第十四話 新たな異星人? ☆
お話が動き出します?
※9/4 挿絵をモノクロからカラーに差し替えました。ついでに誤字や表現を少し修正。
<お姉さま! 緊急事態です。今すぐ私の方に戻ってきてください~!>
深夜2時をまわろうとしたころ……。
柚月家の自分の部屋のベッドで気持ちよい眠りに落ちていたソラ姫に、いきなり星船アリスから交感が入る。
「むにぅ……」
<お姉さまっ! 起きて~!>
「ほにゃ……、ほぇ? な、なぁに? なんなのぉ?」
寝ぼけ眼をしばたかせながら体を起こし、思わず口に出して聞き返すソラ姫。
<お休みのところごめんなさいです。でもほんとに緊急なんです。すぐ転移してきてもらえますか? ディアも一緒ですので>
「ふわぁ……。
でぃ、ディアも? じゃ、フォリンも居るんだよね?」
<はい、もちろんです。さぁ、お姉さま。ともかくすぐ来てください! お早くっ!>
のん気にあくびをしながら答えるソラ姫を急かすようにそう告げるアリス。ソラ姫はもう何が何だかわからないが、とりあえず従おうと動き出す。
「わ、わかった。じゃあ、お洋服着替えたらすぐ……」
<お姉さまっ! そんなのはこっちでアリエージュたちにやらせればいです! だからほんとにっ、お早くです!>
緊迫感が全くないソラ姫にいら立ちをみせるアリス。ソラ姫第一のアリスにしては珍しいこともあるものである。
そんなアリスの剣幕にさすがのソラ姫もたじろぎ……、
「ふぇ、わかった。す、すぐ行くぅ!」
そう告げるやいなや、その姿はベッドの上から一瞬で消え去り、後にはソラ姫の潜り込んでいた形がそのまま残った布団のみが、寂しく残されているのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
地球の軌道上、ソラ姫の星船アリスと、ディアことクラウディアが並んでその巨大な姿を浮べていた。
400m級のディアより小さいとはいえ、それでも100mをゆうに越える大きさがあり、地球側からは髪留め型と呼ばれるようになって久しいアリスである。
対するクラウディアは、うみへび座銀河団M83銀河内の星系でライエル王が治める星間国家で運用されているジェネリック船である。流麗な姿をしたアリスに対し、単純明快でスクウェアなその形はスマフォ型と呼ばれていて、所属は王直属の近衛軍であるが、今現在はソラ姫の母星、グラン星の統治者フォリンと共に地球に来訪していた。
「蒼空、遅いぞ。エカルラートの代表たる君がそんなことでどうする?」
アリスに転移するなりフェリに捕まり、早々に着替えさせられたソラ姫がラウンジに現れると、目ざとく見つけたフォリンが開口一番、偉そうにそう言う。
――ちなみにラウンジとはアリス内に蒼空の要望で造ってあるスペースで、間接照明の元、ふかふかで限りなくやわらかいソファとローテーブルのセットが中央にでんと居座り、その周りには観葉植物が適度に配置され、そこはかとなくいい香りを漂わせていて、更には軽音楽まで流してある……懲りまくったくつろぎ空間なのである。
「ううっ、久しぶりに会って最初の一言がそれ? フォリンひどいよぉ。それにさ、なんでこのお洋服に着替えさせられるわけ? 寝てたらいきなり呼び出されるし……。もうボク、わけわかんないよ~!」
これも久しぶりに着る、ゴスロリ衣装の短めのスカートの裾を両手で軽くつまみあげて苦笑いするソラ姫。
「しかもなんかこれ、今までのとちょっとデザイン違うみたいだし~」
以前のフリルたっぷりでかわいいとはいえ少しかさばった感のあったワンピースのドレスに対し、今着せられてたものは多少シンプルだった。
まっ白で清楚な、少しクラシカルな雰囲気のただようパフスリーブブラウスには、総レースの黒いネクタイが締められ、ワンポイントにバラ風のコサージュが付けられている。スカートは黒い色をした、ひざ上10cm以上はありそうな短めの総フリルのティアードスカートで、ソラ姫は空飛んだり、激しく動いたらパンツ丸見えになっちゃうと気が気ではない。
