第6話 プラン設計は大変なんだが……
今回はギャグ少なめ、内容少なめ、展開進まず。
どうしよう、ヒロイン全員出せるのか……?
もう、まぶたすら動かないのですね。
やはり、周りには誰もいません。ずっと昔からわかっていた筈ですけど実際にこうなると淋しいものですね。
……あの人もこんな気持ちだったのでしょうか?
あの人に会いたい。
会って沢山の事を話したい。あの人の話、私の話、どんな食べ物が好きなのか、好きな色は何色なのか、海と山どっちが好きなのか、……どんな女の子が好きなのか。
あの悲しそうに笑う彼の心を救いたい。
もしも、神様が本当に居るのなら何一つ叶えられなかった私の最期の願いを叶えてほしいのです。
たとえ人でなくても良いのです。犬や猫、小さな羽虫でも私をあの人に逢わせてほしいのです。
どうか、どうか。
あぁ、段々力が入らなくなってきました。
目が暗闇しか写さなくなる前に。
耳が鼓動を聞こえなくなる前に。
口が息吹きを出せなくなる前に。
肌が暖かさを感じなくなる前に。
あなたに会いたい……
「へんにゅう、だいじょうぶ、だって」
空が俺の目の前に現れて数日が経った金曜日に漸くもたらされた朗報を聞くことができた。
「そうか、よかったな」
「これで空ちゃんも学校に行けるね」
「ん、うれしい。でも、くう、じゃなくて、そら」
西表空、学校に行くことになり、猫であった時の名前のではなく、新しく名乗ることになった名前であった。
名前をいちいち変える必要は無いような気がするが、本人にその事を聞くと、『もう、ねこじゃないから、かえたい』と何か決意を固めたような顔付きで答えた。
その決意に何か背筋に寒いものがはしったが、それは気のせいだと信じたい。
空の目が一瞬、草食動物を狙うライオンの目に見えたのは絶対気のせいだ。たぶん……およそ。
「ところで、楔にぃは、からいの、あまいの、どっちがいい?」
「今日はカレーか、なら辛い方がいいな」
「ん、わかった。ちょっと、まってて」
「慌てて支度して指切るなよ」
「だいじょうぶ、ねこのてで、きってる。にゃ〜」
空が包丁を持ってない方の手を軽く握りながら顔の横に掲げる。
流石は本職(?) メイド喫茶でメイド役の娘がやるぎこちない動きではなく、自然で滑らかな動きだった。メイドには行ったこと無いが。
「……世界を狙えるな」
「いきなり何の話?」
「いや、何でもないから。忘れてくれ」
「変な楔」
くすくす、と何が可笑しいのか、楽しそうに禊が笑う。
「禊、てつだって」
「何すればいい?」
「サラダ、はこんで」
「うん、わかった。一緒に取り皿も並べておくから」
「ありがと」
こうして二人を後ろから見ると、仲の良い姉妹のように思えてくる。
一時はどうなる事かと思っていたが、いつの間にか今のようになっていた。
「俺も手伝おうか?」
「へいき、もう、できた」
「あとは運ぶだけだから楔は座ってて」
「わかった。でも、何もしないも暇だし、テーブルぐらい拭いとくから台布巾貸してくれ」
禊から手渡された台布巾でテーブルを手早く四角く拭く。
簡単な手伝いならば一年間の一人暮しで一通りの家事を身に付けた俺には苦でもない。
ちなみに、四角く拭く理由は四角いテーブルだと角までしっかりと拭き取る事ができるからだ。良い子の諸君、お母さんの手伝いの時にでも実践してくれ。
「亭主関白みたいにドカッて座ってればいいのに」
「今の世の中、男も家事を手伝わないとモテないらしいぞ」
「家事ができる楔はモテた事あるの?」
「あれ、何だろう……。目からしょっぱい雫が落ちてくる……」
な、泣いてなんてないんだからね!!
