第十六話 緊迫?
遅くなりました。
投稿します。
『補佐官キュー、あれはなんだと思う?』
『司令ソーク、私には人類種のように見えますが?』
『そ、そうか。貴官にもそう見えるか……』
葉巻型の星船の中、そんな会話を交わしているのは身の丈2m50は楽に越えるであろう巨体を持つ異星人二人。
そう、ソラ姫たちの前に現れたライア人たちである。
二人は星船、もっとも彼らは巡星艦と呼んでいるが……の操艦、指揮系統が集中しているスペース、船でいう艦橋に相当する、600mはあろうかという船体の大きさの割には狭い指令室で外の様子を見ていた。
『うーむ、地球の人類種は宇宙での生命維持が可能であったのか? 俺の記憶がおかしいのか? それとも恐るべき短期間の内に進化したのか? 興味深い』
そう真面目な表情で語る、司令ソークと呼ばれたライア人。
『司令ソーク、あなたの脳は"植民ライア"並にスカスカなのですか? そのようなこと、あるはずがないではありませんか。
あそこのあれはライエルの王太子であるグラン公が納める星の自治領の一つである、エカルラート領の領主です。確か、名前はソラ=エカルラン=サー=スカーレット=ユズキ……と、報告が上がっています。
エカルラートの住人自体は人類種です。確か数百年前にエイム人が、地球から相当数連れてきた人類を元にした民族との調査報告もありますが、間違っても人類種に宇宙空間で生存出来る固体などおりません。
目の前にいるアレは相当の変り種です。そして、調査報告によれば相当に危険な存在です。
まったく面倒な……』
質問をしたのがソーク=ヨーク。この葉巻型巡星艦の艦長であり、この船団、いや、艦隊の司令をしている男性体である。
その彼に対して、辛辣な比喩を交えながら質問の答えを返したのは、キュー=ミューチ。これでも司令ソークの補佐官の任に付いている女性体である。ちなみにライア人の名前は日本人と同じ、姓=名となっていて、ソークやキューが家名となる。
彼らの容貌は人類に似た顔形をしていて、どことなく東洋人を彷彿とさせる少しのっぺりとした面持ちである。全体で見てもライエルのエイム人よりも人類種に似た容姿と言えよう。まぁ、とは言うものの身長は巨人族と言われるのももっともな、3m近くになる巨体ではあるが。
小人なエイム人に、巨人なライア人。なんとも対照的な種族である。
『まぁそう言うな、補佐官キュー。
確かにそれは聞いた覚えがあるな。グラン公に代わって領主となった……、ソラ姫とか言われている小娘がいるとかどうとか……。更に言えば、ライエル貴族の誰それかと、もめていたとか言う話も聞いたぞ。
ふーん、あれがそのソラ姫というわけか……』
司令ソークは、そう言いながら司令室内にある巨大なスクリーンに映し出されている、つい先ほど目の前の宇宙に現れ、自らの艦隊の行く手を阻むかのように翼を広げ立ち塞がった、ソラ姫の姿を、もの珍しそうに見入る。
『小賢しいエイム人のことです。大方、直接我らが交戦すると不可侵条約の約款に抵触するのは間違いありませんから、ああやって人類種を前面に出して当方を躊躇させ、当面の時間稼ぎでもしようとしているのでしょう。
きっとこのあと、お互いの文官同士で今回のこのお粗末な騒動についての折り合いを付ける交渉が始まるに違いないかと。
それにしても今回の件、ライエル側はあまりに大胆です。異星人の存在すら知らなかった地球人に対して、姿を見せるだけでなく一足飛びに地球人の相当数の国と、国交を樹立するなど……。これはどう考えてみても、プレアデス星間連邦に対するライエル側の挑発行為以外の何物でもないと、小官は考えます』
補佐官キューはまるで愚痴でも垂れるかのように、司令ソークにソラ姫についての考察を口にする。
そんな補佐官の言葉に司令ソークは軽く頷きながら言う。
『まぁそうだろうな。
しかし長年の間……、我らですら表立った行動は控えていたというのに、ここへ来てなんとも抜け駆けじみたことを。一体やつらに何があったのやら?
