第2話 家に帰ったら神様が居たんだが……
暇つぶしに読んで下さい。
俺はその少女を見て息をする事を忘れた。
彼女を一言で表すならそれは秀麗。
俺が見てきたどんな女性よりも美しく、神々しいとさえ思った。
「………………おねえさん、なに?」
「あたまいたいあたまいたいあたまいたいあたまいたいあたまいたいあたまいたいあたまいたい」
少女を見ている間にそれは頭を狂ったように振り回す。
「消えなさい。ここはあなたが居ていい場所ではないの」
「おねえさんのこえ、あたまいたい」
「この人も、あなたの仲間じゃない」
「うぅ、うるさい。うるさいうるさいうるさいうるさい」
「さぁ、消えなさい」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!! あああああああっ!!」
それは頭を有り得ないほど振り回しながら少女に飛びかかる。
「あぶな──」
「消えなさい」
少女が指をパチンと鳴らすとそれは音もなく青い炎に包まれる。
そして、次の瞬間にそれは消え去り、少女と俺の二人だけが残る。
「お前いった──」
「やっと逢えたっ!!」
ふにゅん。
「なんか柔らかい!?」
落ち着け、俺。
よし、まずは状況把握だ。
いきなり現れた美少女→幽霊を倒す→突然抱き付かれる→柔らかい→癖になる。
「って癖になったらだめだろう!!」
「すうはぁすうはぁ。くんかくんか」
「お前も何故いきなり抱き付くんだ!? しかも、匂いを嗅ぐな!!」
「うぅ、すいません、あ・な・た」
「……はい?」
何だろう、呼ばれ方がおかしい気がする。
「いいえ、合ってるわよ」
「心を読まないで下さい。しかも、合ってません」
「普通、人間の夫婦はこういう風に呼び合うものじゃない?」
「なるほど、夫が妻をお前。妻が夫をあなた。確かに間違いじゃない。だけど、お前と俺の関係はそんなんじゃないっ!!」
「なるほど、もっと深い関係だと──」
「ちゃうわ、ボケェ!!」
思わずツッコミが関西弁になってしまった……。
てか、本当に誰この人?
名前すらわからないだけど。
「名前は禊。よろしくね!!」
禊さんか。
珍しい名前だな。
「確かにね。人間はあまりこんな名前付けないし」
確かに。……あれ? 会話がおかしいような?
というか、『人間は』ってもしかして?
あ、そう言えばさっき土地神って……?
「……土地神?」
「イエス。アイアムトチガミ」
「何故に英語」
「何となく?」
「いやいや、俺に聞かれても」
土地神……、とうとう神様まで出て来ちゃったよ俺の不幸体質。
どうする? 逃げるか?
「逃げなくても大丈夫。怪しい者じゃないから」
「そう言う人は大抵が怪しいって俺は思うんだけど」
「んー、なら。怪しいけど悪い土地神じゃないから」
「…………まぁ、さっきのから助けてくれたし、そこは信じる」
というか、神様に喧嘩売るのは無謀過ぎる。
何より、こんな美少女の言っている事を信じないのは男じゃない。
「……ぽっ」
「ん? おい、顔赤いけど大丈夫か?」
神様って風邪ひくのか?
俺は禊さんの赤くなっている額に手を触れる。
「い、いや、にゃんでもない」
「は?」
「だ、大丈夫たから気にしないで!!」
「いやいや、助けて貰っといて気にしないのは無理だろう」
心なしかさっきより顔が赤いし。
うん。赤くなった顔もなんか護ってあげたくなる感じで可愛いな。
身長差で上目遣いになってるのもかなりいい。
「………………そろそろ私死ぬかも。死因は悶死で」
「ん? なんか言ったか?」
よく聞こえなかったけどなんか大事な事言ってたのか?
あれ? 大事な事忘れてるような……。
…………………………………………………………学校忘れてた。
「やべぇ、それじゃあ俺学校行くから」
今から行ったら二時限目までに間に合うか。
原付五十台から逃げた俺の足をなめるなよ。
汚いから舐めねぇよというツッコミは無しの方向で。
ファイトォ、一発ぅ!!
「…………!!」
なんか後ろから禊さんが言ってるが、これ以上学校に遅れる訳にいかない俺はボルトさんもびっくりの加速を見せる。
この時の俺はまさかああなるとは思ってもいなかった。
まさか、禊と一緒に暮らす事になるとは。
ガチャ。
学校に遅れた俺は担任に小言を言われ、クラスメートからはぶられながらも今日一日の日程を終わらせて家のドアを開けた。
ちなみ俺は一人暮らしをしていて町内で一番安いアパートに住んでいる。
アパートの家賃が安い理由は無論曰く付きだからだ。
「といっても結局何も出て来てないけどな」
前に住んでいた家だと知らない女性が窓の外に立っていたり、水道から髪の毛が流れ出したり、金縛りあったりしたけどな。
それに比べると今住んでいるアパートは何も無いと言って過言ではない。
「部屋に続くドア開けたら居たりしてな」
俺は廊下にあるもう一つの扉を開ける。
「あ、楔おかえりなさい」
「ああ、ただいま。って、ええっ!?」
禊さん!?
