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異星の少女~そらリターンズ~  作者: ゆきのいつき
20/24

第十九話 ソラ姫の居場所

久々の投稿です。

 ライア艦隊が姿を消し……、月の裏側にはいつもの静けさが戻っていた。


 そこで行われた戦闘。


 それは地球人にとって、初めて体験する星間国家同士の争いであると言えた。(実質はライア偵察艦隊対ソラ姫個人という、普通ならなんともありえない戦いだったが)

 そしてそれは地球人類の持つ軍事力、言い換えれば地球の科学技術。それが全く通用することがない、歯牙にもかからない歴然たる差があるということをまざまざと見せつけられた戦いであった……、とも言えた。


 そんな戦闘ではあったが、今やそれを窺い知れるものは何も残ってはいない。大量に破壊されたはずのライアのデコイ艦群の残骸一つすら残っていないのである。


 なんとも圧倒的なまでの火力――。


 ソラ姫の砲撃は、破片すら残らない……ほど、それほどまでにすさまじい威力であったのか。


 宇宙においてようやく地球圏から飛び出しその勢力を太陽系内に広げ始めてはいるものの、実際のところ鉱物資源を採掘する程度の力しかない地球人類。地上にある多種多様の大量の兵器、それこそ地球表面を数百回、数千回でも焦土に変えることの出来る兵器――"核兵器"、があったとしても……。それは宇宙にある艦隊には向けては何の足しにもなりはしない。


 かくも地球人類から見れば手の出しようもなかったライア艦隊。


 その偵察艦隊に対し圧倒的な力の差を見せつけたソラ姫。


 それを目の当たりにした地球の人々は、これまでソラ姫に抱いていたかわいらしい、可憐な天使のようなイメージだけで見ることの愚かさに気付いてしまっていた。

 もちろん、これまでもグラン星エカルラート領の領主であるということはことあるごとに説明は受けていたし、今現在住んでいる日本はもちろん、世界の主要国家の元首は揃ってソラ姫に対しそれ相応の態度、国賓を迎えるレベルの歓待を持って受け入れてはきていた。


 しかしまさかである。まさか彼女自身があそこまで苛烈な戦力を有する存在であるとは知り得ていなかった。彼女の星船であるソラリス、そして一緒に来訪したクラウディアら星船集団には脅威を感じてはいたものの、まさか一個人である、言い方は悪いが、たかだか12・3歳程度にしか見えない少女があのような力を持つとは想像だにし得なかった。


 報道各社の報道もまずかった。

 ライエルの星船に乗り込み、そこで行われた苛烈で一方的な蹂躙戦をそのまま、ありのままに報道してしまい、今、世間ではすさまじいばかりの騒動が巻き起ころうとしていた。

 特に問題となったのは、政府関係者がいたならあるいは配慮をしていたかもしれない……ソラ姫自身による大量破壊シーン……、それををそのまま報道してしまったことだろう。

 それは一個人の能力……と言っていいのかさえ疑問だが、としてはまさに規格外。あまりにも現実離れしすぎていて、報道各社のTV番組においてもコメンテーターたちは言葉を選ぶことに苦慮していた。(下手なことを言えば政府からなにかしら圧力がかかるのは目に見えているし、異星人たちの反応もどう出るか未知数であるのだから……)


 しかしそんな公共報道機関の苦慮する姿と異なり、世界中あまたの国のネット上では歯に衣着せぬ物言いで本音をストレートに言い合う姿が多数見受けられた。もちろん行き過ぎた書き込みや動画には警察からの警告などもあったようではあるが、そこはネットの世界。叩いても叩いても次々と湧き上がってくる"ネタ"を取り締まることなど出来ないのであった。


「ソラ姫ぱねぇ! 怒らせたら地球終了のお知らせwww」

「しゃれになんないよね。日本の中学にいるんだよね? それ大丈夫なん?」

「魔砲少女も真っ青~! 世界はソラ姫にひれ伏すがよいっ!」


 ある意味他人事な一部ネット住人には、世間の報道が感じている深刻な空気はあまりないようではある――。

 が、それはソラ姫が通っている市立国崎中学校のある日本の小さな街においてはとても通用するものではなく……、他人ごとでは済まされなかった。


 あの世界中を震撼させた異星人同士の争いがあった翌日。

 国崎中学の職員室の電話が鳴りやむことはほとんどなく、教員たちはその対処に追われ授業を行うことすら困難な状況に陥っていた。また教師自体、これからのソラ姫の扱いについて苦慮していた。


 電話の内容。

 それはあのソラ姫と自分たちの子供を一緒に学ばせることへの不安を訴える家族や保護者からの電話である。いや、もっとはっきり言えば、あんな危険な宇宙人を学校に通わせるな。危険人物と一緒の学校に大事な子供を通わせることなど出来ない。などという苦情であり、更に過激なところでは、ソラ姫をやめさせろ! とはっきり言ってくる保護者も多い。

