第十八話 撃退のち不穏?
遅くなりすみません。
12/17 本文を千文字以上追加しました。
大変申し訳ありません。
予約投稿していたのですが、なぜか本文の後半千文字ほどが消えてしまっていました。バックアップもなく、再度の執筆となったため修正が遅れました。
月の裏側。
ライア艦隊とライエル……いや、ソラ姫の遭遇戦が開始されてわずか10分少々。その短い時間の間に出たライア艦隊の被害は、旗艦より放出されたデコイ艦十隻の全滅――。
プレアデス星団が存在するおうし座方面において比ぶるべきものの居ない、最強星間国家であると自負し事実その通りであろうライア軍。そこにおいて一目置かれている司令ソーク擁する精鋭艦隊。そしてその実態は地球人とライエルとの関係を威力偵察にきた偵察艦隊であり、その艦隊がいとも簡単に……、デコイ艦とはいえあっさりと十隻を失う事態となり、その艦隊内はただならぬ雰囲気に包まれていた。
デコイ艦の後方で様子を窺うように待機していた九隻の巡星艦は未だ無傷のままとはいえ、相対しているけし粒のごとく小さな敵、ソラ姫の放った途方もない砲撃。生身の、一個人の攻撃としては規格外、破格すぎる凄まじい砲撃。防御スクリーンが何の役にも立たない圧倒的な力の前に為す術もなく撃破された。
その事実にライア艦隊は浮き足立ち、それは指令部のある旗艦の艦橋でその一部始終を見ていた、司令ソークと補佐官キューにおいても同様であった。
『あ、圧倒的すぎる――。な、なんなのだあの砲撃は!? あ、あれをあの小さな人類種の子供が放ったというのか?』
のっぺりとした多少面長な顔をさらに伸ばし、その驚きの表情を張り付かせたまま吐き捨てるように語る司令ソーク。
『にわかに信じがたいことではありますが……、これは紛れもなく我らの目の前で起こった、忌まわしくも間違いのない事実であります。
あの人類種……エカルラート領主のソラ姫が放った収束粒子砲? らしき砲撃。そもそも人類……いや、生物が……まるで宇宙規模の災害のごとき砲撃を放つことが可能なのか? この目で見た今なお、信じがたい事象ではありますが――』
補佐官キューもいつも浮べている多少シニカルな表情は今はなく、司令ソーク同様、驚きの表情を抑えられないでいる。
『うーむ。このまま何の手立てもなく更なる追撃に打って出るのはとても良策とは言えんか? 我が旗艦、我が偵察艦隊があのような小娘に火力で劣るとは思いたくはないが……しかし』
『はっ、時には後退もするも司令官の度量の一つかと。対抗策も見出せないまま打って出るのは愚かな、二流の指揮官の成すことであり、我が司令におきましてはそのようなことはないと……、小官は確信しております』
司令ソークの語りかけともつぶやきとも取れるその言葉に反応し、歯に衣着せぬ物言いで意見を唱える補佐官キュー。
『ちっ、はっきりと言う……。が、仕方ないか。
補佐官キュー、残念だが偉力偵察はこの時を持って予定通り終了。敵、ソラ姫へ牽制を兼ねて更にデコイ四隻を放出、時間差を付けて四方向から仕掛ける。
我が艦隊はその間を利用し、一気にこの太陽圏より離脱する! あくまでひとまずの撤収だ。今後の策は文官どもを乗せた後続艦隊の到着を待って考えるとしよう。
ああ、背後のグラン公のジェネリック船への注意も怠るなよ?』
司令ソークが動揺をした表情から一転、テキパキと補佐官キューへと指示を飛ばす。
『はっ、了解しました。
デコイ四隻放出後、艦隊は太陽圏より離脱。航行は太陽圏内ということで通常ドライブの最大出力。あと、デコイ艦については……回収はしない――、ということでよろしいのですね?』
『ああ、それでいい。速やかに実行に移れ』
補佐官キューの補足込みの復唱に多少表情をしかめつつ、了承する司令ソーク。
そしてその顔を再びスクリーン上に写る、宇宙空間にも関わらず生身のまま背中の透き通るかのような白い翼を広げた天使……、のごとき姿をした、ライア艦隊にとっては悪魔のような存在――、ソラ姫をじっと見つめる。(ライアにおいても天使や悪魔の概念は存在する。というかその概念を人類に伝えたのも過去のライア人たちであり、当時の人類を操作するにあたり宗教というものはなんとも利用しやすく、積極的に広められたのである)
『まったく――。お前は我らにとってこのまま、いまいましい悪魔となっていくのか……?
やはりあのウワサ。ライエルの至宝であり、無限の高次エネルギー発生場、生命の理を司るスカーレットオーブ。その宝玉をその身に宿すことに成功したなどという……信じがたいウワサ。それは事実であったのか? お前のその在りえない力はそれによるものなのか?
だとしたら……、我らはどうその力と向き合うべきなのか?
