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第5話 二面楚歌なんだが……

こそっと投稿

ヒロインがあと三人いる……、どうしよう……

「で、誰なのこの?」


 あのまま腰から離れないツインテールを仕方なく家まで連れてきて椅子に座らせる。

 何か、みそぎの雰囲気が夫の浮気を問い詰める奥さんみたいに見えるのは気のせいか?


「いや、俺に聞かれても分からないし」

「じゃあ、なんでくさびの名前を知ってたの!?」

「……それは、わかんないけど」


 一切顔に見覚えの無い筈だが、もう一度顔をよく見直す。

 まだあどけなさが残る可愛い感じの顔立ちにふっくらとして柔らかそうな薄紅色の唇。

 その愛らしい顔と蒼みがかったツインテールがより一層可愛さを引き立たせている。

 どっからどう見ても美少女だ。


「記憶にございません」

「不祥事を起こした政治家みたいな事を言ってないでちゃんと考える!!」

「本当に記憶に無いんだって。それにこんな美少女会ってたらそうそう忘れないだろう?」

「う〜、本当に?」

「ああ、もちろん」


 みそぎが恨めしそうにこちらを睨んできてるが、実際無実なのでこれ以上の弁論はできない。

 そんな中、出されたお茶をチビチビと飲んでいたツインテールがこちらを見てくる。

 この娘には可憐って言う言葉が似合うな。


くさびにぃ、私のこと、わからない?」

「悪いけど俺には君とあった覚えはないな」

「……そう」


 可哀想だが、こういう事は遠回しに伝えるより直接的に言った方がいいだろう。

 理由はもちろん得体の知れない人物に下手な優しさを与えても良いことはないし、何よりみそぎの機嫌がよくなる。

 自分でも打算的だと思うが、世の中円滑に生きるにはそういうことも必要だ。

 世知辛い世の中になったな。


「本当に、覚えてない?」

「悪いけど覚えてない」

「本当に?」

「本当に」


 段々と落ち込んだ顔になって、目に涙を溜めていく姿にかなりの罪悪感を感じる。

 しかし、実際覚えていないのだからどうしようもできない。

 いざとなったら警察に電話する事も視野に入れないとな。

 など、考えていると、ツインテールの美少女が何かを決意を固めた表情になり始めた。

 なにか嫌な予感がする。


「一緒にお風呂入った事も覚えてない?」

「は?」

「トイレにもくさびにぃ、連れてってくれた」


 おいおい、何の話をしているんだコイツは。

 俺と一緒にお風呂入った?

 俺がトイレに連れてった?

 完全に犯罪ですねそれ。

 何故この美少女がそんな事を言うんだ?

 そして、横から感じるこの寒い空気はなんだ?

 いや、察しはついてるからわからない訳ではないが、わかりたくない。

 理解するのを脳が拒否する。


「包丁どこだっけ?」

「よし、待て、落ち着いて話し合おうじゃないか!!」

「私は凄く冷静よ」

「じゃあ、なんでいきなり包丁を探す!?」

「切れ味が悪かったら刺せないじゃない」

「何を!? 何を刺す気!?」

「大丈夫、一突きでちゃんと終わらせるから」

「それ致命傷あたえるって事だよな!?」

「ちゃんと後は追うから大丈夫」


 そう言って立ち上がったみそぎを後ろから羽交い締めにする。


「離して、じゃないと包丁取れない!!」

「離したら俺を刺す気だろっ!?」

「だって、その女がくさびとお風呂入っただけじゃなくてトイレを見せるっていうアブノーマルなプレイをしてるっ言ったから!!」

他人ひとのことを特殊な趣味してる奴みたいに言うな!!」


 俺にそんな趣味は断じて無い。

 あり得ない。絶対にあり得ない。大事な事なんで二回言う。

 暴れるみそぎを押さえてると段々と力が弱くなってくる。


「言ってくれれば私だってやるのに……」

「やるな、絶対にやるな」

くさびがして欲しいならもっとアブノーマルなプレイでもするのに……」

「そんな趣味は無い」

「うぅぅ……、くさびが寝とられた……」


 寝とられたってなんだよ。俺はいつからお前の彼氏になったんだ……。

 暴れる力が弱まった所を見計らって視線をこの問題を起こした原因に向ける。


「ん、おかわり。次はミルクがいい」

「随分とフリーダムだな、お前」

「猫は自由気ままな動物」

「そうだな、猫は……、ん?」

「ん?」


 首をかしげる姿が可愛い。じゃなくて、今彼女は何と仰った?