 と言うよりそれが一番多くの保護者の意見であろうことは火を見るより明らかである。


 しかし、それはあの報道された映像も見せつけられれば至極当然な反応であるとも言えよう。


 かと言って保護者の言うように辞めさせたくとも、国の官僚からの依頼であり、そうそう自分たちの判断で実行できることでもなく。そんな八方塞がりの状況。校長は終始青い顔をし、教頭も小走りに職員室と校長室を行き来し、打開策も見いだせないまま右往左往している始末である。


 しがない地方公務員でしかない学校職員たちの胃に穴が開かないことを祈るほかない。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「ったく、お姉ちゃん……、どうするつもりなのよ? あれ~!」

「はうぅ……、ど、どうするの?って言われたって……」


 目を若干つり目にした春奈にそう問い詰められ言葉に詰まるソラ姫、いや蒼空。


「春奈様、姫さまにそのようなお話をされるのは筋違いと言うものです。姫さまは与えられた役割をきっちりと果されただけ。あのような者たちに責め虐げられるようなことは何一つされてはおりません! 大変不愉快です」


 ひるんでいるソラ姫に変わって、そばについていた侍女、フェリが不快感を隠さない態度と言葉でもって答えた。

 フェリが「あのような――」と見下した目で見る先。柚月家のリビングの窓から家の外を覗き見れば、そこには報道各社の車が多数集まっており、家の玄関のみならず、門の前から周辺の道路に至るまで、辺り一帯は報道陣で溢れかえっていた。


「柚月さーん、ソラ姫そこに居るんですよねー?」

「一言何かいただけませんかー?」

「ある意味『核』より危険な人物と一緒に過ごして恐ろしいとは思いませんか?」

「ここに居てほしくないという意見も多数あるようですが、それについてはどうお考えですかー?」


 玄関前、あるいはインターフォン越しに、各々好き勝手な言葉を口にする報道各社の取材者たち。そのなんと無責任な発言のことか。ソラ姫が自分たちに対し過激な行いなどするはずがないと、勝手に思い込んでいるからこそ行える態度だろう。にもかかわらず、その口からでるのは「危険ではないのか?」という問いかけであり、なんとも矛盾した行いをしている報道陣である。


「ふえぇ……、ぼ、ボク、どうしたらいいの。なんでこんなにいっぱい人が集まってきちゃうの? ボク、なんか悪いことしちゃったの?」


 あまりな外の様子に、涙目になってうわ言のようにつぶやく蒼空。天使のような可憐な顔を悲しげにしかめ、今さっき問い詰めて来た春奈を逆に見つめる。


「お、お姉ちゃん。そ、そんなの……、そんなのあの月の裏側でのことに決まってるじゃん。あれがTVでバンバン繰り返し放送されるは、ネットでもいやっていうほど動画がUPされるわでさぁ……。マジお祭り騒ぎになってるわけ! 知らないとは言わせないよ?」


「ううぅ、そ、それはわかってるけど……。でもボク言われた通り、異星人の星船の艦隊追い払っただけだし……、地球の人たちや宇宙ステーションとかにもなんの被害も出さなかったし……。なんでこんな騒ぎになっちゃうのか全然わかんない!」

「その通りです。姫さまの対応はまさに完璧! 地球の周りに細かいデブリ一つ残さない素晴らしさ! これは褒められこそすれ、責められることなど何一つないのですわ!」


 ソラ姫の言葉に追従するかのように重ねて言うフェリ。

 春奈はソラ姫命のフェリの言葉に頭が痛くなり、自分との基準がすでに全然合わなくなってしまってる小さな姉を見て、力が抜けてしまいそうになる。


「ああもうっ、そんなことはわかってる。でも問題はそんなことじゃないわけ!

 もうっ、ほんとわかんないの? お姉ちゃん、お姉ちゃんのあのちょーーーーーーーーー常識外れ、規格外!っの、撃退方法にみんな慌てふためいてるんじゃないの!


 わかるでしょ!?」 


「ふぇ? 撃退方法? 規格外……?」

「そう! 規格外!」

「はぇ?」

「もー! わかれっ、このどん感お花畑アタマ~!」

 

 ライエルで色々経験し、自分自身変わり過ぎてしまった蒼空。更には非常識なライエル基準の宇宙での物の考えが身について久しい蒼空には、なんとも地球での常識自体曖昧なものになってきているのであろうか?

