第十五話 再び宇宙へ ☆
なんとか投稿……。
月の裏側。
地球からは死角となり観測出来ない場所。そこはいつもディアたちと集うときによく使う場所でもある。
ディアとアリスは今もまさにそこに集結していた。
そしてそんなディアとアリスの……、宇宙のスケールからいえばほんの目と鼻の先と言える場所に、一隻、また一隻と、見るからにライエルのものとは違う、星船たちが集まりつつあった。
そうプレアデスから来た異星人。
ライア人たちの星船船団である――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「ふーん、じゃあライア人って大昔、地球に植民してたんだけど、重力の違いのせいでどんどん体がおっきくなっちゃって……、結局地球に住むのあきらめたってこと?」
ソラ姫が自分のデータベースを確認しながらも、ディアに念を押すように話しを聞いている。結局フォリンは自分で説明することをあきらめ、ディアに押し付けた恰好である。
<そうです。ライア人は元々地球人に比べれば大きな体格はしていましたが、それでも1.5倍程度の差でしかなかったのです。ところが2世代3世代と、地球で世代交代をしていくうちにとんでもない事態となっていったようです>
ディアが話しの間をとったところにソラ姫が口を挟む。
「それって、もしかして巨人化していったってこと?」
<はい、その通り! 理解が早くて助かります。
地球の重力は彼らにとって小さすぎたのです。数十年程度の期間ならまだ良かったのですが……、それが数百年から、ついには千年単位となり、長い月日をかけて地球に住み続けた結果――。
彼らのその体格は、入植した当初から5倍以上に肥大化してしまっていました。
最初、彼らはサイズは多少大きいものの、地球人と変らぬ体型に顔形をしていましたが、最終的にはやたらと面長で、手足も長く伸び、彼らの母星の美醜感覚でいうところだと、ひどい"奇形"とまでいえる姿へと変わり果ててしまっていたのです>
「だから、地球からライア人は引き上げちゃったんだ?」
ソラ姫は同情してしまったのか、ちょっと悲しげな表情を浮べながら問う。
<その通りです。ライア人は地球上から撤退しました。
とはいうものの、すでに現地に最適化してしまった……現地で生まれ育ったものたちの一部はそのまま地球に残ったようですが、やはり長い年月は残酷です。次第に衰退してしまったようです。しかしまぁ、その名残は今の地球でもそこかしこに残ってはいますが……>
ソラ姫はその言葉に、地球に残る有名な巨大遺跡や不思議な人の顔形をした巨石、Oパーツと言われる品々を思い浮かべる。小さいころはよくそれらが載っている本や、TVの特番を楽しみに見ていたなぁ……などと思いを馳せる。
<蒼空が今思い浮べたもので間違いはないでしょう。地球人の考古学とやらがひっくり返りそうな事実ですね……。もちろん教えるつもりもないですが。
と、まぁここまでが前段です。話しにはまだ続きがありまして……ここからはあなたのデータベースにも入っていません。フォリン、いいですね?>
今や大人しく聞き役に徹しているフォリンが、あきらめ顔しているだろうはずの表情で頷く。その横でソラ姫は「はえっ、ほ、ほんとにぃ?」などと軽く驚きの声を上げている。
<ライエルが地球に本格的に進出してきたのはそれより数千年は後のことになります。当時のライエルには現在のような亜空間を自在にコントロールするほどの技術が確立されておらず、当然私たちもまだ創造されていませんでしたので、相当苦労したことでしょう。
しかもそこにはライア人がすでにいたわけです。殖民することはあきらめたとはいえ太陽系には資源も多くありますし、星域の支配は続けていたのです。
彼らの科学技術は当時のライエルよりも劣りはしていましたが、そこはそれ、地球から400光年しか離れていませんでしたからね、どうしても彼らに先んじられてしまっていたわけです。そしてそこからライア人とエイム人の確執が始まったわけです。
元々武力行使に躊躇などしないエイム人です。太陽系内でそれは激しい戦闘が繰り返されたと記録されています。数の上ではライア人が圧倒していたようですが科学力はライエルが上。苛烈なライエルの攻撃は時には惑星すら破壊したとも……。痕跡は今でも確認出来ます。火星木星間の小惑星帯に、土星の輪。それは当然、地球表面にまで及んで大災害を引き起こしたとの記録もあり、枚挙にいとまがありません。
ことそこに及んで、ようやく二つの国家間で停戦の協定を結ぶこととなったのです。それと共に地球への不可侵条約も結びましたしね>
長々と続くディアの説明にシビレが切れてくるソラ姫。とうとう突っ込みを入れる。
「ね、ねぇ、ディア~。このお話どれだけ続くのぉ? ケンカっ早いライエルが戦争仕掛けたのはわかったけど……。結局、なんでボク呼び出されて、こんなかっこして出てかなきゃいけないの~?」
<ええぃ、こらえ性の無い! しかも単刀直入に言う子供ですね。今からが肝心なところです。エカルラートの領主になったのでしょう? これくらいの解説も聞けないでどうするのです!
