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異郷より。  作者: TKミハル
『遺跡ミストランテ』
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 水門攻略

 四つの石像のある部屋に戻り、石像を外して入り口を閉じると、もう一度グレンの持っている地図で水門開閉装置の場所を確認する。


 すぐ隣の庭園に一つ、地下五階からしか行けない毒の部屋に全部で二つ。北の階段付近の隠し部屋に一つ、溝の横たわる大部屋に一つ、そこから南の部屋に行って流水の罠を操作するハンドルの近くに一つ、北西にある三人で押さないと動かない壁の向こうに一つ。


 グレンがそれぞれを地図上から拾い上げ、眉根を寄せて呟いた。

「これで七つか……」

「問題は毒の部屋にある装置だ。どれだけで戻るのかわからないが……遠すぎる」

「ちょっと待て。この地図だと、庭園のすぐ隣じゃないか?隠し扉があったら、話は早いんだがな」

「え、と。この辺は調べたんじゃないか?」

 シャロンがアルフレッドに尋ねると、一応頷いたが、

「蔦や草が邪魔で、しっかりとは調べてない。でも、確か扉はなかった」

そう言葉を続ける。

「一応行ってみようぜ。これで抜け道が見つかったら儲けものだ」

「まあ、すぐ隣だし行ってみるか」


 蔓薔薇の扉を通って隣の庭園へ入り、見当をつけた壁周辺を探ってみたが、やはり隠し扉らしき仕掛けはないようだった。グレンががっくり肩を落としながら寄ってきた虫を払う。

「くそ、ないのか……。じゃあやっぱり二手に分かれるしかないな」

「二手……どう分かれる?」

 尋ね返すとそこで、なぜかにやにやしながら、

「そりゃやっぱり、おまえとアル坊は離せないだろ。俺、それからおまえたち二人な。久しぶりに二人っきりの時間を堪能しとけよ」

「くだらない冗談はよせ。一人で、大丈夫なのか?」

「おまえなあ……もうちょっと人を信用しろよ。心配してるのかなんなのか、逆に侮ってるように聞こえるぜ」

 グレンの呆れた台詞に、ドキッと胸が鳴る。

「え、そうか、な。すまない……」

「いいって。相手見てぶつかっておくのも必要だしな。そうしないとわかんねえからよ。っと、これは俺の体験からな」

 どことなく照れたようなぶっきらぼうな声で言って、ああそうだと付け加える。

「シャロンおまえな、大技使った後ごくたまに隙が出るぞ。直しとけよ」

「え?……そうか。わかった、ありがとう」

 そのやりとりを聞いていたアルフレッドが、ふいっと顔をそむけて呟いた。

「それぞれの担当を決めよう。早いうちに」

「ああ。って、どうかしたのか?」

「……なんでもない」

「?」

 首を傾げたシャロンをグレンが面白そうな顔で見ていたが、そのことには触れずに、じゃ、決めようぜ

とさっそく地図を広げた。


 相談の結果、まずこの庭園の開閉装置をロープで固定し、それから三人以上でしか動かない壁の向こうにあるハンドルへ行き、そこを出たら分かれよう、ということになった。


「しかし……これ、他のパーティに気づかれてほどかれたら終わりだな」

 シャロンがロープでハンドルをぐるぐる巻きにし、金属の箱を閉めてそう言ったところで、突然ドアがガチャリと開き、ビクッと後ろを振り返る。

「……なんだ、またおまえらか」

 入ってきたのはライミア率いる冒険者一行。しかし、やけに人数が少ない。

「おい、他の奴らは?」

「ああ、後から来るはずだ……来た」

 再びドアが開き、三人がどやどやと中へ入ってくる。本当よく会うなといいかげんうんざりしたような表情の茶髪の髭男に、グレンがはっと思いついたように、

「おお、ちょうどよかった。いい情報やるから、耳を貸せ」

「なんだ、どういうことだ……ああ、その装置か?おまえらもうそこまで進んだのか」

 苦々しげに言う彼に、にやりと笑ってみせ、

「そうだ、だから今気分がいいから、ここの部屋の秘密を教えてやるよ。見ろ、あそこに噴水があるだろ?」

「……それがどうした」

「あの中には長く黒い鎖みたいな虫がいて、宝を守ってる。そいつを倒すには、まず噴水の水を抜くのが一番いいんだが……ここからが厄介だ。あの噴水の装置は、大きな物音に反応して動くようになってる。ここにいて、一定の間、例えばドアを開けるとか、大音を立てると水が出るが、逆に静かにしていると次第に水が減っていくんだ」

「嘘じゃないだろうな」

「こんな嘘言ってどうする。ま、信じる信じないは勝手だ。好きにしてくれ。俺たちはもうここを出る」

 ライミアが仲間と噴水の中を確認するのを見送りつつ、三人で庭園を出る。

「おそらく、これでしばらくは時間を稼げるはずだ」

「……彼らが信じなかったらどうするんだ」

「なあに、半信半疑かもしれんが……一度は試すはずだ。少なくとも、俺ならそうする」

 やけに自信ありげに言うので、そこはそのままに、急いで次の開閉装置の場所へ向かう。


 コインの扉を二つ抜け、苦労して壁を押して壁向こうの開閉装置に辿り着き、装置に鎖を設置し、ハンドルには鉤を固定して回転させると、重いハンドルが軋みながらまわり、やがて止まる。


 その装置が簡単に戻らないよう装置に布などで細工をして、壁とガラクタ倉庫を通り、再び階段下まで戻ってくる。

「それじゃ、急ぎ慎重にな。また、水の大部屋で会おうぜ」

 グレンと手を振り一旦分かれ、他の冒険者の目をごまかしつつ、大部屋から毒の部屋へ行って装置を作動し、次々に水門を開いていく。

 また大部屋に戻り、半分以上減った水を眺めながらぬるぬると壁を渡り近づく蛭を切り裂きつつ、

「後はグレンが来るのを待つだけか……。そういえば、あいつの本気とか見たことないな。いったいどのぐらいなんだろう」

「さあ」

シャロンが疑問をぶつけると、アルがそっけなく返した。


 ……やっぱ普通だよな?


 グレンの言う冗談のように甘い雰囲気にはなりそうもなく、どうして皆私とアルをくっつけたがるんだろうな、なんて内心で首を傾げながら、一緒に来るのを待つ。


 途中何回も他のパーティがけげんそうに通り過ぎ、胃がキリキリと絞られるような心持ちで待ち続けていると、しばらくしてやっとグレンが到着した。

「わりぃ、一悶着あってな。だが、無事にやりとげたぜ」

 にっと笑って親指を立てて見せた彼は、服や顔が汚れているものの、元気そうだった。

立つようで立たせてない恋愛フラグ。

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