とりあえず、ツンデレってみたけどサムイな。これは封印しよう。
「大丈夫、楔にぃ、私たちいる」
「……ヤバい、空に惚れそう」
「ちょっと、私も居るんですけど!?」
「禊は、たまに、楔にぃに、きつい」
「うぐ、それは……何て言うか、愛情の裏返し?」
「何故に疑問形なんだよ……」
そこは言い切って欲しかった。
答えを出してない俺がそんな事言える立場ではないが……。
「楔にぃも、禊も、へたれ」
「「うっ!!」」
「おもいは、ことば、じゃないと、つたわらない」
「な、なら空ちゃんは言えるの?」
「もちろん。楔にぃ、すき」
「なっ!?」
「楔にぃは?」
空のストレートな物言いに戸惑う。
これじゃあヘタレと呼ばれても仕方ない。
「……やっぱり、楔にぃは、へたれ」
「できれば、慎重だと言って欲しい」
「いや、普通に慎重な人は女の子からの告白を保留にしないから。慎重に決断するだけだから」
「楔にぃは、ただの、へたれ」
「俺の味方は何処に居るんだろう?」
「告白を保留してる時点で全世界の女性の敵たがらね」
「おんなの、てき」
何も反論できない。
ここは秘技、話題変更。
「ところで、禊。明日はどうするんだ?」
「「あ、ごまかした」」
ヘタレだろうが卑怯者だろうが勝手に呼べばいい。逃げるが勝ちだ。
これは戦略的撤退であって敗走ではない。
「出掛けるっていっても色々あるし。何するか決まってた方が楽じゃないか?」
小言を言われようが、聞こえてないフリをする。これ世の中をうまく渡る処世術な。
「釈然としないけど、言っても無駄な気もするし」
「こんかいは、みのがす」
どうやら、首の皮一枚で助かったらしい。
「あ、俺カレー大盛りで」
「私は普通でお願い」
「ん、わかった」
器にご飯をよそろうとする空に声をかける。
小さい身体でカレーをよそる姿が母親の家事を手伝う子供にしか見えないというのは口に出さない方がいいだろうな。
「話を戻すけど、明日のプランはどうする?」
「そういうのは男性が考えるのが義務じゃない?」
「楔にぃに、もとめるのが、まちがい」
「そうね、楔にそういうこと求めるのは無駄かもね」
「……もうそれでいいんで、話を進めないでしょうか?」
まだ、カレーを食べてないのに胃が重くなってきた。
カレー食ったら胃潰瘍とかならないよな……?
「カレー、たべない?」
「いや、今食べようと思って所だから」
「ん、たべてみて」
じっ、と顔を見詰めてくる空に若干の食べ辛さを感じながらもスプーンでカレーを掬う。
余談だが、俺はカレーをご飯と一対一でスプーンに乗っけて食べる派だ。ぐちゃぐちゃに混ぜるヤツは敵だ。
「……うまい」
自然とその言葉が口から出てきた。
いつも食べていたレトルトのカレーとは違い、ほのかな甘さとまろやかなコク、後味はスッキリとしたトマトの風味が見事にマッチしていた。
「ほんと?」
「嘘ついても意味無いだろ。本当にうまいよ」
「確かに美味しく出来てるから安心して」
「禊の言う通りだ。これだけのモノが作れるんだから自信もっていいと思うぞ」
「ん、ありがと」
褒められて嬉しそうにはにかむ空は感想を聴いて安心したのか自分のカレーを食べ始める。
「そういえば、今気になったんだけど空は玉ねぎ食べれるのか?」
「あ、そうだね。元々猫だからもしかしてダメなんじゃ……」
「だいじょうぶ。からだはもうひとといっしょ」
「どういう原理なんだそれは?」
「さぁ?」
「禊でも分からないのか?」
「神様だって万能じゃないから仕方ないじゃない?」
「あー、確かにな。昔、哲学者か誰かがそんな事言ってたな」
「神が万能なら人間は創らない、っていうの?」
「そうそう。そんな感じのやつ」
その言葉を言った奴はなかなかロックな奴だな。