蒼空、あなただからこそです。
あなたのDNAが大事なんですよ。
元を正せば地球人であるあなたのね>
ディアのその言葉に訳がわからず、思わず首をこてんとかしげるソラ姫。その可愛らしさは相変わらずである。が、しかし、そのかわいらし仕草を褒めたりもてはやしたりしてくれる存在はこの場には残念ながらおらずあっさりスルー。
<そういう訳で蒼空。あなたの星はあなたの手で守ってください。停戦協定の手前、残念ながらライエル近衛軍籍の私やフォリンが手を出すわけにはいかないのです。
がんばってください>
「ちょ、ちょっとディア! そういう訳でって。な、なんなのそれ~! 意味わかんない~、なんでボクが地球守んなきゃいけないのぉ? っていうか、誰から守るっていうの?
はうぅ、も、もしかして、その、ライア人って……わけじゃないよねぇ?」
いきなりの究極の結論突き付けに慌てふためくソラ姫。
<何を言いますか? 話の腰を折ったのは蒼空、あなたです。ですからさっさと結論を述べたまで。文句を言うなら先ほどのあなたに言えばいいでしょう。そもそもライア人の他に何が居るって言うのですか、ほら、さっさと準備しましょう>
なんとも冷たい発言するディア。どうやら怒らせてしまったようだ。
「お姉さま! 大丈夫、私が付いてます。こんなディアなんか居なくても私が一緒なんですから何の心配もいらないです。危なくなったら私がすぐ転移させちゃいますから。だから心置きなくライア人なんかぱーっと蹴散らしちゃってください~!」
「あううぅ、アリスまでぇ?」
アリスも今回ばかりはあまり味方になりそうにもない……。
「蒼空……、すまん。元はと言えばオレの責任だ……」
黙りこんでいたフォリンが重い口を開く。
そしてやっとその口から……、なんともばかばかしい真実が語られたのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「はい、そうです。ソラ姫の姿を見失いました。赤外線による走査でも屋内にその存在を確認出来ませんので転移したのは間違いありません」
ソラ姫の周囲に配置されているSPが、警護用車両の中で報告をあげている。
「……はい、深夜2時30分から3時までの間です。想定通りの動きです。そちらも予定通りですか。ソラ姫のソラリス、ライエルのグラン公のクラウディアも定刻通り消えたわけですね。
それにしても本人にだけ知らせずこのような作戦を実行するとは……、グラン公の星船……クラウディアってのは、相当くせものっていうか、ひねくれてますね。あんなかわいいソラ姫をダシにこんな作戦を考えるなんて……。しかしほんと、大丈夫なんですかねぇ?」
何やら怪しげなことを口にするSPの男。
「はっ、いえ、すみません。軽率でした。以後軽はずみな発言はしないよう、気をつけます。
ではこちらは引き続き、柚月家の監視は続けます。ええ、ソラ姫が無事戻ってきた際は、すぐ報告を上げます」
通話を終え、一息つく男。何やら小言でも言われたようで、苦虫を噛み潰したような表情を見せている。
「ふぅ。とりあえず監視は続行か。
予定通りとはいえ、まったくやりにくいったらないよな、この警護対象は。何しろポンポン姿が消えちまうわ、空を飛んじまうわ……。しかも今度は宇宙かよ。やれやれ……ほんと、反則だぜ」
気を取り直した途端、懲りずにグチをたれる男。どうやら普段からソラ姫に動きに翻弄されているのか、苦労が絶えないようで少々気の毒と言えないこともない。
「やつらが星船って言ってる宇宙船も、一応国が用意してる係留場所から飛び立っちまってることだし……、結局のところ何が起こってるのやら? ま、現場のオレが考えても仕方のないことか……」
そう言うと男は大きく伸びをして、再び車内にいくつかある赤外線による監視装置のモニターを覗き、周囲の監視を続けるのだった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「あ、あほすぎる。なんかほんと疲れちゃう……。
ボクそんな理由でライア人と戦わされるわけ? もうほんと、信じらんないよ~!」
ソラ姫が呆れたとばかりにかわいい声でなげいて見せる。