難しいことよな――』
司令ソークは誰に告げるということもなくそうつぶやき、モニター上のソラ姫を見つめ続けるのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「し、信じられません!
し、しちょ、視聴者の皆さま! 今、め、目の前で起こった凄まじいばかりの光景。そのあまりに信じられない出来事に……わ、私はもう、伝える言葉が思い浮かびません。
今私の目の前には、美しくも可愛らしい、天使のような姿のエカルラートの姫君。ソラ姫が宇宙服も着ず、ゴスロリ調の衣服に身を包んで宇宙空間に一人佇んでいます。
まるで何も無かったかのように静かな、あまりにも普通で静かな光景であります。
しかし! つい先ほどまで私の目の前では目の前全てを覆うような嵐、雷の巣のような凄まじい電撃が飛び交う嵐にさらされていたのです!」
興奮してしゃべりまくるアナウンサー。
そしてその中継放送を見ていた地球上の人々も、アナウンサー同様、目の前で見せつけられた在りえない光景に息を詰めている。
がんばってしゃべっているアナウンサーの語りを一体何人の視聴者がまともに聞いているだろう?
それほどまでにソラ姫の行なった……、新たに現れた異星人のUFOへの攻撃は苛烈であった。いや、それだけ聞くとソラ姫が一方的に攻撃したかのように受け止められが、まず最初の攻撃は敵――、グラン公いわく、ライア人というのが新たな異星人の種族名らしいのだが――、ライア人の艦隊からの攻撃であり、それを不思議な大きなシャボンのような膜であっさり防いだのがソラ姫だった。
そも、その防御方法自体なんとも不思議な事象であり、現地にいたアナウンサー自身、グラン公のインスタンス船に乗っていたとはいえ、避けようもなさげな攻撃に思わず悲鳴をあげ、その身を恐怖ですくませてしまうほど頼りなげに見えたものだった。
――だが、ライア人の十条の光の束の攻撃は、ソラ姫が造り出したなんとも頼りないシャボン膜によりあっさり、本当にあっさりと消滅してしまったのである。
その後、まさしく圧巻のソラ姫の反撃が続いた。小さな手に持った、U字形の先端を持つ細長い杖のような、槍のような武器? から放たれた砲撃。収束された荷電粒子、そこから発生するプラズマの光。粒子収束砲から放たれた螺旋を描いて突き進む収束エネルギーの的になったのはライア艦隊の前線に配置された十隻の葉巻型UFO。
ソラ姫の武器の的となった十隻のUFOは、与えられた役目を全うすることなく、見た目とても破壊兵器には見えないそれから放たれたエネルギーの嵐の前に蹂躙され、その船体を粉砕され、全てが爆散して果てた。
「こ、こう言っては、その、なんなのですが……。
やはりソラ姫は異星人であると。
いかに可愛らしく、か弱そうな少女の姿、まるで天使のような姿をしていようとも……。やはり"かの姫"は……異星人なのだと。
我々地球人とは全く違う生物であると……、目の前でこの戦闘、いや、戦闘というのもはばかれる、一方的な蹂躙戦を見るに当たり、私はそう伝えるより他、言葉が思い浮かびません。
いちアナウンサーの私ごときが何を偉そうなことをと、私情を挟んでしゃべるなと、お叱りの言葉を賜るかもしれませんが……、目の前で見た光景を語るに、私にはそんな言葉しか出てきません。
視聴者のみなさまにはおいては、どのようにお感じになられたでしょうか?」
アナウンサーが青い顔をしながらTVカメラに向って話し続ける。視聴者に投げかけるその言葉は開戦前と違い固く、その表情には怯えにも似たものが浮かんでいる。そこには一切浮かれた、かわいい少女をちやほやしていた雰囲気は無く、まさしく戦場で報道を行なう取材者のそれと化していた――。
「な、何よこのアナウンサー!