 猫は自由気ままな動物?


「あ、もしかして、くさびにぃ、くうの事、気付いてない?」

「…………まさか、くう?」


 有り得ない、くうがこんな姿をしているはずがないし、なによりくうは死んだはずだった。

 そんな俺の困惑を余所にくうは突然蒼色の瞳から大粒の涙を流し始める。


「お、おいどうした?」

「ぅぅ、ぅぐ……ひぐっ、だっでくさびにぃが、なまえぇ、やっど呼んで……ぅぐ」


 ぽろぽろ、と泣き出すくう

 そんなくうの涙に動揺してなにも出来ないでいるとみそぎが溜め息を吐きながら会話に入ってくる。


「何が何なのか分からないけど、とりあえず女の子を泣かすくさびが悪い」

「分からないのに俺が悪いのか……」

「シャラップ、女の子を泣かせる男は市中たらい回し後、打ち首って昔から決まってるの」

女尊男卑じょそんだんひにもほどがあるな」

「今回は特別に言うことを聞いてくれれば恩赦で無罪放免にしてあげる」

「……で、俺は何すればいいんだ?」


 今まで恋人が居なかったどころか、人付き合いすら殆ど無い俺には女の子を泣き止ませる方法なんて分かるわけない。

 ならば、女の子でもあるみそぎの意見に従った方が合理的だ。


「こっちに来て」

「わかった、隣の椅子でいいか?」

「そうね、あと出来るだけ深く座ってね」


 何故深く座る必要があるのか理由は分からないが、とりあえず言うことに従ってくうの隣にある椅子に深く座る。

 隣で、ぅぐ……えぐ、と泣いて居るくうのを見ると罪悪感が半端ない。


「泣いてるところに悪いけど、少し立ち上がってもらえるかな」

「ぐす、ぇぐ……ん」

「ありがと」


 何をするのかと見守っていると、みそぎはいきなりくうの背中を思いっきり突き飛ばした。


「ちょ、あぶなっ!!」

「わっぷ」


 椅子に深く(・・)座っていた事とくうの身長が低かった為、ちょうど頭を抱くように受け止める。

 もし、浅く座っていたか、くうの身長がもう少し高かったら俺の顔面にぶつかっていた。


「と、大丈夫かくう?」

「……大丈夫」

「ふぅ、よかった。みそぎいきなり何すんだよ」


 突然の暴挙に出たみそぎに抗議の目を向ける。


「深く座っててよかったでしょ?」

「そうだよ、浅く座ってたら思いっきりくうが頭ぶつけて……って、あれ?」


 もし、みそぎに深く座れと言われなかったら確実に頭をぶつけていた。

 その原因はみそぎくうを思いっきり押したからだ。

 その二つから導き出される答えは……。


「わざとか?」

くさびは抱きしめてあげてなんて言っても何だかんだ理由付けてやらないでしょ?」

「……そんな事ない」

「ちゃんと他人ひとの目を見て言える?」

「黙秘権を行使する」

「黙認と受け取っていいのね?」

「……もうそれでいいです」


 男は女に口では勝てない、もはや世の中の不文律だ。

 ここまできたらもう自棄やけだ。とことんくうに甘えさせてやる。


くう、何かして欲しい事あるか?」

「あたま、なでて、ほしい」

「わかった、これでいいか?」

「にゃ〜、きもちい、もっと」

「はいはい」


 蒼みがかった紺色の髪は予想以上に柔らかく、本物の猫を撫でているような感じがする。

 くうの頭を落ち着くまでゆっくり撫で続ける事にする。


「……うぅ、自分でさせた事だけど羨ましいなぁ」


 自分のしたことに後悔をしながらそう小さく呟いたみそぎの言葉は誰にも聞こえないまま霧散した。





 三十分。

 それはくうが泣き止み、機嫌が良くなるまでに要した撫で続けた時間だった。


「♪〜」

「随分、機嫌が良いですね、くうさん」

「にゃ〜♪」