それをソラ姫が心配げに言えば、フェリいわく「穿いていただいてるショーツは、見せパンだから大丈夫です。地球の殿方に、姫さまのかわいさをせいぜいアピールしてあげてください」などと茶目っ気たっぷりに返される始末だった。
スカートの下、背は低いながらもすらりとしたキレイな足にはニーハイの黒いソックスを履かされている。太ももに沿うようにレースのフリルが巻きついているように見え、そこにもワンポイントでかわいいリボンが付き、その端は長めに垂らされ、なんともかわいらしくもほのかに色気がただよってくるデザインとなっている。足元はヒールが高めの黒いパンプス。両手にも黒いスカラップ手袋をはめ、かわらしい頭には、仕上げとばかりに黒いベレー帽をちょこんとかぶっている。
軽めの仕上がりながらも、もう隙のないかわいさにフェリたち侍女は大満足の表情を見せていたのだった。
「お姉さま、すっごく、すっごくかわいらしいです~! やっぱり私のお姉さまは宇宙一のかわいさです~! あ、ちなみにそのお洋服もしっかり強化されてますからどんなに激しい戦闘になっても大丈夫です~♪
そ、それと、さっきはせっかくぐっすり眠ってたのにほんとごめんなさいです。そのぉ、怒ってますか?」
ソラ姫の姿を誉めそやしながらも先ほどの強引さを気にしたアリスが何気に問題発言をかましつつ、そう恐る恐る問いかける。
「そ、そうかなぁ? か、かわいい? 似合ってる? ふふっ、そっかぁ、かわいいんだぁ」
まずはアリスの最初の言葉に反応し頬を染めて微妙に喜んだ風のソラ姫。そして更に、
「でも、きょ、強化してあるんだ? これも? はぁ、ま、もうどうでもいいけど……。
でね、アリス。ボクもう別に怒ってないから、気にしなくっていいよ? そもそもボクがアリスを怒るわけなんてないんだから~」
朱に染めていた頬をしかめっ面にし、そしてまたかわいらしい笑顔に変えるという百面相をしながら答えるソラ姫。
「お姉さま~! やっぱアリスはお姉さまがいちば~ん、大好きですぅ~」
「ええへっ、ボクもアリスのこと大好きだよ~!」
なんともはた迷惑な、ちょっと変った主従である。
「ごほん! あのなぁ、いい加減話しを進めたいんだが? これではせっかく急いで来てもらった意味もなくなるかと思うぞ?」
フォリンがいい加減シビレを切らし突っ込みを入れる。
<そうです! アリス。いえ、ソラリス。いい加減にするがいい。これだから今時の星船はだめなんです>
フォリン続き、ディアまで突っ込みを入れてくる始末である。
「ご、ゴメン~! で、結局なんなの? こんな夜更けにボクを呼び出したりした訳ってさ?」
「ディアったら偉そう! 今はあんたは他所モノなんだから、大人しくしといてくれる?」
ソラ姫とアリス、それぞれが反応して、それぞれに返事をする。
<な、なにを! 言わせておけば、他所モノとは失礼な! たかだか生まれて半年足らずのひよっ子のくせにっ、な、生意気です!>
「ふん、あんただってまだ、生まれて三年やそこらしか経ってないじゃない? 大して変らないわ!」
<なっ! そ、そ、ソラリ……>
「ええいもうやめろ、二人とも! いいかげん話しを進めさせてくれっ!」
ついに切れたフォリンなのであった。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆
「プレアデス星団? それって昴のこと……だよね? それがどうしたっていうの?」
「ああそうだ。蒼空の国ではそうとも呼ばれているらしいな? その……地球でいう、おうし座にあるスバル……プレアデス星団方面にだな……その、やっかいなやつらがいるわけなんだが……」
ソラ姫に対し説明を始めたものの、なんとも言いにくそうに話しを進めるフォリン。
「やっかいなやつら?」
それに対し、なんとも無垢で、素直な表情を見せながら話しを聞いているソラ姫。そんな彼女の顔を見れば見るほど話しづらくなってくるフォリン。