そこに痺れる、憧れる。
……これ言うと何か、モブキャラっぽくなるのは何故だろう。俺主人公の筈なのに。
「まぁ、神様の話は置いといて、よく編入試験を突破できたな。うちの学園けっこうレベル高いはずなのに」
「ん? そうなの?」
「普通に入試を受けるのも倍率高いし、偏差値もここら辺で一番だったと思ったんだけど」
「編入試験は普通の入試より難しいのが当たり前のはずよね」
「禊の時はどうだったんだ?」
「……サッ」
「おいコラ、なんで目を逸らす?」
「ナンデモナイデスヨ?」
「何故に片言!?」
「神様の力って便利だよねっ!!」
「せんじょうで、さいしょから、ほんきをださないひとは、しぬ」
「それ何か不思議な力で編入しましたよ、って言ってるのと同じたよな!?」
二人が再び目を逸らす。
「……カレー美味しいね」
「ん、ありがと」
「あ、露骨に話を変えやがった」
「細かいことを気にする男はモテないよ」
「かっこわるい」
「……カレーうまいな」
ひよった訳ではない、断じてだ。
空のストレートなセリフが胸を抉ったのは間違えないが。
「はぁ、編入試験の事は置いといて、あんまり変なことはするなよ。お前らが不思議な力使って周りから白い目を向けられるのは堪えられないからな」
「「――っ!!」」
からん
「ん? どうしたんだ二人とも。スプーン落として?」
「な、何でもないから。気にしなくていいから」
「……だいじょうぶ、もんだいにゃい」
「本当に大丈夫か? なんか二人とも顔赤いし、空なんてにゃいとか言ってるし」
「カレー食べてるからじゃないかな、きっと」
「はっかんさよう、ある」
「とりあえず、スプーン貸せよ。洗ってくるから」
毎日キレイに掃除をしているからといっても流石に口に入れるものをそのまま使うわけにはいけない。
二人のスプーンを受け取り、流しで洗う。
「今のセリフ凄かったね」
「はかいりょくばつぐん」
「うん。とっさにああいう事言われるとね」
「楔にぃ、あなどれない」
「大切にされてるなっていうのがわかっちゃう所がね」
「ん、だいだめーじ」
「何の話をしてるんだ?」
流しでスプーンを洗い終わり帰ってくると、こそこそと耳打ちしていた二人に話しかける。
「カレー美味しいねって話だから気にしないで」
「ん、うまくできて、まんぞく」
「そうか、良かったな」
「にゃ〜」
頭を優しく撫でると空は満足そうに頬を緩め目を細くする。
人の姿になったとはいえ、この姿は猫そのものだな。
「……黄色くないけどあざとい。というか、ずるい」
禊が頭を撫でてほしそうにこちらを見ている。
→撫でる。
舐める。
撫でない。
なんか選択肢が一つおかしくないか?
そんな事を考えていると禊が恥ずかしそうにこちらを見ながら。
「出来れば、二つ目が良いかな」
「何故にその選択肢!? そして、どうして頭ん中の事がわかる!?」
「……愛の力?」
「あいのちから、なら、しかたない」
「そうだよね、愛の力だから仕方ないよね」
「……愛の力すげーな」
愛の力の凄さをカレーと一緒に噛み締めながらこの日の夕食はいつもより少し賑やかに過ごしていった。
ちなみに、明日のプランは俺が考える事になり、下調べの為に夜更かしをしたら寝坊したのは苦い思い出になった。
「くんくん、あの人の匂いがしますね」
人工的な光が夜空のように煌めく中、彼女は嬉しそうにそう呟く。
その姿は幻想的で儚く、この世のモノではないような光景だった。いや、実際に彼女はこの世のモノではなかった。
「ふふふ、待ってて下さいね。私の愛しい人」
拙い文ですが、少しでも気に入っていただければ幸いです。
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