ともかく、好戦的なライエルの中でも、エイム人であるライエル王は輪をかけて争い好きと聞く。これを機に実際仕掛けてくることも無いとは限らん。
ま、なんだ。せっかく向こうさんから人類種を緩衝材として投入してきてくれたんだ。多少シャクだが、こっちもそれを利用させてもらうおうじゃないか。
ライエルは強大だ。先走って近衛軍であるグラン公と交戦して、勝てる見込みがほとんどない戦争のきっかけ作りを私がするなど……考えたくもない』
そんな司令ソークの言葉に苦虫を潰したような表情を浮べる補佐官キュー。
司令の考えは大変消極的ではあるが、言っていることはキューとしても理解出来るし、自身としても戦争の発端となることは避けたいと思えるので、更なる意見具申は控えてしまうのだった。
『ではいかがするのですか?』
素直にそう訪ねる補佐官キュー。
『ああそうだな……、あえて向こうの思惑に乗ってやろうじゃないか。
とりあえず様子見として、デコイ艦をそこのソラ姫にぶつけてみるとしよう。――実は私としても興味がある。人類種、いや、我々ですらありえない、生身のまま宇宙空間に出ることといい、単騎で我が艦隊に向ってくる、その自信といい。どんなものなのか是非とも見てみたい。
くくっ、そして後のことは文官どもに押し付けてしまうとしよう』
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
宇宙空間に一人寂しく佇むソラ姫。
そんな様子とは裏腹に、その可憐で可愛らしい顔に少々似つかわしくないくらいに鋭い目つきをしている。赤と碧のオッドアイが見つめる先にはライア人の艦隊。
その艦隊に動きが出る。
三隻づつ三組の集団、その中の一つの小隊を構成している内の一隻。少々他の艦と大きさや色、形まで違う、どうやら旗艦と思われる艦から、バラバラと小型の艦が放出されているように見える。
それを見て眉をしかめるソラ姫。
「ううぅ、なんかあれと同じような光景、以前にもあった気がするぅ……」
ソラ姫が思い浮べたのは過去、ディアとの模擬戦やノルン公の星船との戦い時に出てきたサッカーボールモドキのこと。
しかし、今放出されているのはそんなサッカーボールもどき――、遠隔操作の小型砲台とはケタ違いのサイズで、アリスの半分くらいの大きさはありそうである。そんな小型艦があれよあれよという間に十隻、ソラ姫の前に整然と並んで静止した。
<ちょ、ちょっとディアぁ? なんなのあれ? あれもやっつけちゃっていいんだよね?>
敵の船から出てきたんだからそれも敵だよね? そう思うソラ姫ではあったが、そこは元日本人。やっぱどうしても確認してしまうのであった。
<当たり前です。何、当然のことをわざわざ聞きますか?
しかしまぁ、せっかくなので情報を――。あれはライア艦がよく使う、デコイと呼ばれる小型艦です。そうですね、ライエル側とあえて比べるとすれば……、インスタンス船と似たような扱いです。もっとも向こうは無人。性能もこちらの……蒼空の言うサッカーボールもどき……、スレーブたちの方がよっぽど上です。
ですのでせいぜい派手に、思い切って叩き潰してあげてください。(それにその方があの方々への受けもいいでしょうから……)>
<あうぅ、わ、わかった。人が乗ってないなら思い切りやれるし、がんばる。(いくら敵の異星人って言ったって、やっぱ死んじゃったりしたらいやだもん……)>
などと、のん気ともとれるそんなやり取りをディアとしている間、敵はもちろん大人しく待ってくれるはずなど当然無く……。デコイ艦から一斉に、青白くまばゆい光が放たれ、唐突に戦闘は始まったのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「視聴者のみなさま。ご覧いただけるでしょうか? ここは地球からは見ることの出来ない、月の裏側です。
目の前の宇宙空間にはグラン公のクラウディアとソラ姫のソラリス。そして夢か幻か? ソラ姫本人が生身で私の目の前にその姿を見せてくれております! 可憐です! 美しいです!
そ、そして、私自体も、な、なんと、クラウディアのインスタンス船と呼ばれている星船の中に乗り込んでおります!
わ、私は今、大変興奮しております! 宇宙ですよ、みなさん。一般的サラリーマンである私は当然宇宙は初、体験! 初体験であります! しかもそれが異星人の星船でっと言うことで、もう私の興奮度合いは留まることを知りませんっ!」
一方、柚月家のリビングでTVを前に座り、そんな様子を画面を食い入るように見ているのは春奈。そしてもちろん、父親である雅行と母親の日向である。
「ったく、なにこのアナウンサー? あんたの感想なんてどうでもいいからちゃんと仕事しろっ!」
中々報道をきっちりとしないアナウンサーに、春奈が激しい突っ込みを入れる。
「いや、ほんとに感動です。私の一生の……、え? あ、はいぃ~!」
春奈の気持ちが届いたのか?
