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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
96/369

〈地下七階 i k i n i h s〉

 今回やや短めです。

床に転がっている赤い宝石は、よく見ると中でちらちらと炎が踊っている。

シャロンが持ち上げた瞬間、炎は燃え上がり、シャロンたち三人を一気に包み込んだ。

まるで、炎に鼓舞されているような暖かさはやがて収まり、同時に宝石の中の炎も消え失せていた。

力が、体に満ちている。

グレンに励まされたような気がして、シャロンは胸元を押さえた。

「……行こう」

呼びかけると二人は黙って頷き、そのままその場所を後にする。


 中央の部屋に戻り、最後の宝石を嵌めると、台座は鈍い音を立てて横へ動き、下から人がやっと一人通れるぐらいの狭い階段が現れた。

「また階段か……」

 げんなりしながら下を覗いたが、かろうじて足元と目の前が見える程度の明るさで、ひどく狭いため見通しが立たない。

「僕が先頭に」

「頼む。ニーナは真ん中で、私が後ろにいるから」

 振り返るとニーナはきまじめに、こくりと頷いた。


慎重に階段を下りてしばらくいくと、ズズ、ズズン、と音がして、後ろが塞がっていく。

「戻るのは無理、か」

 まあ戻ったところで出口のない事実に変わりはないが。


「どうも、こんな狭いところでは不安になってくるな」

「……そうですか?私は、広い場所よりこちらの方が落ちつきます」

「そうかなあ。ここで罠にかかったら逃げようもないじゃないか」

そんなやりとりをしながら下り続け、やがて小さな踊り場にある、飾り気のない鉄の扉の前に辿りついた。


 辺りはシン、と静まり返っている。

「……開けるぞ」

二人に断って取っ手を掴み、重い扉を開けた。

途端にビュウビュウと冷たい風が流れ込み、その向こうに広がる青空と勢いよく流れる雲がくっきりと視界に映る。


そんな馬鹿な、と思わず口にしたが風の音に簡単に掻き消されてしまい、ニーナやアルの声もまた届かない。


 シャロンはしばらく呆然としていたがやがて風に逆らい苦労して再び扉を閉めた。

「まさか外に繋がってるなんて……」

 ニーナが乱れた髪を直し、寒いのか震え声で呟く。

「ちょっと待て。ここは地下だぞ!空の上に出るなんてありえない」

 見間違えであって欲しい、そう思っているところに、アルが冷静に尋ねてきた。

「……どうする?」

「もう一度、確かめる。本当に空の上なのかどうかを」

「わかった」

今度はアルフレッドが勢いよく扉を開ける。

先ほどとまったく変わらず、あるのは流れる雲と青い空。寒風が鋭く肌を刺してくる。

「ひょっとして、幻覚では」

「……ありえなくはない、な」

シャロンは扉から身を乗り出して、雲の切れ間の、遙か下に続く空間を覗いてみた。


 これが幻覚?


 腰がむず痒くなりそうな感覚に襲われながら眺めていると、ニーナが決意したように、

「きっと幻覚です。それに……私たちは進むしかないんですから」

そう力強く言って何もないところに足を踏み出した。


 不思議なことに、落ちることなくそのまま空中を歩いていく。

「やっぱりそうですよ」

 どことなく得意そうに振り返るニーナに続き、アルフレッドも同じように空の上を歩いていく。

「う、うう……歩けてる、けど」

 おそるおそる、何もなさそうに見える場所に片足を踏み出し探ってみる。足が、つかない、、、。

 そのあいだも二人はじっとこっちを待っている。めちゃくちゃ辛い。というか死ぬ。絶対落ちて死ぬ。


 泣きそうな思いで踏み出したもう一歩は、残念ながら宙を掻いた。

「ッあ」

 落ちる前にガシッとアルに腕を掴まれ、空中にブラブラとぶら下がる。かなり高い位置にニーナとアルの足が……っておかしいだろこれ!


「シャロンさん、頑張ってください。幻覚だと思うんです」

「……」

 こうなったら、ときつく目を閉じ、脳裏に空にかかる道を思い描いてみる。ニーナとアルは、見えないその道を歩いているだけだ。


 そうやってさらに上るための階段をイメージすれば、足に確かな手応えがあった。そのまま目に見えない階段を上がり、同じ位置に辿りつく。

「……行きましょう」

 ニーナの力強い視線に頷き返し、空中散歩、となんとか割り切ることに成功した。

「まったく、二人とも順応度が高すぎるよ」

 ぼやいたがその呟きはあっさり風に吹き散らされてしまった。


 頭上にははるか遠くまで澄み切った青空、足元には吹きすさぶ雲。しかしなぜか太陽はどこにもない。そんな偽りの天上をどこまでも歩き続けていくと、時折止まって辺りを見回していたアルが、ある一方向を指し示した。

「ドアがある」

 そちらを見れば、かなたに黒い点がぽつりと浮かんでいるのがわかる。

「あそこか……」

 遠さにうんざりしながら歩き、やっとそのドアまで辿りつく。古ぼけてはいるが、がっしりしている木彫りのドアを開けると、その向こうにはランプの明かりに照らされた石造りの上り階段が続いていた。


 中へ入ってドアを閉めれば、そこは通常の階段でっ……!?


 シャロンが瞬きをするあいだに壁が消え、青空が現れて……また元の変哲もない階段に戻る。もう一度深呼吸をして、後ろを振り返り、ニーナとアルフレッドがいることに安堵すると、先ほどとは逆の並び順でその階段を上がっていった。





 

 この空間は幻覚ではなく、精神世界に近い、という設定。

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