<ええいもう、じれったい方ですね! フォリン、もういいでしょう? あなたが直接伝えたいという気持ちはわかりますがこれではいつまでたっても進みません。
蒼空、あなたの脳内データベースの"Z-z-99891"のデータを参照してください。そこに今回の問題の情報が記載されていますので>
フォリンの端切れの悪さに横から入ってきたディア。
どうやらようやく冷静になったようである。星船のAIであり、冷静沈着なはずのディアもなぜかアリス相手にはああなってしまうようで、なんともおかしいなと、一人心の中でほくそ笑むソラ姫だったが、そんなディアの交感に慌てて脳内のデータを検索する。
「Z-zの90000番台だなんてずいぶん深い階層に記録してあるんだね? うーんとこれかな?」
右目に浮かんでくるデータリストの波を流し見ながら、そう問い返すソラ姫。
「ううっ、ディア……余計なことを」
わかりにくいエイム人の表情ながらも、しかめっ面をさらしているのであろうと思われるフォリンが苦々しげに言う。そんなフォリンを検索しながら横目に見て、ほんとグレイタイプの宇宙人って表情がつかめないよね? などと思うソラ姫である。
<何をおっしゃいますやら。効率を考えればこれが一番です>
それに淡々と言葉を返すディア。
そしてついにそのデータにアクセスしたソラ姫。
まるで隠すようにしまわれていた情報を、開こうとするが……、
「あ、あれ? ディア。これアクセス制限かかってるよ? ボクじゃ見れないみたい。変なの、自分のアタマの中のデータなのに覗けないだなんて……」
<ああそうでした。蒼空、そのデータをあなたの頭の中に放り込んだのは、例のあの不幸な事故があった際のことでしたから。当時はあなたが今のような立場になるとは考えてもいませんでしたので、閲覧は一般レベルのデータに限っていたのです。
今なら問題なく閲覧できます。アクセスコードにあなたの名前を入力してみてください。それで問題なく制限が解除されるはずです>
ディアの説明にちょっと釈然としない思いを抱きながらもソラ姫は言われた通り、脳内データベースに名前を入力するイメージを浮べる。
「あっ、入れた……。
えーっとぉ、プレアデス……プレアデスっと」
しばし情報の海に埋没していくソラ姫。彼女のその限界近くまで高められた脳神経の反応速度、更にはナノマシンとピコマシンの助けで上乗せされた処理速度でもっても相当の情報量のようである。
そんなソラ姫の様子を少し落ち着きのない様子で見つめているフォリン。
アリスとディアは無言で様子を窺っている。
「ちょ、ちょっと、何これ? 地球の神話時代よりもっと前? 地球の人類よりずっとか前に居た……、地球にも殖民してた異星人ってこと? はえぇ~?」
ソラ姫がついにその情報の一端にふれたのか、奇声を上げ……更にその情報にのめり込んでいく。
「ライ……ア人。巨人……族? プレアデス星団の方にも要はフォリンたちみたく文明持った人たちがいるってことだよね。んでもって大昔には地球にもその人たちがいっぱい来てたってことみたいだけど……。
ううぅ~ん、もうわけわかんない。どうしてこれがナイショになってるの?」
ソラ姫は資料を見たものの結局それでは、どうして今のフォリンのような態度になってくるのか? はっきり言って皆目見当がつかない。
「そ、それはだな。まずはやつらの星系と我々の星系の距離がまずは効いてきてだなぁ……。
やつらは優先権を主張してだなぁ……。
だが我々としても犠牲も出した上に技術供与もこっそり行なってきて……だな。
それから……」
ぶつくさと独り言のように言葉を連ねるフォリン。
普段の彼の様子からは想像も出来ないみっともなさである。
「ああん、もう! そんな途切れ途切れにぶつくさ言われても全然わかんないっ!
そのライア人っていう人たちとボクの今のカッコ、どう繋がってくるのさぁ?」
結局煮え切らないフォリンに最後は切れるソラ姫なのだった。
読んでいただきありがとうございます。