一瞬耳元に手をやり、何かを聞いていたように見えたアナウンサーが少々青い顔をして中継を再開する。(もちろんそんな訳はなく、ディレクターに叱られたのであろうことは容易に想像がつく)
「し、失礼しました。
えー、今、私の目の前の宇宙空間にはご存知麗しの美姫、ソラ姫が、な、なんと! 宇宙空間にも関わらず! 宇宙服もなにも着ず、いつもの姿のまま……、いや、というより更にかわいらしいカッコでですね、翼を大きく広げ静止した状態で静かに佇んでおります!」
ソラ姫の姿がズームアップされ、それをもちろん春奈らも見る。興奮しているアナウンサーとは裏腹にその表情は曇る。雅行と日向も同様である。
宇宙空間に一人さみしく佇んでいる姉の姿を見せられ、とても喜んでなんていられる訳がない。例え非常識の固まりのような姉であっても、心配なものは心配なのである。
そして姉にそんなことをさせるフォリンやディアを、やはりどこか信頼しきれない春奈なのである。
そんな柚月家の思いなど当然知る由もなく、今度はきっちり仕事をするアナウンサー。しかし、興奮状態は相変わらずである。
しかしまぁ、それもさもあらん。人が宇宙空間でその姿のまま存在するなどありえないはずなのだから。それが例え異星人であるソラ姫であったとしても、その見た目は人間そのもの。翼があってもやぱり人間である。いや、見た目から言えば、そこいらの少年少女よりもよっぽどか弱そうに見える。
そんなソラ姫が宇宙空間に、素肌のまま、地上で着るような服装のままで、宇宙空間に居るのである。興奮するなと言うほうが無理なのかも知れない。
更には異星人の星船に乗りこみ自ら宇宙へと飛び出したわけであるから、アナウンサーが舞い上がるのも無理からぬことであろうから、まぁ同情の余地もある。
そもそもなぜこのようなことになっているのか?
これもディアの策略の内の一つなのである。
ライア人の存在を否が応でも地球人に見せつけ知らしめてやり、不可侵条約を先に破ったライエル側の弱みを相対的に少なくする。ついでにディアのインスタンス船に地球人を乗せ、自分達がいかに友好的で協力的あるか強調し、心象を良くする。
それによりライエル、いや、エイム人こそ国交を結ぶにふさわしいと思わせることが出来、攻撃してきたライア人こそ野蛮な敵性星間国家であると認識させる――。
なんともずるがしこいディア(ライエル王入れ知恵)の策略である。
そしてその流れで今、こうやってTVで放送することまでし、春奈たちがTVの前に釘付け状態になる事態になっている訳である。
アナウンサーの中継の間には、軍事評論家や宇宙開発に携わる人間を交えて、今の状況に関する討論などもされ、否が応でも放送は盛り上がってくる。
そんな中、アナウンサーの絶叫にも似た声が発せられた。
「ああっ、ソラ姫正面に葉巻型宇宙船が現れました!
二、三……七、八……九! 九隻、九隻です。過去よりUFOの写真として良く世間を騒がせていた葉巻型UFO。まさにその形をしたUFOが、な、なんと九隻も出現いたしました! こ、これはすごいです」
「あ、更にその中の一隻から小型の葉巻型UFOがわらわらと出てきております! なんともすごい! 今までのUFO騒ぎはなんだったのかというくらい、普通に私たちの前に姿を現しております!」
興奮状態が続くアナウンサー。叫び過ぎて声はもうひどいことになってきている。
春奈は春奈で、「そんなのどうでもいからお姉ちゃんをもっと写せ~!」と、こちらも吼える。
日本中……、いや、世界中で、次々変る展開に興奮状態が続いていた。
そしてそんな中、ついに状況が大きく動いた。
「ああっ! 光っ、光が!
小型の葉巻型UFOから一斉にまばゆいばかりの光が、そ、ソラ姫に向って放たれました~!!」
この瞬間、世界中の視聴者が画面を食い入るように見つめ、その先どうなるか? 固唾を飲んで見守っているのであった。
なんか小難しくなって、しかも話しが中々進みません……。が、
読んでいただきありがとうございます!