フォリンが普段の彼からは想像もつかないくらい落ち込んだ姿を見せながらソラ姫に話した内容は、確かに情けなかった。
長きに渡って守られていた停戦協定。
ごくまれに事故で地球人の目に触れてしまったことはお互いあったものの、ほんとに長い時間、何ごともなかった両星系間の関係。もちろん時おり抜け駆けしようとする動きもあったりしたが、それぞれの国家でうまくバランスをとりながら、牽制しあいながら乗りきって来ていたはずであったのに……。
<実に嘆かわしい……。フォリン、やはりあなたの趣味はそろそろ控えるべきかと私は進言します>
「うっ。すまん……。ほんと、面目ない……」
言われるがままうな垂れるしかないフォリンなのであった。
で、ライア人を怒らせた真相は単純明快である。
フォリンのとある趣味が興じ、軌道上から映像を見るだけではガマン出来なくなってしまったフォリン。ついにお忍びで不可侵条約を結んでいた地球に下りた。下りてしまった。
もちろん、地球を植民地化するなどという大それた考えなど持つはずもなかったのであるが……。
そこに悪いことは重なるもので、反ライエル王を標榜していたノルン公の工作が見事にはまり、フェアリンの星船まで落ちる事態となり、地球と更に深く関わることとなってしまった。
そんな中、蒼空との事故が起こり、そこからは蒼空も知っている顛末へと繋がって行った。
最後には地球人との国交樹立にまで至ったわけで、そこまで条約を無視し、コケにされればそれはもう、ライア人でなくても怒るというものである。
それにしても不可解なのはライエル王。こうなるとわかったいたにも関わらす地球にフォリンたちを正式に差し向けるなど、一体何を考えているのか? ソラ姫も疑問に思い聞いてみると、
<ライエル王は機会を伺っていたのでしょう。好戦的な王ならばやりかねません。フォリンもノルン公も王の手の内で踊らされていたにすぎません。とことん王はお人が悪い。(まぁ、まだもう一つネタが仕込まれていますが……)
はぁ……。しかし例えそうだとしても……フォリン、ほんとに嘆かわしい>
ディアのグチ交じりの説明に呆けた顔を見せるしかないソラ姫。
「け、結局、全てはおたく趣味から始まったってわけ?」
ソラ姫はもう何と言ったらいいのかわからない気分である。
そんなばからしい争いに巻き込まれた自分がほんと、かわいそうでならなかった。
ライエル王もたいがいだけど……、やっぱフォリンのバカさ加減には呆れちゃう。それにディアだって同罪だ。暴走するフォリンを止められなかったんだもん――。
そう思い、ほっぺを思いっきり膨らませてふてるソラ姫なのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
そして今。
ソラ姫は再び月の裏側で一人宇宙に漂っていた。
新しいゴスロリ衣装に身を包み、右手には久しぶりに持つ音叉の槍。背中から伸びる純白の翼は大きく開かれ、微妙に透けるその翼面からまばゆく輝く光の粒子を放射して、美しい様を見せていた。
その後にはアリスがまず控え、更にその後方にディアと、どういう意図かインスタンス船が一隻、その姿を見せていた。
結局ソラ姫はなし崩し的に宇宙へと放り出されてしまっていた。つくづく押しに弱い、お人好しなソラ姫なのである。
そのソラ姫に対面するように整然とならんでいるのはライア人の星船たち。
まずは様子見で来たのだろうその数は三隻ずつの集団が三つ、合計九隻の船団である。その星船の形はまごうことなき葉巻型。昔からUFO写真を賑わわせている代表的な形である。サイズはディアより少し大きいくらいだろう。
ソラ姫はそれを見て、いやぁな考えを思いつくに至る。
「こ、こいつら……ぜーったい、昔から地球に来てるよね?
な、なにさっ! 結局不可侵条約なんて、どっちの国も守ってないんじゃない! あっほらしい。
地球は今やボクたち人間の星なんだからね、おまえたちや、ライエルなんかが好きにしていい星じゃないんだからね~!」
ソラ姫はめずらしくその言葉に怒りの雰囲気を乗せながら叫び、音叉の槍を星船たちに差し向ける。
が、もちろん。
宇宙空間でその声がどこかに届くことなどないのであった。
読んでいただきありがとうございます。