦虫をつぶしたかのような表情を見せるも、すぐ気持ちを入れ替えたのか、


「へーへー、わかってますよー。


 では、次のポイントへ移動する。周囲の警戒よろし!」


 男たちの人知れない(ちょっと虚しい?)努力は続く――。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ライア人の転入生、リーンを巡る一通りの騒ぎがなんとか収まり、午前中の授業が進む中、ソラ姫は自分の現状を鑑み、どうしてこうなったのか? 小さくてかわいらしい頭をこてんと傾げながら考える。

 ソラ姫の席は窓際の一番後ろなわけだが、なぜか今自分の右隣、すぐ横にもう一つ机が寄り添うように並べられている。もう言うまでもないと思うが、もちろんその席には、ライア人リーンが座っているわけで。


 すぐ隣ですまし顔で授業を受けている、ソラ姫から見ればかなり上の方にあるリーンの横顔をちらちらと窺い見ながら……、もう何度目になるかわからない朝の出来事をまた思い出す――。


「それじゃソークさんは、一番後ろに用意してある空いている席、えー、スカーレットさんの右横の席になりますが……、そちらに座ってもらいますので早速着席してください」


 担任の井上の言葉に、軽く脱力感を覚えるソラ姫。


 いや、実は予感はしていた。何しろ朝来たら自分の席の横に空席が一つ用意されていたのだから――。

 でも、しかしである。

 そんなこと普通するだろうか? アリスからの情報も得て、今現在において敵意がないことは十分わかってはいる。だとしても……である。


 ライエル=エカルラートのソラ姫とライア連邦はつい先日、激しい戦闘をしたばかり。(まぁ一方的ではあったが)


 そんな当事者、当事国の人間同士を隣合せて座らせるとか? ちょっと信じがたい。いや同じクラスになっている時点ですでにおかしいともいえるが……。なんの冗談? どこの陰謀? などとソラ姫は心の中で頭を抱える。


 そんなソラ姫の葛藤などおかまいなしに井上の言葉が続いた。


 スカーレットさん、そういうわけですから同じ外の星から来た人同士、仲良くしてあげてくださいね。あとなにぶん急でしたから教科書の準備が間に合っていません。ソークさんに見せてあげてくださいますか?」


 もう呆然と、ぽけーっとした表情を浮かべるしかないソラ姫。周囲の生徒たちも井上の対応に驚きの表情を浮かべていた。(が、それ以上に面白そうだ、と考えているものも多数いたという……)


「は、はぁ……」


 つい気の抜けた返事を返してしまうのも無理ないことだろう。


 まったくぅ、日本人の平和ボケもたいがいだよね!


 ――自身も甘々の元日本人のくせに、そんなことを考えるソラ姫である。


 そんなソラ姫の心の内を知ってか知らずか、ライアの少女、リーンはソラ姫ににっこり微笑みを浮かべる余裕すら見せソラ姫に言った。


「ソラ姫様、先のことは残念でしたが、もう済んだことです。


 上同士で政治上の調整も済んだようですし……、出来ればこれからは仲良くしていただけると助かります。

 

 よろしくお願いします」


 中学生とは思えない、なんとも大人の対応を見せたリーンである。まぁライア連邦から日本の中学に単身乗り込んで来ている時点で、中学生がどうのという次元の話でもないのかもしれないが。


「はわっ、こ、こちらこそ、その、よ、よろしく」


 流されやすいソラ姫のこと、あっさりそれを了承したのは当然のことであり、

 

 そんなこんなで、敵性星間国家の子供同士が席を並べて授業を受けるという、なんとも言えない状況が生まれてしまったのだった――。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「でさ、結局のところ帰化地球人ってどういうことなの?」


 いつもであれば屋上でフェリたち侍女による優雅なランチタイムとなる(雨でも防御スクリーンがあるから関係なし……というかそんなことでスクリーン使うなって話でもある)のだが、この日はクラスの友人たちにリーン共々拉致され、机を器用に突き合わせてのお食事会に強制参加と相成っていた。友人たち……とは言わずもがな、若村と杉山であり、その他にもあまりしゃべったこともない女子たちも多数いたりした。

 そんな中、青山ら、男子たちは中に入ることはなど許されはずもなく、遠巻きに様子を窺うしかない男子たちは、みな憮然とした表情を浮かべていた。

 しかし、それでも湧き上がる興味を抑えることは出来ないのか、普段はやたら騒がしい男子たちも気持ち悪いくらい……それはもう静かに(がつがつ弁当を食べながらも)、女子たちの園を覗き込んでいるのだった。