「まぁ、くうは泣き止んでくれてよかったんだけど……」


 恐ろ恐ろテーブルの反対側を見る。


「私だってくさびの事が好きなのに、くさびの為なら何でも出来るのに、くさびに抱き締められながら撫で撫で……羨ましい、私だってやってもらった事ないのに、くさびのばか、ばか、ばか、だけど好き、私なんて私なんて……」


 さっきのくうと比べ物のにならない程落ち込んでいた。

 気のせいかみそぎの周りが薄暗く見えてる。


「あのひと、かわいそう」

「……私はどうせ可哀想な女なのよ」

「こっちの話はしっかり聞いてるんだな」

「うぅ、ひどい、くさびは会話にすら口挟むななんて言ってる」

くさびにぃ、きちく」

「自分の家なのにアウェー感半端ないだけど」


 四面楚歌ならぬ、二面楚歌な状態に溜め息が出る。

 

「俺にどうしろって言うんだ……」

「ゆうじゅうふだんだと、包丁、ぐさっ」

「なんでくうまでそのネタでくるんだよ」

「「ヘタレだから」」

「君達は俺に何か恨みでもあんのかよ!?」

「くうだって、きづかなかった……」

「空気扱いされた……」

「ごめんなさい、すいませんでしたぁ!!」


 もう何か全面的に俺が悪かった気がしてきた。

 これ以上自己嫌悪する前に話を元に戻さないとな。


くうちょっと悪いけどどいてくれるか?」

「ん、わかった」

みそぎも今度一緒に出かけるから機嫌直してくれ」


 みそぎが俺の事を好きなのを利用してるみたいで気は進まないが、話を変えるには致し方ない。

 それでも罪悪感が物凄いな。俺にはプレイボーイは向いてないらしい。


「いつ?」

「今週の土曜日でいいか?」

「二人っきり?」

「それは……」


 ちらりとくうの方向に視線を向ける。


「ん、かりは、かえす」

「いいの?」

「それが、おわったら、本番……」

「勝ちを譲る気はないわよ」

「私も、まける気は、ない」


 なんの話か分かるが、やぶ蛇にならないようにツッコまない。

 しばらくすると話が終わったらしく空気が軽くなってきた。


「話を元に戻すけど、いいか?」

「ん、大丈夫」

「私も大丈夫だけど何の話だっけ?」

くうの話だろ」


 包丁まで取り出そうとした奴がすっかり忘れてんじゃねぇよ……。


「とりあえず、一つだけ確認したいんだけどお前は本当にくうなんだな?」


 さっきの反応を見て別人だとは思えないが、俺はくう()()姿()に不安を覚えてしまう。


くさびにぃ、まだ、しんじてくれないの?」

「そうよ、流石にくうちゃんが可哀想よ」

「いや、待てよみそぎ。俺が言ってるのはそういう事じゃない」

「じゃあ、どういう事なの?」


 要領を得ない話し方にみそぎは少し怒ったように口調を荒げてくる。

 何故俺がここまでくうを疑っているかというと、それは……


「俺が知っているくうは紺色の毛をした雌猫なんだよ」

「……え?」


 予想通り、みそぎが気の抜けたような声を出す。

 もう一度だけ同じ質問をする。


「お前はくうなんだよな?」

「ん、そう」

「でも、くさびの知ってるくうちゃんは猫なのよね?」

「そうだったばずなんだけど……」


 どうなっているのかさっぱり分からない。

 この美少女が猫のくうな筈はない。そう堂々巡りの思考をしていると、くうは突然思い出したように声をもらす。


「そういえば、いってなかった……」


 つぶらな蒼い瞳がこちらを見上げながら。


「私、化け猫に、なった」


 そう告白した。







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