 そもそも誰も死んでいないのに何がいけなかったのか? 自分が放った攻撃の異常性にまったく思いの及ばない蒼空には春奈の言うことがてんでしっくりこない。


 そんな不毛でどこかずれたやり取りを蒼空と春奈が続けていたところに、リビングに更に二人の人影が現れる。


「はぁ、やれやれ。やっと一息つける……」

「お疲れさま。お茶入れるから一度座ってゆっくりしたら?」

「ああ、ありがとう。そうさせてもらうよ」


 現れたのは一家の大黒柱、柚月家の主、雅行と、その妻、日向。

 二人はインタビューをしようと玄関になだれ込もうとしてくる報道陣を必死になって押し留めていた。そしてそれがもう限界に差し掛かろうとしていたところに現れたのが国から派遣されているSPたちだった。報道陣を掻き分けるように突入してきた黒いスーツの屈強な男たちが周囲を威圧しだすと、最初は文句を垂れていた取材陣たちもその勢いをそがれ、一人また一人と玄関前から離れていく。家の周囲にも次々と黒塗りのセダンが集まってきて報道陣の車をどかせ、人々もそれにつられて離れざるを得なくなっていく。


 かくして柚月家の周囲からはようやく報道陣の姿が消える。(とは言っても付かず離れずの場所から隙あらばと狙っている輩が多数残ってはいるのであるが)


「あ、お父さん、お母さん! 戻ってきちゃって……、もう大丈夫なの?」


 春奈が戻ってきた二人に、心配気に声をかける。


「ああ春奈、もう大丈夫だ。蒼空の警護についてるSPの方々がなんとか追い払ってくれたよ。いやほんと助かったよ」


 疲れた表情をなんとか抑え、優しげな表情を浮かべて春奈に答える雅行。


「蒼空も大変だな~、あんな連中に目を付けられてしまって。どうしたもんだろうなぁ……、困ったものだ」


 どこか呑気な物言いの雅行。それを見て苦笑いの日向。と言うかもう苦笑いするしかないとも言える。


「お父さん、何呑気なこと言ってるの! ったく、こんなんじゃ学校にも行けないよ~! つうかきっと学校も大騒ぎになってるだろうし、異星人騒ぎの特別休校だってもう終わっちゃうし。どうすりゃいいの~?」


「いや、どうって言われてもなぁ……」


「じゃあさ、じゃあさ、アリスに頼んで防御スクリーン家の周りに張ってもらう? そしたら誰も入ってこれないよ? 無理に入ろうとしたらビリビリってきちゃうんだよ? もちろん死んじゃわないよう手加減も出来るんだから、安心だよ?」


 蒼空の虫も殺せなさそうな綺麗でかわいらしい顔から、そんな言葉がぽろっと出る。先ほどまで泣きそうな顔をしていたのに現金なものである。

 そんな蒼空を呆然とした表情で見つめる三人。対するフェリは、「さすが姫さま、いいお考えです」と全肯定の構え。


 きょとんとした表情の蒼空をしり目に、しばし無言の時間が流れる――。



 防御スクリーンがどうのという話は置いておくとして……、少なくとも日本の学校は異星人襲来事件のおかげで休校になっていたのは事実である。しかしそれもソラ姫がライア艦隊を追い払ったことで終わりを告げるわけで。

 とは言うものの、国崎中学においてはこの事件はまだ終わりを迎えてはいない。そう、少なくとも蒼空、ソラ姫がこの地に居て、当の中学校に通っている限りにおいて――。



 それにしても昔の蒼空と違い、そんな重い周りの空気にも関わらず今や呑気な雰囲気を振りまいている蒼空。その儚げな見た目とは裏腹にライエルで鍛えられた精神力は日本の報道陣に囲まれたくらいでは揺らぐことはなくなったのであろうか?


 否。


 蒼空にとっては家族がすべて。

 

 ずっと離れ離れだった家族。

 お母さんや春奈とやっと会うことが出来た蒼空にとって、周囲の喧騒などどうでもいいことなのだった。家族と一緒に居れるだけで幸せ。蒼空にとって、まさにそれこそがすべて。

 そもそも、ライエルのお家騒動に比べたら今の騒ぎなどちゃんちゃらおかしい、といったところなのであった。



 とは言ってもこのままでいいわけではもちろんなく。

 それは否応もなく蒼空の今後の行動へと影響を及ぼしていく。


 それに未だ気付くことのない蒼空は、家族の思いや外の騒ぎとは裏腹に、呑気に微笑みすら浮かべているのだった。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆



 ちなみにあの後、ライアとライエルの文官との間で停戦交渉が行われさっさと停戦成立。そして改めて地球に関する話し合いも執り行われた。その中でライア人たちも多少分が悪いとはいえ、ちゃっかり地球との交渉権を獲得していたのは余談である。


大変遅くなりすみません。


読んでいただきありがとうございます!

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