 で、女子たちの園で皆がお弁当を広げ、お互い軽く自己紹介も済ませ……とは言うもののそれぞれ微妙な遠慮が漂う中、そんな空気を断ち切るように若村が切り出したのが今しがたの問いである。


 周りの女子たちも興味に目がらんらんと輝く。

 ナイスですひなちゃん。杉山も箸を握る手にぎゅっと力が入る。

 女子たちの顔がソラ姫、そしてその隣に座る今回の主役であるリーンに一斉に向けられる。


 持参してきた食事――、コンビニなどでよく見るサンドイッチとペットボトルのお茶という異星人とは思えないありきたりなものであったが――、を静かに食べていたリーンがその質問を聞き、短く考えたあと答える。


「そうですね、さきほどソラ姫様もおっしゃられていましたが……。私の祖先は地球人だと習いました。はるか昔、当時地球に入植していたライアの人々がある事情から地球を去ることになった際、数百人規模で原住民を一緒に連れ帰ったと……、そう記録されています。


 ですから、私は一応……地球の方とは同じ人間種ということになりますかね」


 リーンは淡々とそう言って、問いかけた若村の方を見つめる。

 端正な顔を持つリーンに見つめられ思わず頬を赤く染める若村。そして自分たちと同じ祖先だというリーンの言葉にざわめく周囲。


「それじゃ、その、ソークって名字? でいいんでしょうか? それはどういうこと……なんですか? さっきソラちゃんともちらっとお話してたようですけど。あ、もちろん教えてもらっていいのであれば……なんですけど……」


 今度は杉山が、これももっともな質問を遠慮がちながらもしっかりする。あの艦隊を率いて来た司令官ソークと同じ名前のリーン。その繋がりに興味津々のようである。まぁソラ姫が言ったお父さん……というのは早々とリーン本人が否定していたわけだが。


 杉山の問いかけに軽く頷くリーン。


「くすっ。別に隠すようなことでもないわ。

 ライア人の支配する星、星系においても、この地球のように色々な人種、種族が同じ世界で生活してるわ。もちろん地球だと人間だけでしょうけど、ライアの場合、本当に多種多様な人種――、当然他の星系の種族も含めてなんだけど……、共存しているわけね。

 けどその中でも私たち地球由来の人類種っていうのは希少で数がとても少ないの。その昔、私たちの祖先を連れ帰って来たライアの人々は、その自身の行動の責任と保護の観点からも、人類種を自分たちの庇護下に置くようにしたらしいわ。


 そしてそれは今も続いてる。

 私はソーク家に地球でいう養子という形でお世話になっている身。けれどそれは私だけが特別ってわけじゃなく、ほとんどの人類種がそうなわけね。だからソラ姫様が言われた、お父さんっていうのも、地球人の考え方や養子ってことから見れば間違いじゃないのかもね。まぁ、そうは言っても、ふふっ、無理あるけど」


 リーンがそう言ってうっすらと笑みを浮かべる。端正な顔立ちのリーンがそんな表情を浮かべるとまるで某歌劇団のスター俳優が笑顔を浮かべているようで、背筋がピシリと通り背の髙いことも相まって、周りにいた女子たちは思わず歓声を上げてしまう。


 そんな周囲の様子を何事かとあっけにとられてしまうリーン。

 それを見てなにか釈然としないソラ姫。


 むすっとしだしたソラ姫を尻目に、そこからは色々な質問があちこちから矢継ぎ早に飛び交う。そこにもちろん男子の入り込むすきまなどない。ソラ姫の存在も空気となりつつある。


 むー、ボクのときと随分反応違うー!


 そんなことを考え、ついつい拗ねた表情を見せるソラ姫である。


 どこか子供扱いされてしまうソラ姫。更には未だにどこかよそよそしいみんな。それに対しまるでアイドルのような扱いを受けつつあるリーン。その差がどこで出るかなどとは今までの行動と、何よりその見た目からすれば明白なのであるが……。