さっきまで鬱陶しいくらいお姉ちゃんのことちやほやしてたくせに~!」
中継でのあまりの光景に呆然自失に陥っていた春奈は、態度を急変させたアナウンサーのその言葉に怒りをあらわにして画面に吼える。しかしその表情は若干青ざめ、さすがのお姉ちゃん大好き……な春奈とはいえ、相当ショックを受けているようである。
「春奈、落ち着きなさい。ほら、そんなに画面を揺すっちゃ壊れてしまうだろう」
興奮した春奈が吼えるだけでは飽き足らず、大型液晶TVの枠を持ってぐらぐら揺する姿を見て、慌てて注意をする父、雅行。
「だ、だって~! このアナウンサー、ムカつくんだもん! なによ、あの言い方! まるで、まるでお姉ちゃんが……、お姉ちゃんが……」
自分の言葉に感極まって泣き出してしまう春奈。
それを見てどう対処していいかわからず、おたおたし出す雅行。思わず隣りに座る妻、日向に助けを求めるように目線をやる。
やれやれといった表情を一瞬見せつつ、隣に座る、泣き出した娘の肩を抱き寄せ、背中をさすってやる日向。
「ほら春奈。落ち着きなさい。きっとあのアナウンサーさんは現地で、目の前であんな光景を見たから気が動転してるんだわ。後になって、自分の言ったことに気付いて……、きっと後悔すると思うわ。
……それに蒼空はがんばって私たちのこと守ってくれてるんだもの、春奈ならわかるでしょ? だからあなたがそんな顔してちゃだめ。
蒼空が帰ってきたらちゃんと笑顔で迎えてあげるの。わかった? ん?」
日向がぐずる春奈を優しくさとす。
「ぐすっ……、う、うん。わかった……」
春奈の涙を指ですくい、その頭を優しく撫でてくれる日向を、ようやく軽く笑みを浮かべながら見る春奈。
「そうだよね、私たちが笑顔で迎えてあげなきゃ、がんばったお姉ちゃんが報われないよね。ったく、それにしてもむかつくアナウンサーだよね? 絶対抗議してやるんだから~!」
気持ちは落ち着いたもののやはりアナウンサーに憤りを感じるのかまだまだ愚痴る春奈。
日向と雅行は顔を見合わせ苦笑いするしかない。そして今のアナウンサーの言葉がやはり気にかかる二人なのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
ライア艦隊は指令ソークの命令の元、撤退戦を始め、ソラ姫の前には囮となるデコイ艦が差し向けられた。
もちろんライア艦隊のそんな思惑はすすけて見えるディア、そしてフォリンではあったが、二人としてもそれを追撃しようなどとはつゆほども考えてはいない。そしてそれをソラ姫に教えることもしない。
ライア艦隊にもちろん被害は出たものの、撃破されたのはデコイ艦のみ。ライア人の死者は幾人も出ていないはずであり、この時点で矛を収めておけばこの後必ず行なわれるであろう、お互いの文官同士の交渉において、少なからず有利に事を進めることができるはずである。
もちろんこちらが抜け駆けし、地球人との国交樹立を成してしまった負い目はあるが……、それもまぁ、この圧勝ともいえる状況をうまく使えばどうとでも出来るはずである。その辺は文官どもの腕の見せ所ともいえる。ここまでお膳立てしてやったのだから、せいぜいがんばってもらおうと目論む、フォリンとディアである。(元はと言えばこの二人のせいで起こったいさかいなのであるが)
「それに……、このまま追撃しても、我父、ライエル王が喜ぶだけだ。それだけは、なんとしても避けたい。あんな戦闘狂……、喜ばせてやる趣味は私にはない!」
撤収して行くライア艦隊の様子を確認しながらフォリンがそうつぶやく。
「あなたの個人的な感情はともかく――。とりあえず蒼空にはデコイ艦の始末は任せましょう。
彼女はこういった戦いは全くの素人です。目の前の敵に一生懸命ですから、あれが囮で、それを機に本隊が撤収しはじめていることなど、当分気付かないことでしょう」
ディアは淡々と事実を語り、更に話しを続ける。
「それはとりあえず置いておくとしてです。
今回、この戦いを地球人の報道機関に見せたのは少々時期尚早だったかもしれません――」
ディアはそう言うとしばらく沈黙する。
「蒼空……の、戦闘力――か?」
フォリンがぼそりと問う。
「はい、その通り……です」
「ふんっ、一応聞こう」
なんとも歯切れの悪い二人の会話が続く。
「今回――、我々以外の、それも地球人に敵対する可能性がある異星人が居るということを知らしめるため、そして蒼空の、地球人類とは違うということをアピールする意味合いもあり、報道関係者を私の子供たちに搭乗させました……」
ディアの話しが続く中、外ではソラ姫とデコイ艦の、戦いとも言えない戦いが始まっていた。無力なデコイ艦の攻撃、対する圧倒的なソラ姫の収束砲の砲撃。
それを報道する地球人の報道関係者たち。
ちなみにその報道内容は全て、一字一句、どんな些細な映像ですら漏れなくディアが精査しており、場合によっては干渉することすら可能である。もちろん実際することはないはずだが――。
「……ほんとうに……時期尚早でした――。
蒼空は、蒼空の戦闘力は……地球人には刺激が強過ぎたようです。
うかつでした。私のミスです」
ディアがこのように自らミスを認めることなど、正直聞いたことがなかったフォリン。
だがフォリンにしてもディアのことは攻められない。半ば、面白半分で蒼空の実力を地球人に見せつけ、異星人"ソラ姫"を印象付けようと画策したことは間違いないのだから――。
二人はそんなバツの悪い思いにかられ、外の戦闘に意識を向ける。
そこにはデコイ艦四隻との戦闘を瞬殺ともいえる早さで終わらせてしまったソラ姫いた。
それを見て、いっそう騒ぎ立てている地球の報道関係者。
そして――、
真っ暗で、寒くて、ひたすら寂しい宇宙空間には、ぽつりと……一人佇むソラ姫の姿だけがあるのだった。
読んでいただきありがとうございます。
物語は終盤へと差し掛かってきました。
あと少しお付き合いいただければうれしいです。