「ご飯今出来るからちょっと待っててね」
「あ、どうも。じゃなくて、なんでいるんだよ、禊さん!? いや、禊!!」
「……初めて呼び捨てで呼ばれた」
呼び捨てで呼んだら喜ばれた。何故?
「そういえば、楔って何か食べれないモノある?」
「いや、無いけど……」
「良かったぁ。頑張って作ったから沢山食べてね」
俺はため息を吐いて食事の手伝いをした。
それから数分で禊の作った料理をテーブルの上に並べた。
「「いただきます」」
二人で手を合わせると皿に盛り付けられた野菜炒めに手を伸ばす。
んぐんぐ。程よい醤油の味と後から来るコショウのパンチが絶妙。
お? こっちの味噌汁もダシがきいてて美味い。
「って、食わないのか?」
まだご飯にも手を付けず嬉しそうに微笑んでる禊を不思議に思って声をかける。
禊は慌てるように急いで箸を持つと漬け物に手を付ける。
不可解に思ったが、気にせずに食事を再開する。
「おっ、こっちの煮物も美味いな」
「その煮物は結構自信作なの」
「ん? 家に人参なんてあったっけ?」
人参はこの間カレーを作った時に使い尽くしたと思ったんだけどな。
「それは近くのスーパーで買って来たもので作ったから」
「へぇ、神様って金持ってんだな」
「お賽銭箱からちょちょっとね」
「ダメだろう、それ!! みんなの願い事が詰まった金だし!!」
夕飯の買い物をするために賽銭箱から金を取る神様。マズいだろ、それ……。
禊は何食わぬ顔で首を傾げる。
「なんで? お賽銭って私に対するお給料と一緒でしょ?」
「そう言われれば確かに」
「私、ちゃんとみんなの願い事叶えてるし」
五円で叶う願いってなんかしょぼいけどな。
だけど、神様が願い事を叶えてくれるのは予想外だな。イメージ的にふんぞり返って偉そうにしている奴ばっかりだと思ってた。
「どんな願い事を叶えてるんだ?」
何気なく聞いた質問だったが禊は難しそうな表情をする。
数秒待つと、禊は丁寧に説明してくれた。
「要するに、色々な人達の漠然とした願い事の中で方向性が同じでより多くの人が願った事を叶えるって事か?」
「たまにだけど、あいつを殺してくれとか、居なくなれとか願う人も居るし。そういう願いの叶え方が一番いいと思うの」
「なるほどな。一個人の願い事を全部叶えてたら神様でも無理だよな」
納得納得。
俺はすっきりした気分で食事を続けた。
「ごちそうさま」
「お粗末様」
「いい感じに腹が膨れた所で一つ聞きたい事がある」
「はい?」
不思議そうに首を傾げる禊。
その仕草が物凄く可愛らしくて思わず視線を逸らす。
「こほん。……なんで、俺の家に居るんだ、禊?」
「勿論、住むためだけど?」
「何故?」
「アナタノコトガスキダカラ」
ヨ●様かっ!?
お前は韓国の俳優かっ!?
てか、地味に古い。
「失礼、噛みまし──」
「その発言は危ないから!! 色んなとこから作者が怒られるから!!」
「かみまみ──」
「やめろって言ってんだよぉ!!」
なんで神様がアニメのネタ知ってんだよ……。
「最近のアニメは面白いから」
「神社にテレビあんのかよ」
境内にテレビって。
なかなかシュールな光景だな。
「テレビじゃなくてパソコンだけどね」
「ずいぶん現代的な神様ですね!?」
「今時、パソコン一つ出来ないとアルバイトも探しづらいし」
「神様バイトすんのか?」
「や、一般論で」
っと、また話がズレた。
俺は数回深呼吸をして自分を落ち着かせる。
「で、なんで俺の家にいるんだ?」
出来るだけ真面目な声色で聞く。
禊は何故か恥ずかしそうに頬を赤くさせて俯く。
なんか、いじめてるような気分になるな。
そんな事を考えていると禊が真っ赤な顔で俺を見詰めてくる。
「なんだよ?」
見られて恥ずかしくなった俺はぶっきらぼうに声をかける。
「あ、あなたの……」
禊は一拍、置いてからそう言った。
「あなたの事が好きだから」
息抜きで書いてる小説ですが、感想があれば頂けると幸いです。