<アリス~、とりあえず普通にお話すること出来たけど。こんなんでよかったのっ? ボク、なんかあんまし好きになれないんだけどっ>

<お姉さま、そうお拗ねにならずに。ソークの娘が来たのは間違いなくお姉さま目的に違いないんですから、せいぜいお姉さまのすごいとこ見せつけてやってくださいね!>


 そのアリスの言葉に不思議に思うソラ姫。


<ふえっ、見せつけちゃうの? ボクてっきり普通にして、何もしないようにするもんだとばっかり思ってたのに?>

<はい、ばんばん見せつけちゃってください! というか今更隠す意味もないですし、そもそもライアの奴らが何か仕掛けてきたところで返り討ちにして差し上げます!>

<あはは、そ、そうなんだ。でも、その、お手柔らかにね? ――わかった、とりあえずボク普通にしてたらいいってことだよね>


 ソラ姫はどこか釈然としないところがあるものの、元は人がいい日本の中学生、根がいい子であるから不機嫌も長続きしない。

 そしてそんなソラ姫のことを周囲や、もちろん若村たちがいつまでもほったらかしにしておく……なんてこともないわけで。


「ソラちゃん、なによそ見しながら黄昏れてるの? ほらっ、リーンさんも話したんだからさ、ソラちゃんも何か面白い話、聞かせてよ。うーん、そうだ、お姫様の生活ってどんな風なの? どんなところに住んでるの? それに……」


 若村に強引に輪の中に引き込まれ、がんがんまくし立てられるソラ姫。


「はわわっ、ちょ、ひなちゃん。そんな一気にしゃべられても~」


 困り顔をするソラ姫。でもそれはどこかうれしそうで……。

 で、結局、気が付いてみれば皆と一緒になって笑い、盛り上がり、おしゃべりを楽しんでいるのだった。


<よかった……お姉さま、楽しそうです。

 

 ――でも、ソークの方はさっきはああ言ったものの、警戒するに越したことはないのです。

 それにこの国の人間も必死ですね~。情報集めようと学校中にこそこそ仕掛けてるみたいだけど――、私やお姉さまにはバレバレです~。ほんと何の足しになることやら……です。


 ライアも人間たちも、精々頑張るがいいです。


 くくっ、でもまぁ私とお姉さまの敵になれる存在なんて、そうそう――いやしませんけどね~>


 なんとも人間くさいAIアリスが独り言ちる。



 調子に乗って足元をすくわれなければ良いと……、思わず心配したくなる。実際そう考え、苦々しく思っている存在、ディアとフォリンが居るのではあるが――、彼女ら(特にアリスに)面と向かって言えるはずも無く。



 でも――、そんな人々やAIの思いなど結局世界からみればちっぽけなこと。


 今日も一日はつつがなく過ぎていくのであった。







☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「見ろよこれを!」


 白衣を着た痩身の男が机上のLCD画面を指さし言う。


「む……ん、こ、こいつは――」


 呼ばれてその画面をのぞき込んだ男が思わず生唾を飲み込み、驚きの言葉を重く吐く。

 その男の様子をみて満足そうに頷いた痩身の男が更に言う。


「ついに見つけたぞ。


 あの少女、ソラ姫の力の謎。その一端を!」



 そこには一体どのようにして撮影したものか?

 

 微妙にぶれた状態ではあるものの、それはまさしくレントゲン撮影で見られる人体の像。

 その上半身が、傾いた状態ながらも映し出されていた。


 その像はソラ姫の、首元から胸の少し下あたり。


 その画像に映るその胸元。心臓のある辺りから……。

 幾筋も、幾筋も、無数に細かく伸びる白く光って見える光条。それはソラ姫の体全体に放射状に伸びている。無数に、数えきれないほど大量に。


 それは更に幾重にも分岐を繰り返し、それこそ毛細血管であるかのよう。

 それはレントゲン像であるにもかかわらず光り輝いている照明のよう。

 それが全身像であったなら……、きっとその光の筋で人体が表せる。それほどの光のありよう。


 そしてそれこそが王玉オーブ、スカーレットオーブの姿。

 今となってはソラ姫の全身に張り巡らされたオーブの姿そのものなのであった。


 もちろん、地球人である彼にそれの意味などわからない。価値も当然わかるはずもない。

 だがそれでも、その神秘的でさえあるその白く輝く物体。心臓の横で形が特定できないほどに輝き、放射状に白く輝く光条を放つその物体――。


 それに心が吸い寄せられる。



「欲しい……」


「かけらでもいい。髪の毛一筋ほどでもかまわない――」



 男の発したかすかな声が、冷え冷えとした研究室の中に溶け込み消えていく。


 近くにいた同僚の男もその声に気付くこともなく。




 ただLCDに映る映像だけがやたらまぶしく鮮明に、その部屋を寂しく照らし出していた。




なんだか変なタイトルに。


読んでいただきありがとうございます。

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